AFP通信といえば、世界的にも有名な通信社ではあるが、しばしば妙な報道がある事は知っている。2年前の北朝鮮弾道ミサイル発射実験では、北朝鮮べったりの報道記事を垂れ流していたし、シーシェパードびいきも酷く、シーシェパードの発表を右から左に流すものだから、Ady Gill号が三回も沈没したりしている。「1000万年
前の恐竜」って妙な記述を平気でしてくれたりもするから要注意なのであるが、今回の報道は一見「変」と判り難いから、尚始末に悪い。

 何でも、北欧はデンマークが「再生可能エネルギーによる発電」を強力に推進するのだそうである。記事のタイトルからして「デンマーク、2050年までに全発電を再生可能エネルギーに」と言うのだから、相当ドラスティックな話だ。
 だが、その冒頭近くに曰く。

1>  今世紀末までに発電量の3分の1を再生可能資源でまかない、
2> 2050年までには全発電量を再生可能エネルギーに切り替える

 ???「発電量の3分の1を再生可能資源でまかなう」方が「全発電量を再生可能エネルギーに切り替え」た50年後になる???「全発電量を再生可能エネルギーに切り替えた」ならば、「全発電量が再生可能資源でまかなわれ」ているのではないか????

(1) 時系列が逆で、「発電量の3分の1を再生可能資源でまかなう」のは2050年が目
標で、「全発電量を再生可能エネルギーに切り替え」が今世紀末を目標にしてい
る。

(2) 「発電量を再生可能資源でまかなう」のと「発電量を再生可能エネルギーに切
り替える」のは、全く別の意味である。

(3) 2050年までに「全発電量を再生可能エネルギーに切り替える」のだが、その後
電力需要が今世紀末までに3倍以上に伸びるため、今世紀末では「発電量の3分の1しか再生可能資源ではまかなえない」=「今世紀末の発電量は2/3が火力や原子力など再生可能資源以外による」

(4) 「全発電量を再生可能エネルギーに切り替える」目標時期は「2150年」であ
り、「2050年」は誤記である。

 言うまでもなかろうが、上記(2)と(3)は結構無理矢理な解釈であり、そんな無理矢理な解釈をしないとAFP通信記事タイトルにもなっている「2050年までに全発電を再生可能エネルギーに」なんて事態は実現しそうにない。無論、それとて欧州統合電力網、より具体的にはフランスの原発始めとする欧州諸国の制御可能な発電
力の恩恵あればこそ可能な冒険なのであるが。「電力が足りなくなったら、外国から買える」と言うのは実に羨ましい利点ではあるが、そんな特殊事情ゆえにドイツの「ナンチャッテ脱原発」同様に我が国では追随しようも無い「冒険」なのである。
 それにしても・・・「私の自然エネルギー推進論(*1)」で論じたとおり、大半の
「再生可能な自然エネルギー」の大きな欠点は「発電量が制御できない事」。その
ために「大容量の蓄電技術が確立するまでは発電量の主力足り得ないこと」にあ
る。報道には、

3> デンマークでは、再生可能エネルギーでバイオマス発電が占める割合が既に
70%に達している。

とあるから、発電の制御と言う点では火力発電並みであるバイオマスを「再生可能エネルギー」の中心とするようであり、そうであればこそ(2050年までにか2150年までにか判らないが)「全発電を再生可能エネルギーに」なんて事が計画出来るのだろう。

それはまた、その発電料を支えるバイオマスを生産する(多分)ノルウェーの広大な原生林あればこそ、だろう。また、左様な背景あればこそ、「再生可能な自然エネルギー」に将来的には全面依存(多分)してしまえるのであり、問題はバイオマス燃料発電によるコスト、ということになろう。
 それにしたって、最速でもその「再生可能な自然エネルギーへの完全移行」するのは2050年。約40年後のこと。ひょっとすると(上記(4)に従えば)更に100年後かもしれない、遠大な計画だ。

それすなわち、今かますびしい大飯原発はじめとする我が国原発の再稼働問題を考える上で、ノルウエーの遠大な「再生可能エネルギーへの完全移行計画」は、全く参考にならない、ということだ。

<注釈>


誤報訂正


 その後、上記1>~2>の表現は、次のように改められたようだ。

4> 2020年までに発電量の3分の1を再生可能資源でまかない、
5> 2050年までには全発電量を再生可能エネルギーに切り替える、というものだ。

 これでようやく辻褄は合う。
 辻褄が合うだけで大胆な計画であることも、日本が「追随できる」ような代物ではないことも、変わりはない。