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(3.)考察―大地礼賛

 
 さて、以上でIBさん言うところの「筋」は通ったものと思っているが、此処ではもう一歩踏み込んでみよう。
 
 即ち、何故IBさんが物理的常識を無視して、別に目処も得ないままに、「土砂山による福島原発事故対策」なんて荒唐無稽な考えを吹聴し、喧伝しているか、と言う考察だ。
 
 私は千里眼では無いし、何もかも見通す水晶球も持たなければ、全てを知っている何者かの声も聞こえる訳ではない。神ならぬ身の人であり、死す可き運命にある者の一人でしかない。一介の人類であり、一人の日本人だ。21世紀の日本と言う恐らくは今日までの人類史上でも稀なほどに恵まれた境遇(*1)に生まれては居るが、通常の五感以上の感覚器官は有していないから、IBさんに「本心を教える」などと言う芸当は出来ない。が、推察推論する事はできる。
 
 そもそも、冷却に水ではなく土砂を使うという「提案」が思いつけてしまうというのからして不思議である。幾ら「家電製品は直流で動いている」などと言う妙な信仰を抱いた人とは言え、「水で冷やす」と言うのは行水や消火放水、水冷機械を例示するまでもなく、普通の感覚だが、こと原発・核燃料に関する限りは「土砂を使え」と発想できるのは、私の想像力の及ぶ限りでは、以下の理由しか考え付かない。
 
 (1) 水に対する敵視・忌避
 (2) 土砂に対する信仰・信頼
 
 上記(1)にはひょっとして今回福島原発事故でも発生した水素爆発が起因しているかとも考えたが、「水素爆発は海水を注入した性だ」とか「核燃料に対する水による冷却は成功例が無い」とか、物理的に説明のつき難い主張をされるところからすると、少なくとも「核燃料と水は覿面に相性が悪いという信念」があると見るのが至当だろう。
 なおかつその「忌む可き水」の代わりに「土砂」を挙げてしまうところに、上記(2)を想定せざるを得ない。大地礼賛とも呼ぶべき「土砂信仰」であり、「ウラン鉱石は元々土中に埋まっていた」と言う思い込みが、ウラン鉱石からの精製濃縮はては臨界まで吹っ飛ばして「土中に埋めれば核燃料も安全」と言わしめているように思われる。そう、「河豚毒に当たったら、首だけ出して土中に埋めよ」と言う土俗信仰のように。
 
 さらには、H23/6/21のIBさんコメントでは、
 
> 書き忘れていた。土砂は冷やす目的ではない、放射能の拡散を防ぐために
> 今すぐ必要且つ可能なことはただそれだけ
 
となっている。「放射能の拡散を防ぐ」ことが出来れば後は何もしないという、無責任極まりない提案であるが、逆に言えば土砂山に期待出来ること、期待する事は「放射能の拡散を防ぐ事」だとしている。

 が、以前の記事「石棺幻想」にも記したとおり、石棺は底抜けならば土砂山も底抜け。放射性物質が大気中に拡散する事を防ぐとは期待出来るが、冷却を放棄した核燃料が再臨界を起こして高熱となり、周囲の地盤岩盤溶かして沈下を始める「チャイナシンドローム」を起こしたら何も手を打てない。そのまま真っ直ぐ地の底に沈んでくれればまだ良いが、そんなことを期待して冷却を放棄居すると言うのは途轍もなく無責任だ。この点は大分前にIBさんへ指摘したのだが、ご当人はお忘れのようだ。と言う事は、IBさんにとって重要なのは、「核燃料を土砂山に埋める事」であって、「放射能の拡散を防ぐ事」でもなければ無論「核燃料を冷却する事」でもない事を示唆している。
 さらに言えば、「放射性物質の大気中への拡散防止」ならば、東電が計画中のシート被せで充分。土砂である必要もなければ、核燃料冷却を放棄する必要も無い。と、合理的に冷静に考えれば理解でき納得できそうな物が、IBさんの「原発憎し」反原発感情はそれを許さぬ物らしく、「自然に還れ!」とばかりに核燃料を土砂の中に埋める事を主張される。
 
 「母なる大地」と言い、農業の根本は土作りとも言う。渡邊昇一氏によると日本人の根本は「ドン百姓」だそうであるから、大地農地に対する郷愁や信頼は骨絡みのものがあるのかもしれない。
 
 だが、IBさんの郷愁が如何に強かろうとも、土砂山方式はチェルノブイリ式石棺以上に無責任な敵前逃亡にしかならず、福島原発事故に対する対策とはならないのである。
 
 福島原発事故対策としての土砂山に意義があるとするならば、宗教的儀式か、パフォーマンスとしてのみであろう。
 

<注釈>

(*1) 私は基本的に楽観主義者なので、「明日は今日よりも良くなる。良く出来る。」と考えている。だから、22世紀の日本人は、21世紀の日本人よりも幸福であるべきだし、すべきであると、考えている。その為の悩みの種苦労の種子に事欠かない事は認めつつ。
 Go for Broke!(「当たって砕けろ」米陸軍442連隊「二世部隊」の標語。日系人で編成され、第二次大戦欧州戦線で標語通りに大損害を被りつつ大戦果を挙げた。)