応援いただけるならば、クリックを⇒ https://www.blogmura.com/
 
 今回の社説比較は実はやりにくい。題材として取り上げるのは菅直人が記者会見開いてブチ上げた「脱原発」宣言。我が国のエネルギー政策方針( 何しろ、ついこの間まで「原発の比率を現在の3割から5割に引き揚げる」としていたのだ。)の大転換と解釈されるから主要紙(※1)は7月14日に社説とし、沖縄二紙も翌7月15日に社説としているから、社説比較としては美事に足並みが揃った形だが、注目されるだけに、産経の「社説検証」、毎日の「論調観測」と少なくとも2紙がこれら社説を比較検証している。つまり、新聞社というプロの手による比較検証が既に実施されており、当ブログ「社説比較」シリーズとしては少なくとも後出しジャンケン、下手すると盗作の疑いさえ抱かれかねない。
 
 もう一つにはこの菅直人が出した「脱原発宣言」そのものの問題がある。各紙が社説で取り上げるぐらいだから反響は上々なこの宣言だが、各支社説を見れば明らかなとおり、必ずしも好意的な反応ではない・・・どころか、手放しに絶賛するのは朝日と沖縄二紙の三馬鹿新聞、もとい、三アカ新聞ぐらいだ。これでは支持率アップにも延命にもならないと見たか、菅直人自らがこの「脱原発宣言」を、「個人的な意見」などと言い出している。
 「御前は個人的意見を開陳するために記者会見を開くのか!」とか、「菅直人の「脱原発宣言」は鳩山の普天間基地問題か、否、そうすべきだ。」とか突っ込みたくなるところであるが、何れにせよ菅直人の発した「脱原発宣言」が、少なくとも当初考えられたような日本のエネルギー政策の方針転換ではなく、その方針転換の前触れ、観測気球、アドバルーン、探り撃ちでしかない、とトーンダウンしている。(※2)
 となれば、菅直人の「脱原発宣言」翌日に早々と社説に取り上げた六紙は勇み足を免れない。勢い、上記の産経・社説検証や毎日・論調観測も歯切れが悪くなる。
 が、ここは「菅直人が言い出した脱原発宣言」を各紙がどう評価したか、と言う視点で纏めることとしよう。
 
 先述の通り、今回取り上げるのは四大紙+産経のレギュラーメンバー五紙に東京、琉球新報、沖縄タイムスを加えた八紙。フルレンジと言うことになる。各紙社説タイトルとURLは以下の通り。
(1) 産経 脱・原発依存 その場限りで信用できぬ  http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110714/plc11071403000004-n1.htm
(3) 読売 脱原発宣言 看板だけ掲げるのは無責任だ http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20110713-OYT1T01147.htm?from=any
(4) 毎日 「脱原発」表明 目指す方向は評価する  http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/archive/news/20110714ddm005070147000c.html
(5) 朝日 脱原発―政治全体で取り組もう  http://www.asahi.com/paper/editorial20110714.html?ref=any
(6) 東京 脱・原発依存 政権延命狙いでは困る  http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2011071402000042.html
(7) 琉球新報 首相脱原発宣言 次代のいのち憂う決断  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-179306-storytopic-11.html
(8) 沖縄タイムス [「脱原発」表明]次期政権に引き継ごう http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-07-15_20533/
 参考までに、プロの手による社説比較は以下の通り。
 
(A1) 毎日 社説:論調観測 「脱原発」首相表明 個人の考えとはいうが  http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/archive/news/20110717ddm004070017000c.html
(A2) 産経 社説検証 「脱・原発依存」会見   http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110718/plc11071806520004-n1.htm
 
 例によって比較表の評価項目は、産経と朝日の社説を横目で見ながら決めた。
(1) 「脱原発宣言」の意義
(2) 菅直人「脱原発宣言」のメリット・評価すべき点
(3) 菅直人「脱原発宣言」のデメリット・問題点
(4) 菅直人の為すべき事
(5) 菅直人後の首相の為すべき事
(6) その他
 
 

 比較表の方は例によって、朝日の方の主張を赤字で、産経の方の主張を青字で、両紙にはない主張で各紙独自の物は太字下線で示した。
 
 全八紙を通じてほぼ一致したのが評価項目(1)「脱原発宣言」の意義 である。「脱原発」「脱原発依存」さらには「宣言」「看板」など呼び方は幾通りかあるが、「日本のエネルギー政策の大転換」である点は共通認識である。
 無論、此の「共通認識」は、上述の通りその後の「アレは個人的見解 = 政府見解でも党見解でもない」という菅直人自身の宣言により、全紙社説が「二階に上がって梯子を外された」状態である。勢い、上掲の産経・社説検証も毎日・論調観測も、歯切れが悪くなる。
 
 評価項目(2)「菅直人「脱原発宣言」のメリット・評価すべき点」に於いても「自然エネルギーの普及に繋がる」をメリットして上げている点では、全八紙が共通する。この点に於いては、今も「原発推進論者」を公言している私自身、メリットと認めざるを得ないほどだから、当然と言えば当然だろう。
 だが、その他の評価項目(2)と評価項目(3)、即ち今回菅直人「脱原発宣言」のメリットとデメリットのバランスという点では、八紙の主張が分かれた。
 
