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 久々に試みたのは「社説比較」シリーズ。「社説を斬る!」シリーズとは違って複数の社説を同時に斬るから、準備にも手間もかかれば比較解析も時間がかかる。フォーマットは一応出来ているとは言え、表に直すのも一手間だ。さらには、各紙にも同様の企画があるものだから、うかうかしているとネタを集めて表にもしないうちに先を越されてしまう。無論私の知る限り、こんな表を使って社説を比較している企画はないから、同じ社説をネタにしても相応に異なる切り口が出来そうだが、先を越されると表を作ろうと言う気さえ滅多に起こらなくなるのも事実だ。
 
 そう言う意味では今回の社説は他紙に先をこされる心配はない。何しろ、今日の社説を比較している。題材にしたのは先ごろ国会で追及された震災翌日3月12日の夜に福島第1原発1号機への海水注水が1時間ほど中断された件。この件は菅直人の命令による物ではないかと疑われており、その命令の根拠が当初は斑目安全委員長が表明した「海水注水による再臨界の恐れ」のためであるとされた件。因みにこの「斑目発言」は、学者生命に関わる名誉毀損だと斑目委員長の抗議を受け、「海水注水によって再臨界を起こす可能性はゼロではない。」に修正されている。これは、先行記事に取り上げたところだ。
 
原子炉海水注入中断 政府、今度は斑目委員長に責任転嫁か http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/35322615.html
http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/35322644.html 
 
 いわば、今回の社説比較はその先行記事の続編と言うわけだが・・・先ず例によってのレギュラーメンバー5紙、即ち四大紙(朝日、読売、毎日、日経)+産経の内、5/24付けでこの福島原発海水注水中断を社説に取り上げたのは、およそその半分の3紙、朝日・毎日・産経のみ。このほかにゲストとして取り上げて来た東京、琉球新報、沖縄タイムス、赤旗の内で社説で同問題に触れているのは東京のみ。普通ならばもう1日2日待って他のメンバーの社説が出てこないか確認する所だが・・・今回は追加の社説が出たら出たときのことと割り切って、朝日・毎日・産経+東京の4紙を比較する事にする。取り上げた新聞各社が少々イレギュラーなので、表のタイトルも「(4-2)紙+2紙の社説比較(4引く2紙プラス2紙の社説比較)」と、聊か変則的だ。
 
イメージ 1

 比較項目は例によって、社説比較の双璧を為す朝日と産経の社説を見ながら決め、朝日の方の主張を赤字で、産経の方の主張を青字で、両紙にはない主張で他紙独自の物は太字下線で示した。
 
  と言っても今回の場合、まともに比較対象になるのは朝日・産経を除くと毎日のみ。東京の社説は「菅内閣要職発言 「言ってない」に辟易だ」と銘打って菅内閣要職の発言にスポットを当てているから、福島原発海水注入中断にも確かに触れては居るが、切り口が大分違う。勢い表の方は「(言及なし)」が並ぶ事になる。何しろ、その「主旨」の欄に要約したように、東京新聞社説の主張は「菅内閣要職に「言った」「言わない」の低レベルな争いが多いのは、不都合な発言を口封じしようとしているからではないかと、疑われる。」であり、その一つとして「斑目安全委員長が海水注入は再臨界を起こすリスクがあると言った。」を取り上げているのであって、比較項目1「海水注入中断の政府責任」で「そのことで首相が免責されるわけではない。首相の統治能力の欠如や、政府と東電との連携の悪さが、事態を悪化させたことも確かだからだ。」と、菅直人の責任を断じるものの、全体として取り上げ、問題視しているのは、打ち続く「言った」「言わない」議論に透けて見える「不都合な発言口封じ」の方だ。
 
 海水注水中断を直接取り上げた朝日、毎日、産経の主張は、同日に同じ話題を取り上げたにしては綺麗に分かれた形だ。だから、産経の青字と朝日の赤字が殆ど入り混じらず、毎日の大半が毎日独自の主張=下線太字で書かれている。参加メンバーは少ない物の、比較し甲斐の在る社説群と言うことになる。
 
 朝日はタイトルからして「第三者機関で解明を」と訴え、海水注水中断が政府・菅直人意向が影響したのではないかと言う疑惑を認め、この経緯と原因調査に第三者機関による調査を提唱し、その第三者機関に「中立性」と「再発防止」の二点を求める事が主眼であり、比較項目4「海水注水中断の技術的評価」には「言及なし」となっている。まあ、海水注水中断が原発事故に悪影響を与えたと言うのは「第三者機関で調査」と言う主張の中に含まれていると見てよかろう。その意味では、海水注水中断に対する認識は、直接書かれては居ないが、産経と朝日は共有している事になる。
 
