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 「石棺」と書いて「せっかん」と読む。
 何やら語感からすると「折檻する」とか「摂関政治」とかの「せっかん」と間違えそうであるが、漢字で書けばその意味は一目瞭然(*1)、「石の棺」である。
 元々の意味はその漢字表記どおり「石の棺」で、西欧で多い土葬にはたまに使われる文字通り石でできた棺。フランスは「花の都」パリで公開されているナポレオンの大理石の立派な棺(*2)なんかがその例だ。我が国では火葬の普及以来、棺は木で出来ているのが通り相場(*3)だが、古墳時代の遺体は石室に安置されていたから、石室は一種の「石の棺」とみなす事ができよう。
 

 

<注釈>

(*1) 表意文字の偉大なところ。尤も、大陸が導入している簡字体はどうなんだろうね。簡略化されて部首が大分消えてしまったように見えるのだが・・・
 
(*2) 勿論中身はナポレオンの遺体で、ナポレオンはレーニンでも毛沢東でもないので、遺体に防腐処置なんて小細工はされていないから、今頃はもう「フレブ・ザ・フレブ クロフ・ザ・クロフ」もとい「灰は灰に、塵は塵に」なっている事だろう。
 尤も、蓋からして立派な分厚い大理石で出来た棺は、「過ってナポレオンが蘇っても、出て来られない様に。」と言う用心のためと、私には思われる。吸血鬼になってたら一寸わからないが、ゾンビぐらいなら、出ては来られまい。
 
(*3) 石の棺で火葬しようとすると、燃料が相当要る。エコじゃないぞ。尤も「火葬」と言う時点で、衛生的には良くても、エコではないな。余計な二酸化炭素が出る。
 エコな葬儀は、鳥葬だろうか。
 

1.「石棺方式」人気急上昇

 だが、昨今巷間良く聞く「石棺」ないし「石棺方式」となると「棺」の一種ではあろうがスケールが違う。原発史上最大の事故であるチェルノブイリ事故(*1)に於いて、その解決策として取られたのが石棺方式であり、そのためもあってか、「東電が福島原発事故に石棺方式を取らないのはケシカラン」と言うぐらいならまだしも、「石棺方式を取らない東電の現在の方法を支持するような者が、今のような事態を招いているのだ。」断罪する者まで出て来る始末(*2)。前者の代表が琉球新報社説や「我が敵」小沢一郎のようであり、後者の例が以下の「我が敵」小沢一郎関連記事にコメントを下さった EMINEM さんである。
 
負け犬の遠吠え-小沢一郎、政府東電を批判  http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/34983275.html
琉球新報社説 「大震災・放射性物質拡散 「石棺」方式の決断検討を」を斬る   http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/34937144.html
 
 厳密に言うならば、「我が敵」小沢一郎は石棺方式と言明しているわけではない。但し、「(原発に)水を入れる、バルブを開けることを繰り返せば、放射能は広範囲に飛散し、汚染が広まることがある」として「思い切った手だて」を取れといっているから、初期の頃に東電が取ろうとしていた「水補給による冷却と、ベントによる圧力緩和」を明白に否定しており、上記記事にも書いた通り、「石棺方式」ぐらいしか私には思い浮かばなかった。今でも思い浮かばない。
 
 琉球新報社説の方はもっと明白だ。ヘリや放水車で自衛隊や消防隊が放水による冷却、主として使用済み燃料プールに対する冷却を試行錯誤していた頃に、その放水による冷却よりも石棺方式を検討しろと、明白に主張している。
 
 EMINEM さんの方はもう少し詳しい。ただ石棺を設置しろではなく、冷却を考えているところが最大の違いで、「炉心までパイプを通して建屋外部に冷却循環ポンプを設け、絶えず温度を測定しつつ今あるウランペレットの融解からの温度異常上昇を制御する」と言うから、前二者より遥かに具体的だ。そのパイプの内側に厚めの金メッキも施すと言うから、芸が細かい。
 
 この三者とも、現状及び今までに東電が取ってきた処置法に対する絶大な利点を石棺方式に見出しているようである。それはどうも「放射性物質飛散・漏洩の防止」であるようだ。原発史上最悪の事故であるチェルノブイリで採用された方法と言う、「ブランド信仰」もあるのだろうし、「石棺」と言う言葉からして、頑丈な石の箱の中に詰め込まれるようで、如何にも放射性物質放出・漏洩を防いでくれそうだ。東電が懸命に放水したり給水したり循環させようとしたり、基本的に「既存の施設と水を使って、先ずは冷却、ついで放射線遮蔽」、よりも頼もしそうにも見えるだろう。
 
