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AFP通信が報じるのは…タイトルにも引用した通りだ。「ルーマニアでは、2016年に太陽光発電が原子力発電を上回るかも知れない」と言う報道。脱原発原理主義者の東京新聞ならば、一面トップにするか号外でも出しそうな勢いの見出しだ。
だが、中身を読めば・・・
1〉 「わが国(ルーマニア)の太陽光発電所の発電容量は年内に5万~10万キロ
ワットに達し、
2〉 2013年末には50万~100万キロワット、そして2016年には150万キロワットを上
回ると見込んでいる」
3〉 一方、チェルナボーダ(Cernavoda)にあるルーマニア唯一の原子力発電所
の原子炉2基の発電量は合計約140万キロワットで、
4〉 同国のエネルギー需要の18%に相当する。
上記1〉~2〉と上記3〉~4〉を比較しての当該記事見出し「2016年に太陽光が原子力発電を上回るか、ルーマニア」であるらしいのだが、実に全く呆れる他ない。「上回る」のは「発電容量」でしかないのだから、このタイトルは殆ど詐欺だ。
理由はあまりにも明らかだろう。稼働率だ。
原発はその発電量を制御できる。発電容量目一杯でフル稼働させることも、さらには1年間連続運転も、必要ならば可能だ。即ち、必要ならば、稼働率は100%近くすることが可能なのが原発だ。
一方太陽光発電の発電量は、出来高払い。その発電容量による発電は、「良く晴れた夏の昼間、正午近く」に限定されて、発電した電気を無駄に消費する事は出来ても「必要に応じて発電」することはできない。その発電量は日照量によって、夜間は全く発電できない。故に太陽光発電の稼働率は、以前記事にした通り、日本における日照量から計算して約1/4(*1)にしかならない。実際の稼働率は千葉においてさえ約1/8だ(*2)。ルーマニアの晴天日が日本より多いのでない限り、太陽光発電の稼働率はさらに下がるだろう。
ああ、ルーマニアに於ける太陽光発電の稼働率を推定するには、上記に取り上げたような統計や「理系の頭」による定量的評価が必要と、言えるかもしれない。だが、「太陽光発電は夜には1kwも発電できない」と言う常識さえあれば、原発と太陽光発電を発電容量だけで比較して「上回る」などと報じる浅薄さ、バカらしさは、文系であろうが定性的評価であろうが理解出来て当然であろう。
それを理解して当該タイトルを付けたのならば、それはやはり意図的な「数字で嘘を吐く法」に他ならない。
それすら理解せずに当該記事を書いているのならば、記者として失格であるほどに基礎知識が不足していると言う事。どちらにしてもAFP通信の名誉と言うには程遠い。否、一大汚点と言うべきではないのか。
5〉 ANREのNicolae Havrilet長官によれば、ルーマニアにおける再生エネルギー
利用の割合は現在8~9%で、
6〉 2020年までにこの数字を20%にすることを目指している。
とも当該記事は報じているから、上記6〉の「再生エネルギー利用率20%」は上記4〉「ルーマニア唯一の原発によるエネルギー需要の18%発電」に近い事から、上記5〉で言う「再生エネルギー」の主な部分が太陽光発電であるならば、「太陽光発電容量は2020年までに2016年のさらにの8倍以上に引き上げる」と言う、凄まじく野心的な筈である。何故ならば、先述の通り日本の千葉でさえ「太陽光発電の稼働率は約1/8」であり、2016年で「ようやく発電容量で太陽光発電が原発を上回るだけ」だからである。その2016年ですら、上記1〉~2〉からすると「太陽光発電容量は今年末の15~30倍」であるのだから、2020年の目標は、実に「120倍~240倍」の筈である。ルーマニアは日本の2/3ほども面積があり、その1/3が平地だそうだから、我が国より平地は多いだろうが、150万キロワットの8倍と言うと、50MW級メガソーラーで240カ所必要なのだぞ。無論、理解しているのだろうな、ルーマニア人。無論、知っておろうな、AFP通信。
而して、その240カ所の50MW級メガソーラーが、ルーマニア唯一の原発を漸く代替するのである。それも「私の自然エネルギー推進論(*3)」で論じたとおり、大容量高効率畜電技術が実用化普及した上で、である。上記3>の通り「原子炉2基で140万キロワット」と言う事は原子炉1基当たり「0.7GW」だから、最新型の「1基1GW 」に比べると大分小さい発電容量の原子炉でも、だ。
ああ、ひょっとしたら誤解かもしれない。上記5>~6>は「ルーマニアにおける再生エネルギー利用の割合」と言っているから、「電力需要を満たす発電量に占める割合」ではなく全く別の事、かも知れない。「ルーマニアの原発を代替できるほどの太陽光発電を2020年までに手に入れられる」と主張しているのではない、かも知れない。
だが、今ルーマニアで稼働している唯一の原発を代替するのに50MW級メガソーラーが240カ所必要であると言う議論は(*4)変わらない。そんなことが本当に可能ならば、それはルーマニアの我が国よりはだいぶ多そうな平地と、未だコンセプトすら怪しいが大容量高効率畜電技術の完成実用化普及のおかげであろう。後者は兎も角、前者は我が国では不可能で…しかもこれが、たった2基の原子炉を擁する1カ所の原発の代替だ。(*5)
新ためて痛感するな。脱原発なぞ、我が国では愚挙にして暴挙である、と。
7〉 「風力発電が最大限に達した今、太陽光が最高の投資機会を提供している」
〆になって居るこのANREのNicolae Havrilet長官のこのセリフは、「太陽光発電のバラ色の未来」を意味しているかのごとく報じられている。だが、このセリフは、少なくとも「再生可能な自然エネルギー」の一翼を担う風力発電に対する弔鐘であるし、大容量高効率畜電技術なぞコンセプトすら怪しい現状に於いては「太陽光発電への投資」は健全な投資とは言い難い。否、それに本当に電力を依存するならば、凄まじいばかりのギャンブルである。
<注釈>
(*4) 概算ではあるが。(*5) よく知られる通り、福島第1原発には6基の原子炉がある。古い原発なので、原子炉1基当たりの発電容量はもうちょっと小さいが。