 ところが、朝日と産経が共有する「海水注水中断の悪影響」をさえ疑問視して見せるのが今回の毎日だ。比較項目4「海水注水中断の技術的評価」に示し通り、
 
毎1> すでに1号機については
毎2> 地震発生翌日の3月12日朝の段階で燃料の大半が溶融したとの推測が一般的になっている。
毎3> その日夜に海水注入が55分間中断したことが、
毎4> 事態の深刻化にとってどの程度本質的なものだったのか。
つまり1号機核燃料は既に溶融しているのだから、今更55分ばかり海水注水が中断したって何ほどのことはなかったのではないか、と言っている。
 いや、全く大した度胸だぞ。毎日新聞社説。
 確かに、結果的にはこの間に劇的な事態の悪化は無く、今も汚染水の漏えいはあるものの、その後の冷却も行なわれている。が、海水にせよ真水にせよ注水が中断すると言う事は、格納容器内の水位は漏水と蒸発で下がるばかりであり、最悪の場合は水面から露頂し水による冷却が効かなくなった格納容器底に貯まった核燃料が、再臨界に到ってしまう可能性がある。其処までいかずとも、露頂して高温になった核燃料に後から海水を注水することは、水蒸気爆発や水素爆発を引き起こしかねない危険な状態だ。当時格納容器底に核燃料が溶融してたまっていると言う事は判明していなかったし、55分間の海水中水中断後の再開で水蒸気爆発も水素爆発も起きなかったと言う事実はあっても、この断言は凄まじい。
 
 そんな毎日でも、今回の上記の通り「大した事はなかったのではないか」と疑問視する海水注水中止について調査する事に異存は無いようだ。但し、案の定と言うべきか、やはり評価項目6「長期的に取るべき行動」にある通り、調査については
 
毎5> 政府から独立した第三者的事故検証委員会を早急に発足させるべきである。
としており、朝日と同様の主張である。
 が、評価項目3「海水注入中断の政治的影響」では朝日とも産経とも異なる独自の主張を示し・・・・・
 
毎6> 菅首相が日本を代表する形で、
毎7> サミットの場で世界に対し今回の原発事故の原因、今後の対策をまさに発表しようとする矢先に、
毎8> その信頼性をいたずらに失わせるような議論をすることが、
毎9> 日本の国益上いかがなものかという点だ。
 
・・・・・つまり、「菅直人がサミットで格好良く演説するために、菅直人を「いたずらに」非難するな。それが日本の国益だ。」と斯様な「立派な」主張をされるのである。
 無論私の意見とは真っ向から対立している。私は菅直人などと言う「歩く政治空白」が日本を代表してサミットに出席する事こそ、大いに国益を損ねる物と考えているし、菅直人の信頼性が、少なくとも私にとって地の底まで、失墜しているのは、ほかでもない菅直人自身の責任であると断じてしまう。そ奴がタダ、未だに日本国首相にあるというだけで、サミット出席前には批判を控えろなどと言うのは、笑止千万である。
 「信頼性をいたずらに失って」居るのは他ならぬ菅直人自身である。情状酌量の余地などあるものか。
 
 それでも毎日は、その社説を次の一文で〆る。
 
毎10> (自民党は)かつて半世紀近く政権を担った大与党として、
毎11> かつ倒閣後の与党に名乗りを上げる野党第1党としては、
毎12> 自分たちであればどうしたのか、今後どうするのか、という議論の方を深めてほしい。
 ちょいと待てやコラ。
 一体毎日は、かつて参院を牛耳る一大野党であった民主党に、そんな「大野党ぶり」を求めた事があったか。或いは今後、いずれ必然的に(*1)野に下るであろう民主党に「かつての与党として」上記のような立派な態度を、果たして求めるのか。
 民主党に対して甘いのも大概にしやがれ。菅直人には日本国首相としての、民主党には日本の政権与党としての、責任を追及して然るべきであろうが。なにが「原発に政局持ち込むな」だぁ?
 
 残る産経は・・・実は余り言う事がない。タイトルは「首相の行動徹底検証せよ」であり、毎日と違って/朝日と共通して海水注水中断を重大視してその経緯原因究明を求める。但し毎日・朝日と違って国会での国政調査権発動を求め、国会の場での追求を求め、さらには震災翌日、海水注水中断の前に敢行された菅直人の福島原発視察の影響検証も求めている。言うもサラナリであるが、「我が意を得たる」思いである。
 
 以上から今回の社説比較を数式化すると・・・・
 
 毎日 <<  朝日  << 産経
 
と言うところだろうか。
 つまりは今回のワースト社説は、毎日社説である。

 

<注釈>

(*1) 自然消滅しなければ、だが。
 

社説一覧

産経 海水注入中断 首相の行動徹底検証せよ http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110524/plc11052403390004-n1.htm
 
読売【参考】 放射能汚染 綿密な健康調査で不安を拭え  http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20110523-OYT1T01304.htm?from=any
 
毎日 海水注入問題 原発に政局持ち込むな  http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20110524k0000m070153000c.html
 
朝日 原発事故調査―第三者機関で解明を http://www.asahi.com/paper/editorial20110524.html?ref=any
 
東京 菅内閣要職発言 「言ってない」に辟易だ  http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2011052402000055.html