3. 福島原発事故への冷却機能つき石棺方式採用可否検討

応援いただけるならば、クリックを⇒ https://www.blogmura.com/
 
 ならば、冷却機能を持たせ、何とかして底を設置した若しくは石棺の底と同じぐらい堅牢で頑丈な基礎を持った基礎の上に建築される石棺ならばどうだろうか。EMINEM さんご推奨の石棺は、循環冷却機能つきだ。そんな「新石棺」ならば、福島原発事故に適応すべきだろうか。
 
 「冷却機能付き石棺」とチェルノブイリ式石棺との最大の相違は、「外部に冷却器があり、石棺内に入る冷却配管があること」である。冷却の媒体としては従来どおり水を用い、石棺内と冷却器とを循環させる、即ち通常の状態の原発が実施している冷却と同じ方法が妥当だろう。
 水以外の媒体、例えば液体ナトリウムを使う方法や、或いは媒体の循環ではなく伝熱で冷やす方法もアイディアとしてはあるが、冷却水は既に格納容器・圧力容器内にあるのだから、水以外、特に水と相性の悪い液体ナトリウムを使う方法などは、水による冷却からの切り替えだけ考えても、余計なリスクとなるから、とるべき策ではない。
 外部の冷却器で水を冷やすとしても、加圧水型原子炉ならば、その水で炉心を直接冷却するか、「炉心を冷却した水」一次冷却水を冷却するかの選択がありうるが、福島原発は沸騰水型なので「直接炉心を冷却した水」を冷却する方が、余計なリスクは犯さずに済もう。今後、格納容器に相当な水を入れ、これを2次冷却水として利用し、石棺の外へは「格納容器に入って圧力容器(と間接的にその中の炉心)を冷却する方法もある。現在1号機に計画中とされる「水棺」が完成すれば、この方法は取りやすくなるだろう。循環する冷却水の安全性が高まる利点がある一方、特に石棺方式とした場合は「炉心の直接的冷却」が石棺完成後は極めて困難になる欠点がある。
イメージ 1
沸騰水型原子力発電所の構造

 因みにEMIEM さんのアイディアは、「炉心に届く新たな冷却水配管を設ける」だが、是が如何に困難な工事かは、以前のコメントに縷々述べた通り。福島の沸騰水型原子炉には元々原子炉炉心にまで届く配管があるのだから、損傷部分は迂回なり修理なりするとしても、冷却するなら是を利用しない手は無い、少なくとも新たな配管を設置するよりは既存の配管を修理すべきと考える。それは、石棺を設置するか否かとは無関係に、炉心を冷却する以上は同じ事である。
 
 当たり前だが、石棺方式を取らずとも、安全のためには、炉心の冷却と最悪事態である再臨界の阻止が不可欠である。再臨界に到ってしまったら、それが継続し規模が大きくなれば、喩え石棺の底を敷いたとしても、破られかねないのだから。
 
 では、冷却機能付与の目処が立ったとして、石棺自身の設置範囲と設置時期はどうすべきだろうか。
 
 どうも石棺論者の多くは「直ちに石棺設置」を考えているようだ。例えば「我が敵」小沢一郎なんぞは「ベントなんてやめて石棺を設置しろ」と言わんばかりだ。石棺が完成するまで原子炉内の圧力上昇か格納容器の強度が充分もってくれると言う、狂信的確信がなければとても主張できないところだろう。震災後のベント開放が遅れて水素爆発につながったのではないかと言う疑問は当ブログでも何度か取り上げたところであるが、ベントがもっと遅れていれば格納容器自身の破壊に到った可能性もあり、その場合は放射性物質の拡散は、主として水素爆発による拡散のみの現状より、さらに酷い事になっていただろうし、石棺の完成がその格納容器破壊に間に合った可能性は、殆ど無い。
 
負け犬の遠吠え-小沢一郎、政府東電を批判  http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/34983275.html
 
 石棺が格納容器のすぐ外側、原子炉建屋内を満たすようなイメージで設置されるならば、格納容器の強度を補強する形になるが、この状態でなお圧力が上昇してしまった場合、ベントは「炉心を冷却している冷却水を石棺外にベントする」しか方法がなくなる。炉心の一部が溶け落ちて冷却水の中に混じっている可能性がある現状では、通常運転時よりもさらにありがたくない事態だろう。
 
