高速鉄道建設には「強い政治的意志」必要、カナダ政府調査  http://www.afpbb.com/article/economy/2841032/8090790
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 大分前に読んだ本によると、「鉄道はイギリス人が発明した。鉄道網は日本人が発明した。」と言うそうである。意味する所は、鉄道と言うハードウエアを発明したのはイギリス人だが、これを効率的に運用し、まともに商売が成り立つように組織化したのは日本人と言う事らしい。

 実際、世界的には鉄道事業そのものは赤字経営なのが普通で、国や地方自治体の補助を受けるか、沿線での商業経営等で事業を成り立たせているところばかり。だから、世界の鉄道は国有鉄道が圧倒的に主流で、独立採算が求められる、と言うよりは独立採算が取れなければそもそも組織として存続し得ない「私鉄」なんて物は稀有な存在なのだそうだ。
 
 その殆ど唯一の例外が我が日本。適度な人口密度と距離もあって、私鉄が事業として成立し、東京近郊ならば四方八方に、関西ならばほぼ平行に、複数の私鉄会社が走ってそれぞれ経営が成り立っている。国鉄も昔は赤字経営が酷かったが、分割民営化でJRになり、経営が成立するようになって久しい。これまた地道ではあるが、新幹線と同じく日本鉄道の偉業であり、功績であろう。
 
 その新幹線を嚆矢とする高速鉄道が、後に続いたフランスTGV、ドイツICE共々世界から注目され、台湾、韓国、中国、ロシアなど幾つかの国には導入され、(*1)米国はじめとして計画中の国もあるのだが、必ずしも前途洋々ではない、と言うのがAFP通信の記事。取り上げられているのは、北米はカナダの高速鉄道である。 
 
1>  政府はケベック(Quebec)州ケベック市(Quebec City)とオンタリオ(Ontario)州ウィンザー(Windsor)を結ぶ
2> 総延長1300キロの高速鉄道建設計画について、可能性調査を行った。

 
 「総延長1300キロ」と言うから、流石は北米大陸に横たわる大国。新幹線ならば東京~博多間が約1200kmとされているから、1300kmと言うと日本列島を半分以上縦断した距離になる。仲々、壮大な計画だ。だが、その可能性調査の結果は可也厳しい。
  
3>  調査は「高速鉄道は技術的には可能だが、多大な公共支出が必要となる」と結論づけている。
4> また、すべての運営費はまかなえるが、最大213億カナダドル(約1兆6000億円)にも上る開発費の回収は不可能との見方を示した。
5> さらに、計画から建設(環境アセスメントその他調査や土地取得を含む)まで14年近くかかることを考えると、
6> 計画推進には「強い政治的意志」が必要だと指摘している。

 
 要するに「運転資金は稼ぎ出せるが、初期投資を回収できる見込みが無い。」と言う事の様だ。が、ちょっと不思議な話でもある。「最大213億カナダドル(約1兆6000億円)にも上る開発費」と言うのは「最大」であるし、カナダ国産(*2)とした場合の開発費ではないのか。我らが新幹線なり、フランスTGV、ドイツICE、或いは屹度格安に売り込むであろう中国高速鉄道(*3)を技術導入すれば、開発費葉圧縮で競うに思う。カナダ独自の仕様、例えば低温条件なんかは厳しそうだが、我らが新幹線は東北や新潟の豪雪地帯でも営業運転しているのだから、開発要素が大きいとも思えない。第一、一応は黒字経営が見込めるのだから、「開発費の回収」は「時間の問題」であろう。
 
7>  高速鉄道の導入は納税者や航空会社に大きな犠牲を強いることになるが、
8> 通勤時間の短縮や二酸化炭素の排出削減をもたらすかもしれないとの調査結果を発表した。
 
 上記7>「航空会社に大きな犠牲を強いる」と言うのは、我が国の、特に最初の東海道新幹線導入時にはなかった要因だ。カナダもアメリカも広大且つ平坦な国土であるため、飛行場が整備され、空路が既に発達している。さはさりながら、
 
9>   高速鉄道が時速300キロで走るとすると、
10> オタワ・モントリオール間は現在2時間かかるところが1時間に短縮され、航空機との差はわずか15分となる。
11> 1日数便の航空機が1時間で結ぶオタワ・トロント間は、鉄道では現在の4時間半から1時間半に短縮される。
 
と報じられているから、カナダ国内の航空機は、時速300キロ(*4)の鉄道に対し1.33倍から1.5倍の速度でしかなく、時速450キロでしかない計算になる。営業速度の平均だから、巡航速度よりさらに低い筈ではあるが、マッハ数にして0.7でも時速で750キロほどにもなるはずだから、ひょっとしてカナダの国内便は、ジェット機ではなくプロペラ機なのかも知れない。それならば、確かに高速鉄道はカナダ国内航空便に対し強力な競争力を持つだろうし逆に航空会社には「大きな犠牲強いる(*5)」ことになろう。なるほど、報道記事のタイトルにもなった「強い政治的意思が必要」と言うのは、納税者の負担もさることながら、航空会社の反対にも耐えるだけの意思が必要と言う事だろう。
 
 その一方で、
 
12> 一方、モントリオール、オタワ、トロントを結ぶ区間のみの建設であれば
13> 費用は半分で済み、経済的効果も期待できるという。
 
とも報じられているが・・・こいつはわからない。「モントリオール、オタワ、トロントを結ぶ区間のみ」であれば、そりゃ建設する鉄道の区間は短くなろうが、走る高速鉄道は元の壮大な計画とは異なるのだろうか。
 異ならないのならば、開発費用は変わらないはずだ。建設費が安く着いて経済効果も期待出来るから、元の計画よりも早く開発費用を回収できるだけだ。
 異なるのならば・・・何が違うんだぁ?より内陸の寒いところを走る事になり、低温条件が厳しくなる、と言う事だろうか。
 
 広大且つ平坦な国土は、鉄道建設にも向いている(*6)と思っていたが、普通の鉄道ならば空路との「棲み分け」も出来るが、空路に対抗しうる(*7)高速鉄道では、そう単純ではない、という事らしい。
 
 タイトルにした通りである。
 
 ”This is the BIG COUNTRY!”
 『まんず、国さぁデッカイもんでなぁ。』
 

<注釈>

(*1) 中には恩知らずの恥知らずにも「国産!」とブチアゲル国も居るが。
 
(*2) 確か、鉄道では大手のボンバルディア社のカナダ法人があった筈。
 
(*3) 無論、カナダ政府がそれを買うならば、だが。私がカナダ政府ならば、絶対に買わないし、カナダ国民ならば、中国製高速鉄道に反対運動を始めるだろう。
 
(*4) 営業速度の平均値にして、だから、此の数字自体は、高速鉄道として可也野心的な数字ではあるが。
 
(*5) 使用機種をジェット化高速化して移動時間短縮による付加価値を求めるか、高速鉄道に運賃で対抗するディスカウトをするかを迫られる筈だ。
 
(*6) 逆に言うと、連なり傍たつ島々からなる我が国の国土は、鉄道建設には向いていない。
 
(*7) 対抗されてしまう「空路」の方が、情けない気もするが。
 

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 「私は鉄道マニア=いわゆる「テッチャン」ではない」と繰り返しつつ、こと新幹線に関する限りは結構記事を書いているな。まあ、記事の総数が1000本を越えているからな。