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 AFP通信が報じるのは、先週イランが撃墜したと言う米国のステルス無人偵察機RQ-170の映像。
 
 公開された映像から読み取れる情報は、凡そ以下の通りだろう。
 
(1) 機体はデルタ翼に近い後退翼の完全全翼機で、尾翼なし。ステルス性には優れた形状で、『機体の外観は「RQ-170」そっくり』と報じられるのは、多分本当だろう。

(2) 胴体に当たる主翼中心線上の盛り上がり前面は、エンジンのインテークらしいが、スロット状の「前シャッター」を有する。インテークダクトが電波を反射するのを防ぐ処置とも考えうるが、インテークとしては性能劣化する筈で、推進性能を落とすだろう。wikipediaの写真には見られないから、「砂漠仕様RQ-170trop(※1)のサンドフィルター」と言う可能性も考えられなくも無い。

(3) 機体全体は明るいクリーム色。機体下面の塗装はわからないが、胴体側面の塗装などから単色の塗装と思われる。既知のステルス機には無い色であり、塗料によるステルス効果は無いものと推定できる。また、夜間偵察に運用される機体ならば、こんな色にはしないだろう。昼間偵察機と言う事になる。

(4) 主翼上面に中心線上「胴体」を挟んで「胴体」に匹敵する盛り上がりが見られるが、用途不明。同様のものはwikipediaの写真にも見られるが、wikiの写真が結構鋭い突起でブレードアンテナを思わせるのに対し、今回イランの写真は鈍い形のようだ。燃料タンク?

(5) 機体は、主翼下面をべったり乗せる台の上にあり、機体下面は愚か、脚がどうなっているかも不明であり、有るかどうかすら判らない。台は主翼前縁にピッタリ沿っているから、特にこの「撃墜されたRQ-170」の為に設えられた物の様だ。

(6) 機体の載せ台やバックには、イラン国旗やイラン人らしい肖像、星条旗が「髑髏と筋」になっている垂れ幕などがかかり、この写真が宣伝用であることを語っている。

(7) 機体には大きな損傷は見られない。それどころか、損傷箇所らしいものが全く見当たらない。損傷箇所が有るとしたら、置き台に隠れた機体下面、脚廻りなどだろう。

(8) wikipediaの写真に比べると、高い位置にイランの写真の「RQ-170」は置かれているようだ。これは、この「専用置き台」が脚よりも高い位置まで機体を持ち上げ、本当に機体下面で機体を支持している事を意味する。前に垂れ幕たらしたりするのには好都合な配置だろうが、不自然ではある。それとも、機体下面にジャッキポイントがあって(※2)、3点支持ぐらいで機体を持ち上げているのだろうか。

 同時にAFP通信は、以下のように報じている。
 
1>  革命防衛隊航空部門トップのアミール・アリ・ハジザデ(Amir-Ali Hajizadeh)准将は、
2> この無人機は革命防衛隊の電子戦部隊のわなにかかり、
3> サイバー攻撃によってほとんど無傷で着陸させられたと述べるとともに、
4> イランの専門家はこの機体からどれほど貴重な情報が得られるか、よく理解していると語った。
 
 即ち、先行していた「イランによる米無人偵察機撃墜」は正確ではなく、「電子戦部隊による鹵獲」が正しいと言う。なるほど、公開された機体に損傷らしい損傷が無いのはこれである程度説明がつくが・・・本当だろうか。
 
 確かに、写真に見るような「機体上面から見る限り損傷らしい損傷が無い」状態でRQ-17を撃墜するのは難しかろう。機体下面から燃料タンクに穴開けて「燃料切れ墜落」を狙うぐらいしか思いつかないが、「墜落して尚、機体上面は無傷」を実現するには、相当に墜落地点が制限されよう。そんな墜落を狙うと言うのは相当無理があるから、あったとしたら僥倖であろう。
 
 そんな僥倖よりは、まだ上記1>~4>報道「イラン軍電子戦部隊によるRQ-170乗っ取り及び強制着陸」の方が、まだ「実現性が高」そうだ。が、それでもその蓋然性は高そうにない。
 
 私の知る限り、今運用されている無人機は、離着陸の際だけ手動・Man in the Loapコントロールに切り替わって離着陸する。飛行中の攻撃なんかはやはり人間差の介入=Man in the Loapコントロールが必要かも知れないが、写真偵察ならば、目標地点への往復も含めて「無人機任せ、機械任せ」で特に問題は無い。だから、このMan in the Loapコントロールを乗っ取ってしまえば、米軍ならぬイラン軍でも「RQ-170を操縦し、強制着陸させる」可能性がある。
 
 だが、そのためには、以下のことを知っていて、実行できる設備と訓練された人員が必要である。
 
 ① RQ-170を手動・Man in the Loapコントロールに切り替える方法

 ② RQ-170の操縦方法

 ③ RQ-170から送信される操縦に必要なデータを正しく読み出し、イラン人操縦者に伝える方法
 
 つまり、「RQ-170の地上支援設備の相当部分を、そっくり真似して持っている必要がある。
 
 「それは米軍以外は不可能だ」とまでは主張しないが、核兵器をコッソリ開発しようと言う技術力はあるとは言え(※3)イランがそれを可能としているとは、一寸考えられない。必要な技術者を誘拐したり、技術情報を買いあさったり脅し取ったりすれば、やれない事はなさそうだが、どうにもこうにも効率が悪そうだ。
 
 それよりも、それらしいダミーステルス無人偵察機、早い話がハリボテ作って大々的に喧伝する方が、上手くすれば本当にRQ-170を鹵獲したのと同程度の政治効果を得、失敗したとて大して失うものは無く、かかる費用は「ハリボテ」代と写真代ぐらいで非常に安くつく。
 
 と考えると、この「イラン軍に撃墜されたRQ-170無人偵察機」と称される機体も写真も、益々怪しく見えてくるのである。


<注釈>

(※1) とは、米軍では命名しないな。RQ-170Aだろうか。

(※2) 普通はあるだろうが、それがイランにわかるように明示なりマーキングなりされているかと言うと、疑問だ。

(※3) その程度の技術力ならば、北朝鮮にだってある。
 

お詫びと訂正

  その後、当該無人機について、米国政府からイランに返還要求が出されたと報じられています。
  即ち、当該無人機は張りぼてではなく、本物であるようです。