「超音速攻撃ヘリ・エアウルフ」と言うアメリカのテレビ番組があった。ヘリの速度記録は未だ時速460kmどまり(*1)であると言うのに(*2)「超音速ヘリ」とは恐れ入る他ないが、無論、絵空事だ(*3)。
 
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超音速攻撃ヘリ エアウルフ の玩具
 
 だが、「超音速水上戦闘機」ならば、曲がりなりにも作られて、実際に飛行している。
 作ったのは勿論、アメリカ人(*4)。
その名を、コンベアF2Yシー・ダートと言う。
 
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水上を疾駆するF2Yシーダートの勇姿(但し、パイロットは死ぬ思い)
 
 遡れば大戦間の一時期、水上機が陸上機より速い速度記録を持っていたのは事実だ。シュナイダーカップ華やかなりし頃は、「滑走距離無制限」の水上機は、翼面荷重を高めて、言い換えれば大馬力エンジンと小さな翼を組み合わせて、フロート(浮き舟)による空気抵抗をねじ伏せて、陸上機より速い速度を得る事ができた。
 だが、単葉の片持ち主翼と引き込み脚、それにフラップ(*5)が普及すると、フロートの抵抗は如何ともしがたく、水上機は陸上機に速度で劣るようになり、水上戦闘機は基本的に「二流の戦闘機」とならざるを得なくなった。(*6)
 その水上戦闘機が再び注目を浴びたのは第2次大戦後暫くしてから。ジェット戦闘機が大型化し、更に超音速化で大型化しつつあった頃。「大型化するであろう超音速ジェット戦闘機を空母艦載機とするのは無理があるから、超音速水上戦闘機を開発し、空母は戦闘機に関する限り水上機母艦としよう。」と言う発想がまじめに検討された。
 「責任者出て来い!」と言いたくなるような発想(*7)だが、真剣に検討されたこの発想の為に、「水上スキー板を装備して、離水したらそのスキー板を胴体下面に収納する」超音速水上戦闘機シー・ダートは開発された。
 実際に離着水し、実際に無理矢理だが超音速(約マッハ1.1)飛行に成功し、「世界初の超音速水上機」のタイトルを獲得した。
 
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低空飛行するシーダート
 
 問題は・・・・離着水性能が恐ろしく悪く、特に耐波性が低く、外洋での離着水がほぼ不可能な事(*8)でも、武装なしの試作機でも辛うじて超音速 (*9)飛行可能な無理矢理さでもなく、空母の大型化とスチームカタパルトの発達が、超音速艦載戦闘機を十分実用可能にしてしまった事だ。
 
 かくして、コンベア・シーダートは「史上初にして空前絶後の超音速水上戦闘機」のタイトルを獲得し、未だに「他の追随を許さない」で居る。
 
 「通った無理」であるが故に、誰も追随(*10)しないのであるが。

【おまけのぼやき】

 こんな、趣味に走った記事ばかり書いていられたら、我が国も平和なんだがなぁ。現民主党政権かでは、望むべくもないか。
 我が国が勝利し、敵が全滅するまで、我、平穏を求めず!-海兵隊員の誓い(一部改修)
 
 

<注釈>

(*1) つい最近シコルスキーX2が非公式に記録したのが最速である。ついでと言っちゃなんだが、最速の鉄道TGVより一寸速く、零戦より遅い。
 
(*2) 音速は気温の関数で絶対温度の平方根に比例するが、地上の常温では時速約1200kmである。普通「超音速機」はマッハ2以上である。その理由は・・・長くなるので辞めよう。
 
(*3) 第一、エアウルフのモノ凄さは、「トテモ超音速なんぞ出せそうにない形状」よりも、「銃身・砲身さえ突き出せば、射撃は出来る」と言う重武装の方だ。どうやって照準し、どうやって給弾・装填し、排莢しているかは謎だ。焼尽薬莢を使えば、排莢はある程度楽になるが、給弾や照準の問題は解決しない・・・
 
(*4) こんな奇抜なものを作るのは、アメリカ人かドイツ人だ。イギリス人は其処までぶっ飛んだのは作らない。その代わり、ヘンテコな機体なら幾らもある。
 
(*5) 高揚力装置。こいつが在れば、翼面荷重が高くても、離着陸速度を抑える事ができ、滑走距離を短縮出来た。特に艦載機には重要な装備。
 
(*6) それでも、頑張っちまう水上戦闘機はあったが。我が国の2式水上戦闘機は、零式艦上戦闘機の水上機版で、侮り難い戦闘機であったと言う。
 新谷かおるの漫画では、この2式水戦がフロート切り落として米軍機を返り討ちにしている。
 正直言って、2式水戦がフロートを落したら、脚の質量がない分、オリジナルの零式艦上戦闘機よりも空戦性能は良くなる筈だ。
 即ち「零戦以上の空戦性能」である。あなおそろしや。米軍機が返り討ちに会うのも道理だ。
 「飛行中、悪天候若しくはZeroに遭遇した場合は、直ちに退避すべし。」
 
(*7) 後述する通り、航空機技術とスチームカタパルトと着艦フック、それに空母自体の大型化は、超音速艦載戦闘機をあっさりと実現した。
 
(*8) つまり湾内でしか離着水出来ない。水上機母艦の意味が半減する。
 
(*9) つまり武装したら亜音速しか出せそうにないマージンのなさ。
 
(*10) 冷戦華やかなりし頃なのに、ソ連ですら追随しなかった。まあ、そもそも当時のソ連には( それを言うなら遂にはソ連解体に到るまで、)まともな空母が無かったのであるが。