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端的に言おう。なんだ、この記事は。
最大限好意的に解釈するならば、「福島原発事故の影響で子供たちを疎開させた二重生活に苦しみ、農業漁業観光業にも不安を抱える福島の現状をレポート」と言う事になるだろう。また、報じている事実にも、(多分)虚偽は無いのだろう。
当該記事タイトルにも在る「いまだ福島覆う放射能の影」とは、放射能・放射性物質に対する不安と恐怖の表わした比喩であろう。実際、上掲記事中に次の一節がある。
1〉 政府お抱えの科学者や国際機関は、
2〉 福島の住民が浴びる放射線量は人体に害をもたらすほどではないと発表している。
3〉 だが、その言葉に安堵(あんど)する人など、ほとんどいない。
斯様な恐怖が未だ蔓延している、と言うのも(多分)事実なのだろう。それ故に上掲記事は、「虚偽報道・捏造報道ではない」と言う点では、「報道記事」たる資格が一応あろう。
だが、幾ら日本政府だって、国際機関・WHO(※1)まで「お抱え」には出来まい。
また、科学は、呪術でもなければ秘儀でもない。理解するのに相応の知性と努力と訓練は必要であろうが、実験データは実験データであり、再現試験も検証もクロスチェックも行えるようにするのが科学だ。而して、「放射線量による人体への影響」は、基本的に科学の扱う分野だ。遡ればチェルノブイリ原発事故でも、冷戦時代数多実施された地表核実験でも、さらには広島と長崎に対する原爆投下でも、相当な「人体実験データ」が得られている。確かに、長期にわたる低線量の影響を予測するのはこれらの「実験」だけでは難しいかも知れない。が、これに加えて動物実験データを加味すれば、相応の精度で予測出来よう。それこそ「政府お抱え」科学者と「環境保護団体お抱え」科学者とでまともに議論だってできるからこそ科学であり、科学者だ。(※2)
それでも、如何に科学的説明があろうとも、上記3〉や当該記事タイトルにある通り「放射能・放射線に対する不安・恐怖」を抱くことはありうる/出来る。だからそれを煽るのは簡単だ。AFP通信としては「放射能に対する恐怖を煽って商売繁盛」と言うビジネスモデルだって描けるだろう(※3)。
だが、そんな「放射能・放射線に対する恐怖」を煽られ、実際に抱いてしまう人にとってはたまるまい(※4)。だが、そんな人たちに是非にも理解していただきたいのは、以下の諸点だ。
① 放射線はエネルギーの一形態であり、物理現象である。見えない・感知できないからとて超自然的な或いは霊的なモノではない。
② 放射線と言うエネルギーや放射性物質は、この世に核兵器も原発も無かったころから存在している。
何れもごくごく当たり前のの事。上記②について補足するならば、核兵器や原発に放射性物質が集中しているのは事実であり、集中しているからこそ核反応を起こせるのも事実だ。だが、集中していない「薄い」放射性物質ならば、この世には満ち溢れている。
以前にも書いたが炭素14なんて放射性物質(放射性元素)は、この地球上にあるありとあらゆる炭素の中に一定比率で含まれている。炭素と言う元素は生命を形成する基本元素であるから、貴方や私の身体は勿論、ありとあらゆる動植物も、多くの飲食物も(※5)、さらには大気中の二酸化炭素も、一定割合の放射性物質(放射性元素)炭素14を含んでいる。
炭素14は半減期が長いから極微量ではあるが、放射線を出しつつ核崩壊して「炭素ではなくなっていく」。だが、生物が生きて、飲食し呼吸している限り、体内の炭素は循環しているから、生きた生物の体内の炭素が含む炭素14の割合は、地球上のそれとほぼ同一である。
生物が死ぬと、当然飲食も呼吸もしない。死んだ生物の体内の炭素は、体内に固定される事になる。こうなると外から炭素は入り込まないから、固定された炭素14は一定割合で放射線を出して「炭素でなくなり」、炭素14は減って行くことになる。その炭素14の減り方・減った割合を測定すれば、その生物が死んでからの時間が判る。「炭素14年代測定法」と言う奴で、恐竜やアンモナイトの化石が何億年前のものかとか、古代遺跡で発見された穀物からその遺跡の年代を推定できるのも、この炭素14測定法が一役買っている(※6)。
