兵士や警察官は背が低くてもOK? 伊議会で規定改正法案可決へ  http://www.afpbb.com/article/politics/2879783/8992105

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 「身強く猛き兵(※1)」たる私にはどうにも想像し難いのだが、身長と言う奴は殊に背の低い男性にとっては「悩みのタネ」であるらしい。ヒットラーやナポレオンがその「カリスマ」性を発揮したのは身長にコンプレックスがあったから、即ち「自分がチビだと言う悩みを抱えていたから」などと言う実しやかな説もあるぐらいだ。卑近な例では北朝鮮は金成日がシークレットシューズ( 背を高くするためにやたら踵が高い靴 )を愛用していた事が挙げられよう。
 
 確かに、夫が妻より背が低い夫婦を「蚤の夫婦」などと揶揄する表現があるし、成人男女で言えば男性の平均身長は女性の平均身長より高いから、自分の女房なり恋人なりより背が低いと言うのは「男のプライドが許さない」と言う事はありそうな話だ。
 
 では、戦場で敵軍に相対したら?そのとき身長は、どう、作用するだろうか。
 
 戦争において「兵士の身長」が直接的に重大だったのは、実は近代の初頭、単発銃が兵士の標準装備となった頃であろう。肩寄せあうように一列横隊を為して一斉射撃を行うこの頃の戦術では、敵の一斉射撃の効果を減殺させるため、敵に射距離を誤認させることが重大だった。イギリスのバッキンガム宮殿を守る近衛兵が被るような「やたら縦に長い帽子」が採用されたのも、プロイセンはフリードリッヒ大王の父王が欧州中の大男を駆り集めて「ポツダム巨人兵団」を編成したのもこの頃だ。縦に長い帽子も、大男も、自軍の兵士を大きく見せ/大きくして、敵に「距離が近い」と誤認させ、命中率も殺傷力も低い過早・遠過ぎな射撃を誘う事で、有利になった。過早な射撃をしてしまった敵は、次発装填まで時間がかかったから、自軍は落ち着いて射撃を食らわし、そのまま混乱する敵に銃剣突撃をかける事もできた。逆に言えばそれぐらい近い距離からの射撃戦であり、それぐらい長い装填時間だったと言う事だ。
 
 とは言え、「兵士の身長」が直接効果を表すのはこの頃位。過去に遡ると、刀槍取っての白兵戦では確かに体格の優劣も侮り難いが、それでも直接的ではなかった。兵士の訓練や技量、或いは士気が、体格の劣位・低い身長を覆している。
 銃火器が発達して連発銃が普及しだすと、「過早な敵の射撃を誘う」意味は大いに減じたし、機関銃はじめとする全自動射撃は、「隊伍を組んでの前進」を自殺行為にした。方陣は散兵線に取って代わられ、砲弾爆弾地雷などの爆発物の発達は、敵味方とも兵士密度を希薄なものとし、「敵の姿どころか、味方の姿さえ直接見ることが稀な」戦場となった。昨今話題の「無人機戦争」は極端にしても、車両航空機に乗り組む乗組員には「高い身長」が求められなくなって久しい(※2)から、「兵士の身長」、特に「高い身長」の持つ意味は、儀礼的な要素が主となった、と言えよう。(※3)

 であるが・・・AFP通信報じるところでは、イタリア軍とイタリア警察には身長制限・下限があり、一定の身長がないと志願すらままならないのだそうだ。
 
1>  現在の規定では、男性は165センチ以上、女性は161センチ以上の身長がないと軍や警察への志願ができない。
 
 イタリア人は、西欧人の中では背の高い方ではない。むしろ低い方だ。上記の規定も、「女性の161センチ以上」は兎も角「男性の165センチ以上」と言う規定は日本人で考えても相当緩い基準だろうが、それでもこの規定に引っかかって志願できないイタリア人の投書から、この規定の撤廃が議論され、可決される見通しだと言う。
 
 儀仗兵だとか、近衛だとか、それこそ儀礼的な組織に身長下限があるというのは理解するが、全イタリア軍、全イタリア警察にこんな身長規定があったと言うこと自体が私には驚きであるし、この規定の撤廃を「西側諸国の一国民」として歓迎もする。
 
2> 法案賛成派は「背が低い人の方が得意な任務もある」と主張している。
 
と報じられる、同法案賛成派の主張は全くの正論だ。

 一方で同法案反対派はと言うと・・・・
 
3> 反移民政策を推進するポピュリスト政党、北部同盟(Northern League)のジャコモ・キアッポリ(Giacomo Chiappori)議員は、
4>「背の低い兵士は中国人との戦争には十分かもしれないが、
5> ロシア人やアメリカ人が相手ならばとんだ恥さらしだ」と述べている。

・・・先ずポピュリスト政党」ってのが自称かAFP通信の報道かが一寸気になる。「ポピュリスト」とカタカナで書くとなんとなくかっこよいが、意味は大衆迎合である。「大衆迎合政党」と自ら名乗っているのだとしたら、如何に衆愚政治に堕した「古代ローマの末裔(自称)」とは言え、情けない事この上ない。AFP通信が報じているのだとしたら大分マシだが、悪い評価であることは違いがない。

 さらにはその発言内容と言うと・・・上記4>背の低い兵士は中国人との戦争には十分と言うのも随分差別的発言だが、上記の規定では一寸「十分」とは考えられない。まあ、当人も「かもしれない」と言っているから、それは置くとしようか。

 問題は上記5>ロシア人やアメリカ人が相手ならばとんだ恥さらしだの方。イタリア軍は、ロシア軍やアメリカ軍相手に身長で、身長だけで、勝つ心算なのかね。
 
 因みにイタリア軍は、第一次、第二次両大戦の実績で、「腰抜けの弱兵」と言う事で定評がある。
 
 「身長頼みで勝とうとするからだ」と思えてしまう(※4)のは、私だけだろうか。


<注釈>

(※1) 即ち、吉田兼好公認の「友とするに悪き者」 

(※2) 一番最後まで「高い身長」が好まれた乗組員は、戦車の装填手ではなかろうか。自動装填装置はまだ完全に普及した訳ではないから、「装填手の膂力」が求められなくなるのは、まだ先だろうが、それとて、求められるのは基本的に膂力であって、身長や腕の長さではない。 

(※3) 自分で自分の首を絞めているようだが、史実・事実なんだから仕方がない。 

(※4) 急いで付け加えると、イタリアはその伝説的な弱卒ぶりに関わらず、第二次大戦の戦勝国に収まっている。最後の最後に連合国側に寝返ったため、だ。「今度は、イタリア抜きでやろうぜ!」と冗句の種にされる所以だ。
 だが私としては、寝返って戦勝国に収まったことよりも、その為に戦後も暫くの間戦艦保有国であり続けたことの方が許し難い。
 長門は、長門はなぁ!史上初の16インチ砲戦艦にして七姉妹が長姉の長門は、大戦を生き延びたというのに!!・・・・・(絶句)