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第二幕 奮戦
公平に言って、日本防衛の任にある自衛隊三軍は、いくつかの点で世界一の軍隊である。曰く、海上自衛隊の操艦術。曰く、陸上自衛隊の戦車砲命中率。航空自衛隊の空戦技術が世界一かどうかは異論もありそうだが、戦闘機としては些か旧式であるFー4ファントムや、空戦性能には問題なしとしない支援戦闘機F-1で米空軍の主力戦闘機F-15に対し空戦訓練で勝利を収める事もあるぐらいだから、世界トップクラスであることは間違いなかろう。だが、対する中国人民解放軍空軍は、何しろ数が多かった。それも、先制第一撃を担う第一波の数ばかりではなく、第二波、第三波も大規模な攻撃であった。航空自衛隊戦闘機部隊と地対空ミサイル部隊は、「防空自衛隊」のあだ名に恥じぬ戦果を挙げたが、完璧というわけには行かなかった。人民解放空軍の第一撃による我が方損害は、迎撃に出た戦闘機部隊や発射した対空ミサイルの消耗も含めて、「我が方の損害極めて軽微なり」と看過しうるものではなかった。看過し得ない損害を被りつつも、我が方は、地対空ミサイル部隊、戦闘機部隊、航空基地はその機能を保った。最大の問題は、弾薬の欠乏、分けても対空ミサイルの不足であった。自衛隊三軍はそうでなくても弾薬の備蓄に乏しい。航空自衛隊は自衛隊三軍の中では比較的弾薬備蓄のある方だが、それとて戦時の大量消耗を支えるには程遠い。かかる緊急事態を受けた日本政府は、国内メーカーに弾薬・ミサイルの大量生産を命じると共に、米国にも供給を依頼したが、前者は成果が上がるまでに時間がかかり、後者も米国政府の決断と長距離輸送の時間が必要であった。一方の人民解放空軍は、多大な出血を強いられたが、人民戦争の伝統を誇る人民解放空軍の物量に任せた航空攻撃に、疲弊や頓挫の兆候は未だ見られなかった。我が自衛隊の防空戦闘が、弾薬の欠乏から消極的防衛に転じざるを得なくなると、人民解放軍はこれを好機と見たか、揚陸作戦部隊による渡洋侵攻に踏み切った・・・・
渡洋侵攻と言うこと
言うまでもなかろうが、戦争というのは凄まじいまでの消費である。その主な担当者である軍、特に戦闘部隊の人員装備が損耗・消耗を覚悟しなければならないのはもちろんのこと、たとえ圧倒的な勝ち戦であっても消耗するのが燃料・弾薬である。
故に、戦史を紐解けば明らかなところだが、戦争の相当部分は「補給」で決まる。「素人は戦術を語り、玄人は補給を語る」などと言われるゆえんだ。消耗損耗した人員・装備・燃料・弾薬をいかに効率よく補充するかは、かなりの部分補給にかかっている。補給すべき対象としては、かつては食料や馬糧が圧倒的だったそうだが、現代戦では燃料と弾薬が圧倒的だ。
だが、「補給」と言うのは基本的に今すでにこの世にあるものを、たとえば本国から最前線へと運ぶこと。それ故に「内線の利」も含めて渡洋侵攻を受ける側には有利、渡洋侵攻する側に不利なのが「補給」だ。物理的に補給線の長短もさることながら、補給線を海の向こうまで伸ばすことは、容易なことではない。従って、補給という観点からすると、今回の場合渡洋侵攻する人民解放軍にとって不利で、我が方に有利だ。
しかしながら、補給とは先述の通り、「今すでにあるものを動かす」事。まだ無いものは、海外から買って来るなり、作るなりしなければならず、「調達・生産」という補給以前のステップが必要になる。
食料や燃料ならば、敵の物資を分捕るなんて方法も無いではない。だが、弾薬となると、使えそうなのは拳銃弾ぐらいで、小銃弾すらおぼつかない。況や砲弾をや。
分けても分捕り品を当てに出来ないのは、「高価な弾薬」誘導兵器である。ミサイル、魚雷、誘導爆弾など。これらには通常、誘導を開始ないし継続するためのシステムが必要であり、そのシステム丸ごと分捕らない限り、誘導兵器単体ではからきし役に立たない。従って、「自軍の誘導兵器備蓄量」というのは、結構重大なのだが・・・端的に言ってこの点で、我が国、我が三自衛隊は、「心許ない」と言うより「寒心に堪えない」と言うべきだろう。
そうでなくても、平時の軍隊は「弾薬の備蓄」を持つ事が難しい。それは民間の、経営の目から見れば「不良在庫」と思われかねず、「ジャストインタイム」なんて考え方からすると、「工場から納入された弾薬を、そのまま演習場で使い、備蓄を持たない」のが理想状態とされ兼ねない。幸い我が自衛隊とてそんな「在庫ゼロの理想状態」にはほど遠いが、「戦時に備えての備蓄」にはもっと遙かに遠い。
従って、日中開戦後、自衛隊が直面する不可避の課題は、「弾薬不足」。分けてもミサイルの不足であり、制空権確保が渡洋侵攻の条件である以上、真っ先に不足するのは対空ミサイルであろう。
むしろ、日中開戦後に我が自衛隊三軍が直面する危機が、「ミサイル不足」ぐらいであるならば、これは相当な「勝ち戦」。楽観的予想とするべきである。それは、ミサイル以外のもの、分けても兵員・人員が不足に至っていないと言うことであり、死傷者が少ないと言うことである。
現代戦に於けるパイロット、特に戦闘機乗りは、かつて以上に貴重な戦力なのであるから、対空ミサイルが不足したからとて、間違っても機関砲攻撃や特攻=体当たり攻撃やらで死傷しないよう、祈るばかりである。
機関砲攻撃を否定するつもりはないが、人民解放軍の伝統的戦術が人海戦術であることを想起すべきだろう。我が国の戦闘機パイロットは、往時のBattle of Britain鋸路よりもさらに「かくも少なき人々」である。なおかつ、日本の人口約1億は、往時のイギリス以上であるから、「人類史上、かくも多くの人々が、かくも少なき人々に頼ったことはかつて無い。」と言うチャーチル名演説にある「記録」は、21世紀の日中戦争に於いて、破られることになろう。