それ即ち、この地球上で生き、飲食し呼吸する生物は、放射性元素炭素14による「汚染」を免れようがない、と言う事だ。
この他に岩石や岩盤の不純物として存在する放射性物質は、バックグランド放射線量を成している。これらは炭素ほどには偏在しないので地域によって格差がある。とは言え、「何処にでもある」事に変わりはないし、核兵器や原発より遥か以前からある事にも変わりはない。
即ち、再三繰り返している通り、「放射性物質・放射線量を議論するには、定量的評価が不可欠だ」と言う事。
「ある/なし」の定性的評価で言うならば「この地球上は何処でも放射線・放射性物質に汚染されて」居り、それは「この世に核兵器も原発もないころからすでに汚染されている」事になる。まあ、それでもそんな「汚染された環境」で地球上の生命も人類も進化し繁殖しているのだから…定性的に考えても「放射能・放射線・放射性物質を恐怖する」理由は無いぞ。
つまりは、「いまだ福島を覆う放射能の影」=「放射能・放射線・放射性物質(※7)に対する恐怖」とは、多分に「未知に対する恐怖」であり、その「未知」は、無知に由来しているのである。確かに左様な恐怖を煽る報道や情報には事欠かないし、そんな煽りは上掲記事を含めて「政府の発表は信用できない」「政府お抱えの科学者は信用できない」などと煽るモノだから、なおさらだ。
だが、なればこそ。
無知ではなく英知が、未知ではなく知識が、感情では無く論理が、致命的なほどに重要なのである。
然るに、上掲AFP報道と来た日には、そのタイトルに端的に表れたとおり、無知につけこみ、未知を放置し、恐怖と言う感情を煽るばかりである。それは、福島原発事故被災者たちの恐怖感を煽るばかりではない。それと共に、福島ははじめとする被災地風評被害を助長し、福島差別を促進し、福島地元産業に打撃を与え(※8)、被災地復興を妨害しているのである。
マスコミに、今でも「社会の木鐸」たる気概が残って居るならば、為すべき事は、一般大衆の無知につけ込んで恐怖を煽る事ではない。
放射能・放射線・放射性物質とその影響について科学的に正しい知識を普及させ、啓蒙し、以って「無知に起因する恐怖」を打ち消す事こそ、使命であろうが。
そんな「社会の木鐸」たる気概は欠片も見えない。それどころか、全く逆の事を上掲記事は為している。だから言うのだ。「なんだ、この記事は」と。
己が無知の憐れな犠牲者は、上掲記事にも登場している。
4〉 ニヘイさんの妻、カズコさん(36)は、
5〉 たとえ受ける放射線量が年間100ミリシーベルト以下であっても、
6〉 放射線リスクのあらゆる可能性は全て回避したいと考えている。
ならば、鉛の部屋にでも住むが宜しかろう(※9)。それでも「放射性物質たる炭素14による汚染」を回避する事は、困難を極めるぞ
<注釈>
(※2) エセ科学者であれば、当然、話は別だ。(※3) なにもAFP通信が先鞭をつけたビジネスモデルではない。そんなマスコミ報道機関は、掃いて捨てるほどある。
(※4) 意図的にそんな「恐怖」を言い立てる輩は知った事ではない。そんなのは、所詮強請集りの類であろう。(※5) 水ならば、含まれる炭素の少なさに応じて、炭素14も少ないだろう。だが、炭酸水にすると、途端に多くなる。アルコールも炭素を含むから、酒は全て炭素14を免れないな。(※6) 映画「テルマエ・ロマエ」では、ルシウスが着ていたトーガ(上着)を炭素14測定法にかけていた。尤も、タイムスリップで持ち込まれた品だから「正真正銘古代ローマ帝国時代のトーガ」とは判定されず、「測定不可能なくらい真新しいトーガ」と出る筈だ。
(※7) 厳密にいうならば、核崩壊を起こすなどして放出されるエネルギーが「放射線」。核崩壊を起こす物質が「放射性物質」。放射線を出す能力が「放射能」http://www.jaero.or.jp/data/02topic/fukushima/knowledge/01.html(※8) 上掲記事が報じる「福島産物の価格低迷」は、正にその一事象だ。