 果たして、石棺方式はそんな期待に応えるような、放射性物質封鎖策なのであろうか。

<注釈>

(*1) 今回の福島原発事故が「レベル7」になったからって、「フクシマがチェルノブイリ級である事が判明した」などと言うのは、事実の一端を、それも極めて誤解を招きやすい一端を、伝えるのみであると言うのは、何本かの記事にすでにしたところだ。
 今回の福島原発事故では炉心そのものが吹っ飛んだわけでもなければ、死者も今のところ一人も出ていない。
(*2) 当然ながら、そんな断罪は当ブログや私に対する断罪でもある。
 

2. 「元祖」石棺方式 チェルノブイリの夢と現実

 先述の通り、石棺方式は原発史上最悪の事故であるチェルノブイリで採用された方法だ。ついでに言えば、幾ら「レベル7で福島原発事故はチェルノブイリに並んだ」といった所で、福島原発事故がチェルノブイリ以上に酷い事になっているわけでも、チェルノブイリ並みに酷い事になっている訳でもない。福島原発では、まだ放射線でも爆発でも、誰一人 repeat 誰一人死んで居ないのだから、「チェルノブイリとどちらが最悪か」なんて、比べるまでも無い。
 
 チェルノブイリ事故と今回の福島原発事故の相違は、震災後大分経ってから産経が報じているが、重複覚悟で要約すれば、チェルノブイリでは原子炉の制御に失敗して暴走し、炉心がメルトダウンし、再臨界も何も臨界状態のまま水蒸気爆発/水素爆発を生じて炉心そのものが拡散。おまけに格納容器なしの黒鉛を減速材とする黒鉛炉(*1)であったために、火災を発生し、その火災が10日間に及び、この間に大量10t前後と推定される放射性物質が拡散した。
 
チェルノブイリ、スリーマイル島原発事故との違いは?  http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110403/dst11040320340044-n1.htm
 
 その後、減速材としての鉛を炉心に投入し、液体窒素で周囲から冷却して行った上、炉心の上に数千トン(!?(*2))の砂嚢をヘリから投じて積み上げた周囲に分厚いコンクリート製の建物「石棺」が構築された。その耐用年数は築30年と言われ、事故後25年になる現在は、さらにその石棺を覆う「シェルター」の建設計画があると言う。
 
 さて、賢明な読者ならばいくつかの点にお気づきだろう。例えばそう、この石棺には「底」が無いのだ。言わば蓋なしの棺をひっくり返してチェルノブイリ原子炉に被せた状態だ。
 
 石棺は原子炉を囲むように、覆うように、後から建てられている。もとより、原子炉の炉心が据えられていた場所だから、基礎だって相応のものがあろうが、後から基礎を、それも外周から補強する、若しくは新たな基礎をその下に築くと言うのは至難である。つまり「石棺の底」は設置し難い。
 かてて加えて「鉛を減速材とし、液体窒素を以って冷却」した炉心は、今福島原発で東電が頭を悩ますような汚染水の問題は生じないが、冷却は液体窒素が蒸発するまでの一過性で継続性が無く、メルトダウンした炉心材料に放り込んだ鉛の減速材が恒久的に( 今度こその)再臨界を阻止し続けるとは限らないから、一部で言われるように「再臨界に達した炉心材料が、その重さと熱で地下に沈下し続けている」いわゆる「チャイナシンドローム」の可能性も否定できない。尤も、そこに状況が至っていては、仮に石棺の底を上手い事敷いて置いたとしても、破られる可能性があるわけだが。
 
 さらには「築30年」とされ、事故後25年でそれを覆うシェルターを計画されている石棺は、10年単位の長期対策ではあっても、恒久対策ではない事も知れよう。事実、wikipediaの記述では
 
w1> 「年間4,000kl近い雨水が石棺の中に流れ込んでおり、
w2> 原子炉内部を通って放射能を周辺の土壌へ拡散している。」
 
とされているから、石棺自体が水密ではない若しくは石棺の水密は既に破れている。水密が破れていると言う事は、気密も破れている筈だから、石棺をさらに覆う「シェルター」の設置がますます待たれるところだろう。
 「石棺」。その言葉から受けるイメージは、重く、頑丈で、堅牢であり、絶大な信頼が置けそうにも思うのも無理は無い。だが、その実態は、上記の通りである。底もなければ、築30年しか持たず、築25年で相当雨漏りがしている。25年前のロシア人ではなく現代の日本人が作ればある程度改善できる部分もあろうが、「底がない」のは、そう簡単には解決できない。
 
 さらには、再臨界の恐れのあるまま核燃料を石棺に封じ込めたとしたら、仮に首尾よく石棺の底を設置できたとしても、再臨界した核燃料の熱で、その底まで破られかねない。
 言い換えれば、再臨界の可能性がある状態、または底の無い状態の石棺は、「石棺」として期待されるような充分な放射性物質封鎖効果を上げ得ない。

 

<注釈>

(*1) 黒鉛と言うの何のことは無い、炭素だ。当然熱すれば燃える。 
 
(*2) イ、イワンだ。イワンの「蒸気ローラー戦術」=物量作戦の力押しだ。