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 米国の映画・テレビ俳優・ピーター・フォーク氏の訃報に接したのも些か旧聞に賊することになってしまった。
 
 ピーター・フォークと言えば、、コロンボ警部コロンボ警部と言えばピーター・フォークと言っても過言ではない(※1)程に、彼がテレビ・ミステリ「刑事コロンボ」で演じたコロンボ警部役は、一生の大当たり役だった。
 昨年日本でも刊行されたピーター・フォーク自伝には、如何に「コロンボ警部」が世界的有名人であったかというエピソードが幾つも出てくる。ま、早い話が自慢話ではあるが、中南米のど田舎で、言葉も通じかねるような子供達に「コロンボ!コロンボ!」と追いかけられるなんてのは、役者冥利に尽きるよう

 

<注釈>

(※1) と言うよりは、真性本家本元「コロンボ警部」はピーター・フォークだけ。殆ど彼のライフワークになっていたのがテレビ・ミステリ「刑事コロンボ」だ。
 ゴロンボだのコロンダだののまがい物、パロディは数多あったし、「浪速の」だか「信濃の」だかの地域限定も居たような、居なかったような・・・
 ああ、ブラック魔王の相棒(愛犬?)が何故か刑事というアメリカアニメもあったよな。ハスキーな笑い声が特徴的な柄の悪い(そりゃ、ブラック魔王の相方だ)犬。
 

息を呑むどんでん返し-ミステリ・刑事コロンボ

 「刑事コロンボ」特に昔のコロンボは、「テレビミステリの一つの頂点」だと私は思っている。コマーシャル抜きのNHK放送で1時間と15分。多分CM込みで1時間半の番組で、しかも一話完結で「刑事コロンボ以上のテレビミステリを、私は知らない。無論、今となっては滅多にテレビさえ見ない私だから、私が知らないだけ、と言う可能性は否定できないが。
 
 「刑事コロンボ」の特徴は、番組冒頭で犯人の犯行を詳細に描き出す事。普通のミステリと違って、視聴者には犯人が、動機から犯行詳細まで全てわかっている事(※1)。つまり普通のミステリである犯人探しではない」ことだ。(※2)
 
 一種ネタバラシであるこのミステリを途轍もなく面白くしているのは、ピーター・フォーク演じるコロンボ警部が、如何にして犯人を追い込むかを詳細に描いている事。あっと驚く大どんでん返しで犯人を完全に追い込んだところで、エンディングとなる。その追い込みの鮮やかさは、文字通り息を呑むほどだ。(※3)

 

<注釈>

(※1) そこを逆手にとってってのが「二つの顔」だな。
 
(※2) 日本のテレビドラマ「警部・古畑任三郎」が同じ構成をとっていた。ミステリとしてはいまいちだが、「刑事コロンボのパロディ」として見る分には、無茶苦茶面白かった。
 
(※3) あっと言わせるようなどんでん返しで犯人を完全に追い込むエンディング。思わず息を呑む。エンドロールが流れて、軽快なエンディングテーマがかかる。最期に来週予告の文字が出て・・・この辺りで詰めていた息を深く吐き出して気が付く。
 「俺、今まで呼吸をしていなかったぞ。」と。
 実際はそんな事はない筈だ。時間にすると3分以上、下手すると5分近くも呼吸を止めていたら、少なくとも苦しくてテレビを見ているどころじゃない筈だから。
 だが、そうまで思わせるだけの鮮やかさ、凄さが、確かにあったのだ。
 何しろ一番最初に見たのがピーター・フォークもお気に入りと言う「別れのワイン」だったから、その衝撃たるや凄まじかった。
 「そんな手段が法廷で、それもアメリカの法廷で通じるのかよ!?」てのも、ないではない。「殺人処方箋」なんて違法捜査ギリギリだ。
 

