夜も稼働するスペインの太陽熱発電所 http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2866562/8670260

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「夜も稼動する太陽熱発電所」と言うので、我が目を疑った。それは言語矛盾に近い。「夜」は普通太陽が出ていない(*1)のだから、「太陽熱発電所」が稼動する筈が無い。

続いて発想が働いた。「いや、待て。月光だって元は日光だ。星の輝きも恒星の光であるから太陽光に近い(*2)。無論、それらが束になっても昼間の太陽には適わないエネルギー量だが、微々たる量でも「稼動」だけなら可能・・・なのか?」だとしたら、太陽熱発電は私の想像を凌駕する急速な進歩を遂げている事になる。これは看過できない事態だ!早速続きを読んだ。
 ヘマソラール(Gemasolar)と名付けられた此の太陽熱発電所は、以下のように報じられている。
1>  反射鏡が太陽光をタワーに集め、容器に入った溶融塩に熱をためる。
2> タワーに集まる光の強さは地球に届く太陽光の1000倍にもなり、
3> 溶融塩の温度は摂氏500度を超える。
4> この熱で蒸気を作ってタービンを回して発電する。
 何の事はない、昼間の間に太陽熱を「容器に入った溶融塩」に蓄積しておいて、夜間はその熱を使って蒸気タービンを回すのだと言う。言わば「蓄熱機能付き太陽熱発電所」だ。明記はしていないが昼間も蒸気タービンを使って発電しているのだろう(*3)。ひょっとすると、昼間は太陽熱で直接水を加熱しているのかも知れない。その方が配管は複雑になりそうだが、効率は良さそうだ。

5>  灯台のように輝く中央タワーを眺めることができる。
6> 195ヘクタールの円形状に配置された2600枚の反射鏡が集めた光でタワーは輝いている。
7> 反射鏡1枚の面積は120平方メートルだ。

120平方メートル×2600枚 = 312000平方メートル = 31.2ヘクタール であるから、上記6>「195ヘクタール」と言うのは敷地面積で、鏡の占有率は

31.2 ÷ 195 = 0.16 = 16% と言う事であるらしい。

一方、「灯台のように輝く中央タワー」の集光部実効面積は、上記2>「タワーに集まる光の強さは地球に届く太陽光の1000倍」から推算すると、

312000平方メートル ÷ 1000 = 312平方メートル  鏡2.6枚分なのだから当然だが、結構な大きさの集光部だ。

8>  年間の稼働時間は、通常の太陽光発電所が1200~2000時間ほどのところ、
9> ヘマソラールは6400時間に上る。
10> このためヘマソラールは、エネルギー貯蔵機能を全く持たない発電所よりも60%以上多くエネルギーを生産することができる。

と言う事は、稼働時間では5.3倍~3.2倍に達するのに、発電量は1.6倍にしか過ぎない。と言う事は、仮に普通の太陽熱発電所が稼動出来る時間はこのヘマソラールは従来の太陽熱発電所並みの効率で電力を発電している、と仮定すると、伸びた4.3倍~2.2倍分の稼働時間が増えた「60%以上」の発電量を稼いでいる筈だから、この間の時間あたり平均発電量は、「従来の太陽熱発電が稼動できる時間の平均発電量」の0.14倍~0.27倍となる。つまり最大に見積もっても3割に満たない。
 無論、実際には2600枚総計31.2ヘクタールの鏡から集められた熱は、溶融塩を加熱する事と水蒸気を発生させ発電する事の両方に使われ、その分「従来の太陽熱発電が稼動できる時間の発電量」は減る筈であるり、「従来の太陽熱発電が稼動できない時間の発電量」は増える筈だ。

そうは言っても、「トータルで1.6倍の発電力。発電量60%アップ」と言うのは仲々魅力的な話しである。が、逆に「魅力的」であるが故に、眉に唾がつく。何故ならば、太陽熱を溶融塩でもどこでも蓄熱する事に拠って「太陽エネルギーに由来する、再生可能な自然エネルギーによる発電力を制御可能とし、蓄積する」事は原理的に可能であろうが、同時に原理的にその「蓄電」には損失がつき物である。具体的には「摂氏500度を超えて熱せられた」溶融塩から発電に使われずに逃げる熱であり、「灯台のように輝く」事で失われる光エネルギーだ。ヘマソラールならぬ従来型の太陽熱発電ならば、これらの損失は無い。年間稼働時間が上記8>「1200~2000時間ほど」に限られるが、その稼働時間での発電効率は従来型太陽熱発電の方が上のはずだ。

言い換えれば、上記10>「ヘマソラールは、エネルギー貯蔵機能を全く持たない発電所よりも60%以上多くエネルギーを生産することができる。」とヘマソラールと比較している「エネルギー貯蔵機能を全く持たない発電所」は、「120平方メートルの反射鏡2600枚を擁する従来型太陽熱発電所」ではない筈だ。

「120平方メートルの反射鏡2600枚の内、ヘマソラールも太陽光のあるうちは発電に利用している枚数分と同じ数の反射鏡を擁する従来型太陽熱発電所」が比較対象である筈だ。そうでないと、蓄熱機能を持って発電しているヘマソラールの方が「発電量が多い」ことの説明がつかない。

つまり・・・以前記事にした産経記事にあった「似非永久機関であり、変わり水車にしか過ぎないシロモノ」程あからさまではない(*4)が、此のヘマソラールも一種の詐欺である。

AFP通信は、産経よりは賢明であるらしい。「夜も稼働するスペインの太陽熱発電所「ヘマソラール」」と言う当該記事のタイトルに嘘はなさそうだ。

だが、「エネルギー貯蔵機能を全く持たない発電所よりも60%以上多くエネルギーを生産することができる」と言うと、これは詐欺ないし誇大広告だ。此のヘマソラールと同じ面積の反射鏡を使えば、年間を通じればヘマソラール以上の発電量が得られる。

公平を期するためには、ヘマソラールの溶融塩を使った蓄熱機能による損失を明らかにし、そのデメリットと稼働時間延長・制御性向上によるメリットとを明らかにして売り込むべきだ。

「悪銭身につかず」と日本では言い、「正直こそ最善」と西洋の諺にもある。イメージとキャッチフレーズだけの詐欺まがいの商法では、「ヘマソラール」が「1000ユーロ札の印刷機」と化す事は、遂に無いだろう。

スペイン政府がヘマソラール・プロジェクトへの投資を中止したのも、故ない訳ではなさそうだ。 
 
<注釈>
(*1) 高緯度地方には、一日中太陽が沈まない「白夜」と言う現象があるが、例外的だろう。 
(*2) 無論、距離は途轍もなく遠いが。 
(*3) 「太陽熱発電所」なのだから、当然だが。 
(*4) 「太陽熱発電の稼働時間延長と可制御性向上」と言う点では効果があろうから。 

アルキメデス以前―産経記事「「夢のエネルギー製造装置」に迫る」を斬る!http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/35579513.html