 朝日は、デメリットとして具体案のなさは発言の唐突さを上げる程度で後は「誰が首相であってもすすめなければならない」と「脱原発」を絶賛する。幾ら朝日の主張に沿っているからとて、そのデメリットに殆ど触れないと言うのは・・・まあ、朝日の社説らしいと言えば朝日の社説らしいが。
 
 朝日に続くのは当然ながら琉球新報、沖縄タイムスの沖縄二紙。デメリットの方に「菅首相のパフォーマンスと見えなくもない。(沖縄タイムス)」「唐突に国民受けする政策を打ち出す首相の政治スタイルは問題がある。(琉球タイムス)」が一応記載されているが、その直後に「原発に依存してきたこの国のエネルギー政策に一石を投じたのは間違いない。本格的な見直し論議に向けた誘い水になると受け止めたい。(沖縄タイムス)」「ただ、フクシマの災禍を教訓とする脱原発宣言は正論であり、“菅憎し”でつぶす話ではない。(琉球新報)」としっかりメリットを強調して居る。なんのことはない典型的な仲人口調で「脱原発万歳!」で一貫している。朝日を加えた三紙を、私が三馬鹿新聞、もとい、三赤新聞と呼ぶ所以だ。
 
 三赤新聞に続くのは東京だ。メリットに原発に対する不安の除去、デメリットにゾンビ首相の政策実現力のなさを上げてはいるが、「脱原発万歳」トーンは通底する。三赤新聞ほど浮かれ騒いでは居ないが。
 
 毎日もその主張と合致する事を表明し、為に評価項目(2)は「朝日と同趣旨」を示す赤字ばかりだが、デメリット評価項目(3)で具体的内容の乏しさと、宣言自体がが首相自身の考えとしか表明されて居らず、政府として、党としてはどうなのか曖昧な点も指摘している。結果から言うと、この毎日指摘は全く正しかったことになる。
 
 読売と日経になるとデメリット評価項目(3)に電力の安定供給に対する不安が加わる。(※3)かねてより当ブログが主張しているとおり、脚光浴びまくりの「再生可能な自然エネルギー」の本質的な問題点は、正にこの電力供給源としての不安定さである。これに比べれば高コストの方はまだ技術の進歩や普及で解決可能だ。それを指摘している読売・日経・及び後述する産経は正しい。
 
 産経は更に電力供給の不安定化要員として菅直人自身の現時点までの場当たり的な原発対策も指摘する。
 
 この部分が今回記事副タイトルにした「美事なまでのグラデーション」の所以である。即ち、菅直人応援団と化している三赤新聞・朝日・琉球新報・沖縄タイムスから菅直人退陣を求める産経までのグラデーションである。
 
 以上の評価項目(2)と(3)のバランスは、評価項目(4)「菅直人の為すべき事」及び評価項目(5)「菅直人後の首相の為すべき事」にも反映される。
 
 特徴的なのは朝日で、菅直人「脱原発」宣言を絶賛する朝日は評価項目(4)は「言及無し」であり、これは八紙中唯一である。勢い朝日の評価項目(5)は「菅直人以降の首相もこの脱原発宣言を受け継ごう!」でしかない。手放しの菅直人絶賛、脱原発宣言絶賛である。
 
 評価項目(4)は一応「政権末期の打ち上げ花火に終わらせず道筋を付ける事」とした沖縄タイムスは、朝日の社説と同工異曲である。
 
 評価項目(4)で菅直人に退陣を求めたのは産経日経もエネルギー政策は新政権で、と主張しているから、これは産経と同根だろう。一寸意外だが、東京も「政治への信頼回復のために菅直人が身を引くこと」を求めているから、これも菅直人への退陣勧告と見て良さそうだ。
 他方読売は、菅直人の場当たり発言が招いている混乱への自覚を求めているから、まだ上記三紙より穏健だ。
 
 以上の比較を例によって数式で表すと、以下のようになろうか。
 
朝日≒琉球新報≒沖縄タイムス < 毎日 ≦ 東京 < 読売 ≒ 日経 < 産経
 先述の通り、最左辺の三紙は菅直人応援団と化している。
 菅直人が支持率狙いで今回の「脱原発宣言」を出したのだとしたら( 否、そうに違いないと、私は確信しているが。)、その効果は上記の朝日・琉球新報・沖縄タイムスに対しては有効だったと言えよう。
 と言うことは、「支持率アップ」には全く繋がっていないと言うことだ。

 

<注釈>

(※1) 四大紙+産経のレギュラーメンバー五紙に東京を合わせた六紙 
 
(※2) これが自民党政権時代の自民党の話ならば、野党である民主党は「またブレた!!」と、噛みつくところだろう。
 現民主党政権は、ブレるどころかそもそも方針がないから、野党である自民党はおろかマスコミさえ「ブレた!」と非難できない。
 
(※3) この点について三赤新聞も東京も全く触れていないのは奇妙である。いや、理の当然と考えるべきか。これら四紙の目的が日本の電力供給の不安定化にこそある、と考えれば。