応援いただけるならば、クリックを⇒ https://www.blogmura.com/
あまり得意ではないし、類推というのは危険でもあるのだが、今回は譬え話から行こう。
貴方に買いたいものがあったとする。そこそこ高価なもので、たくさんは買えない。特にここのところ、値段が上がっているものだが、貴方としてはどうしても期限までに買わねばならない事情まであった、としよう。
予算が限られているのならば、取るべき道は大凡二つだろう。買う量を抑えて予算枠に収めるか、いろんな店を調べるなり、値切るなりして値段を下げさせるか。
無論、両者を併用する「折衷案」もあろう、が、特に後者を実施する場合は、貴方の「どうしても買いたい」気持ちや「期限までに買わねばならない事情」を売り手に知られるのは大変な不利となろう。買う気があって、それも期限までに買わねばならないと分かっている買い手ならば、ほどなく買うに決まっているのだから、売り手としては値切りに応じる必要がない。売り手が他に沢山いて競合しているとか、商品が生もので早く売らないと売り物にならなくなるとか、売り手側に特別な条件がなければ、買い手の不利は殆ど、自明だろう。
さて、火力発電の燃料たる石炭、石油、天然ガスは、生ものではない。売り手は複数いて、昔よりは随分増えたが、それでも限定的だ。需要も好調の売り手市場。その火力発電所の燃料を、「電力外車の値切り努力が足りない」と、東京新聞社説は主張している。
転載開始=========================================
【東京社説】東電値上げ もっと燃料費を削れhttp://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012070702000114.html
東京電力の家庭向け料金値上げ申請に対し、経済産業省の専門委員会が燃料費削減などを求める報告書をまとめた。燃料が高ければ料金は高くなる。高値買いを放置してきた政府の責任も重い。
東電が申請した電気の総原価は年間約五兆七千二百億円。経産省の電気料金審査専門委員会は競争発注拡大による修繕費削減などを積み上げたが、削減額は五百億円前後にすぎない。平均10・28%の値上げ申請圧縮は9%台にとどまる見通しだ。
東電は福島第一原発事故で財務状況が窮迫しているとはいえ、値上げには説得力のある説明が欠かせない。だが報告書は釈然としない点が目につく。原価の約四割、二兆四千七百億円に上る燃料費の削減はわずか百億円と極めて少ない。削減努力を怠った揚げ句に値上げでは消費者はたまらない。
福島の事故で火力発電依存が強まり、液化天然ガス(LNG)の購入額が激増した。二〇一一年度は火力発電全体の七割、一兆七千七百億円をLNGの購入に費やした。やむを得ない面もあるが、世界一の高値で輸入している現実に報告書は深く切り込んでいない。
天然ガスは世界的に余剰感が強まり、欧州は百万BTU(英国熱量単位)十二ドル前後で輸入し、韓国はシェールガスの量産が始まった米国と十ドルで輸入契約を結んだ。しかし、日本は中東などから十七ドルの高値買いだ。専門委は「直近の取引実績」に基づいて削減するよう求めたが、甘すぎる。
電力会社は価格が上がれば、その分を自動的に料金に上乗せできる原燃料費調整制度で守られており、高値買いでも経営圧迫の心配がない。一ドルでも安ければ値上げ幅を縮められるのに産ガス国に値下げを迫っているのか疑わしい。
最終結論は枝野幸男経産相らに委ねられたが、その際、東電に交渉能力を飛躍的に高めるよう求めるべきだ。稚拙とさえいえる燃料調達は東電だけでなく、他の九電力も大差ない。複数の輸入企業を一括して交渉し、値下げを執拗(しつよう)に迫る韓国の事例も参考になる。
併せて、専門委は人件費についても「公的資金の注入企業として一層の引き下げを求める強い意見がある」と枝野氏に政治判断を促した。
東電の年収20~25%削減に対し、同じように公的資金を受けた、りそなホールディングスや日本航空は30%程度引き下げている。消費者の厳しい視線にも耐えられる決断を求めたい。
=================================転載完了
責任は全て他人のもの、成果は全て自分のもの
さて、如何だろうか。
率直に言って、脱原発原理主義に凝り固まった東京新聞としては珍しいぐらいに正論である。まともなことを言っていて、表面上は東京新聞社説に反論することは難しいように見える。当該東京社説を要約すると、以下のようになろう。
(1) 東電の電力料金値上げには納得いかない
(2) 原価の四割を占める燃料費の削減努力が足りない
(3) 東電の燃料価格交渉力を高めよ
(4) 東電の人件費も削除せよ
((5)) 必要経費は値上げに転嫁出来るから、努力が足らないのだ
「((5))」と上記五番目の要約を二重括弧としたのは、直接的にはそう主張していないから、だが、言わんとするところはこうだと断じて良かろう。
何しろ「正論」だ。上記(1)「電力料金値上げ反対」であり、要は、値上げにコストアップが転嫁できるから、燃料購入にしても交渉力及び交渉努力が不足しているのだ(※1)、と扱き下ろす。「独占企業として企業努力もせずに値上げする大企業=悪役たる電力会社」と図式も明白だ。
だが、ちょっと待て。
この社説は先述の通り脱原発原理主義の東京新聞社説だ。今わが国にある原発の大半、50基ほどが大半は内部に発電可能な核燃料を抱えたまま稼働もせず発電もせず「電力会社経営上の重荷」となっているのはほかでもない、その東京新聞はじめとする脱原発原理主義共の主張が通ったため、点検に入って稼働停止した原発が殆ど再稼働できていないためだ。
今回電力料金値上げの理由となった燃料費、その燃料を予定・計画以上に、緊急に輸入しなければならなくなったのは、本来ならば稼働し発電しているはずの原発が、稼働・発電できず、それを補うために火力発電所をフル稼働している、そのためだ。
なおかつ我が国の「原発稼働ゼロ」という事情は隠しようもない。先述の例え話で言えば、「買う気」も「期限までに買わねばならない事情」も、全世界的に知れ渡っている、買い手に不利、売り手に有利な状況だ。上記(3)「東電の燃料価格交渉力を高めよ」としたり顔で抜かすのは結構だが、交渉上大変不利な立場に東電はじめとする電力会社を追い込んでいるのは、再稼働ままならない原発であり、原発の再稼働を未だに阻止だのなんだの平気な顔で抜かしている、東京新聞はじめとする脱原発主義者共だ。
そればかりではない。この7月から始まった再生可能な自然エネルギーの強制高価買取制度はさらに電力料金を押し上げる効果がある。何故ならば、強制的に買い上げさせられる「再生可能な自然エネルギー」による発電の価格は、原子力よりも火力よりも格段に高価であるから。これによる電気料金値上げが未だ話題に登らないのは、再生可能な自然エネルギーによる発電量が微々たるものであるから、に過ぎない。これとて、今後「再生可能な自演エネルギー」が普及すれば、当然、電力料金値上げに跳ね返ってくる。
なおかつこの「再生可能な自然エネルギー」買電料金は、法律で決まっているから、電力会社としては逆立ちしても交渉能力も何も発揮しようがない。
かくも不利な立場に電力外車を追い込んでおいて、その追い込んだ責任は全く無視して、「電力値上げは企業努力が足らない」と、どの面下げて抜かすのだ、東京新聞。
少なくとも、東京新聞ご就寝の「再生可能な自然エネルギー普及」にはさらなる電気料金値上げが必須であることを、明記すべきであろうが。
<注釈>
(※1) 「普通の企業はなかなかそんなことはできない」という嫉妬もあろう