上がらぬ風采、切れる頭脳-キャラクター刑事コロンボ

 ミステリとして少なくとも一級品なのは脚本家の功績だが、その脚本を映像として具現化するのはピーター・フォークの功績だ。かれはこのコロンボ警部を、トレードマークとなったモジャモジャ頭に安葉巻とよれよれのレインコートで具現化し、片目が義眼で眇であることをも利用して映像化した。時々一緒に出てくるまぬけそうな犬やポンコツのオープンカーも「色」と言うよりは「薬味」を添える。さらに日本語版では忘れてならないのが声優で、旧シリーズを担当した小池朝雄に止めを刺す・・・と言うよりは、小池朝雄の声で上述のピーター・フォークの容姿で以って「コロンボ警部」というキャラクターは完成している
 
 「すみません、もう一つだけ、すぐ済みますから。」

 「刑事なんて因果な商売してますとね、つまらん事も気になりまして。」
 
 丁寧な物言いはフォーク氏も心がけたところと自伝にある。それを上手く訳したのは翻訳家の腕だが、小池朝雄氏の声がさらに磨きをかける。この丁寧な物言いが、核心に触れるとがらりと変わるのも、声優の演技でもあり、俳優の演技でもある。
 
 「つまり、アンタが撃ったんだ。」
 
 犯人役どころか脇役まで豪華声優陣を揃えたのは資金力豊富なNHK故か。特に「別れのワイン」の犯人・酒造会社社長(※1)がワインの保管状態にクレームを付ける下りは秀逸。台詞はものすごく汚い言葉なのに、鼻にかかったその声は、気品を失わない。英語で聞いてもこれほどの演技ではない。
 
 言い換えれば、「刑事コロンボ」日本語吹き替え版は、その声優陣によって、少なくとも私にとって、恐らくは日本人にとって、原作以上の作品になっているのである。

 

<注釈>

(※1) 役者はドナルド・プリーゼンス。「大脱走」の印刷屋。「パワープレイ」の秘密警察長官、007の悪役もやったらしい。声優は中村俊一
 

ピーター・フォーク氏に鎮魂曲を

 テレビドラマ「刑事コロンボ」が全米どころか世界的大ヒットとなり、ピーター・フォーク氏自身もこの「コロンボ警部」というキャラクターが気に入ったらしく、「新刑事コロンボ」シリーズとしてほぼライフワークのように作られていたテレビ・ミステリだったが・・・正直なところ、新シリーズは全部を見たわけではないし、見ようと言う気にならない。旧シリーズにあった「息を呑むどんでん返し」もないし、どうにもこうにも犯人達(※1)が小粒に見えて仕方がない。「カンニングがばれて大学教授を殺した犯人が、追いつめられ、逮捕されたが、「親の知り合いの弁護士に頼めば、すぐ釈放さ。」と嘯くなんざ、現代アメリカの一断面を表しては居ようが、コロンボらしからぬ(*2)。
 
 その新シリーズも数年前ピーター・フォーク氏がアルツハイマー症で入院してからは途絶え、今回の訃報で遂に新作は最早作られない事態に至った。
 
 役者、少なくとも映画俳優、テレビ俳優と言う職業に、私が「羨ましい」と思うことが一つある。それは、死してなお、残されたフィルムなり動画なりを再生することで、今なお居ますが如く偲べることだ
 
 ピーター・フォーク氏は亡くなった。が、彼が残してくれた「刑事コロンボ」を見ることで、在りし日の彼を偲び、テレビ・ミステリの最高傑作(独断)を堪能できるのである
 
 ピーター・フォーク氏に鎮魂曲を。

 

<注釈>

(※1) 書き忘れたたがコロンボ警部はロサンゼルス警察殺人課の警部であるから、犯行は殺人( 未遂もたまにある。「溶ける糸」とか。)であり、犯人は殺人犯だ( 逮捕に至らないこともある。「忘れられたスター」とか。) 。
 
(*2) コロンボシリーズファン雑誌というのがあり、一話ずつ評価をつけているそうだが、その最低評価が「NOT COLUMBO」ナンだそうだ。
 「こんなん、コロンボじゃないやい!」って処か。