 故に、石棺を設置するならば、格納容器の外に相応のスペースを持たせて、格納容器から石棺内にベント出来る様に、さらにベントによる圧力上昇に堪えられるように「大きく」か「頑丈に」かその両方に(*1)、設置しなければならない。無論、石棺外から圧力容器の直接ベントを可能にする動力線と信号線も必要になる。
 
 冷却に利用する心算であるが、沸騰水型原子炉に元からある配管も忘れてはいけない。それは炉心の入った圧力容器から出て、原子炉建屋隣にあるタービン建屋に入り、原発が健全なときはこのタービンを廻して発電し、二酸化炭素フリーの膨大な電力を供給していた。従って石棺を設置する場合は、原子炉建屋とタービン建屋まで石棺で覆ってしまうか、冷却に利用する以外の上記冷却水配管を封鎖するなどの処置が必要になる。
 

 

<注釈>

(*1) 例えば、石棺の耐圧限界が格納容器と同じに出来たならば、石棺の大きさは格納容器の約2倍の容積あれば充分で、これ以上の圧力になったら格納容器と石棺が同時に破壊する計算になる。
 実際は一体金属製の格納容器と同じ強度をコンクリ製の石棺に持たせるのは、相当難しい筈だ。
 石棺の耐圧限界が格納容器より低いならば、「充分な石棺の大きさ」は、大きくなる。例えば、1/10の強度ならば、容積は約11倍必要で、是より小さく作っておくと
、格納容器よりも先に石棺も破壊される。
 

4.結論 石棺は妙案でも万能薬でもない Tohden Vor!

 以上のように相応の規模になる「冷却機能付き石棺」だが、ではその設置時期はいつが良いかと言うと、石棺論者達に言わせるとどうもASAP( As Sooon As Possible 可及的且つ速やかに 意味:サッサとやらんかいボケ!)で、今から即座に設置しても遅いぐらいと言う主張らしい。

 が、炉心の冷却機能を完全に信用するとしても、石棺の完成は冷却機能の完成後であり、信用しないのならば冷温停止後。後者の場合は冷却機能そのものが不要になるから、石棺設置時期は遅くなるだろうが、工事はそれだけ簡単になるだろう。(*1)
 「冷却機能の回復と平行して石棺設置を進める」と言うのは、余り意味がない。確かに、石棺の設置そのものは相当な時日を要するであろうし、必要な冷却機能が回復し次第直ちに石棺を機能させられるように、出来るところから並行作業と言う発想はわかるが・・・・
 
 (1) 冷却機能の回復を目指している現状でも、放射性物質汚染水もあれば、作業員の負荷もあり、進捗ははかばかしくない。二正面作戦は失敗する可能性が高い。

 (2) 放射性物質汚染水の除去、作業環境の改善は、石棺設置に当たっても必要な作業であり、その分「平行作業」のメリットは薄れる。

 (3) 現時点での放射性物質拡散は、放射性物質汚染水の漏洩によるものが主と考えられる。従って石棺に期待されている放射性物質拡散阻止効果は、今の福島原発では期待できない。

 (4) 石棺は、石棺として完成するまで石棺としての機能果たさない。冷却機能回復作業を妨害しない程度の未完成の石棺は、精々、雨除けの役割しか果たせない。
 
 以上のように、現時点においても福島原発における石棺方式採用は、喩え冷却機能付きの「新石棺」方式であってもメリット少なく魅力に欠ける。
 石棺を設置するならば、冷温停止後で、それならば冷却機能は不要だ。(*2)
 震災直後から現在までの「石棺設置」は論外だ。冷却機能がまだ回復していない。冷却機能の回復を最優先する、水素爆発以降の東電の方針を、私は新ためて支持する。
 
 チェルノブイリ式の冷却機能なき石棺は、チェルノブイリでは止む無き仕儀であったと言えようが福島では精々が、無責任極まりない「臭い物に蓋」に他ならない。(*3)
 
 前進せよ、東電。
 
Tohden Vor!

 

<注釈>

(*1) でもって、「石棺を設置するならば、冷温停止後だ。」と言うのは、当ブログの従来からの主張だ。
 
(*2) チェルノブイリの石棺を考えると、冷温停止後の石棺は、大気中への飛散を防止する「蓋」の方よりも、土壌への拡散を防止する「底」の方が重視される可きかも知れない。この場合、設置する工法も大分変わって来るだろう。
 
(*3) その意味では、「極めてロシア的」ではある。