検証・大震災:初動遅れ、連鎖 情報共有、失敗(その2止)  http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110404ddm010040035000c.html

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日本国首相・菅直人の信じ難い勇気

 あくまでも、この記事をそのまま鵜呑みにすれば、だ。
 
 左様、いくつかの点でこの毎日記事には疑義を呈さざるを得ない。

 疑義の第一は、「ベント開始時間」である。毎日の記事ではベント作業開始は菅直人の視察が終った3月12日の午前中であり、ベントが開放できたのは午前10時17分となっている( 上記69>)。だが、先行記事にまとめた経緯では、この時刻は第二ベントの開放に着手した時間。スンナリとはベントは開かず、本当にベントが開始されたのは午後2時30分となっている。
 無論、先行記事が誤報である可能性もある。或いは、先行記事の根拠となった沖縄タイムス記事では「第1と第2の両方のベント開放でベントが開始される。」となっていたが、今回の毎日報道ではそんな記述は見られない。「最初に2号機のベントを開く計画を立てたが、途中で1号機ベント開放に切り替えた」と言うことが、先行記事では誤報されたという可能性もあるが、そうなると、先行記事に態々第1ベント完了、第2ベント完了の時刻が報じられているのは妙だ。
 
 
 いずれが正であるのか、或いはいずれも誤りであるのか、この辺りの経緯は未だ信頼できる情報が無いと言うことになる。
 
 一方で、
 
44> 午前6時過ぎ、首相は班目委員長らと官邸ヘリポートから陸上自衛隊の要人輸送ヘリ・スーパーピューマで福島第1原発へ飛び立った。
45> 首相は線量計を携帯していた。

と報じられているから、福島原発視察に当たり、菅直人は自らが被爆する可能性があると考えていた事になる。これは、菅直人が自らの視察に関わらずベント開放を命じたという、彼の主張の傍証となるかもしれない。

 さらには、

42> 政府は原子炉等規制法に基づき、東電にベントをするよう命令した。
43> 午前6時50分だった。
 
と報じられているから、ここで言う「政府」が菅直人自身或いは班目原子力保安委員長を意味するならば、移動中のヘリから無線か何かでベント開放を命じていた事になる。仲々、勇ましい事だ。

 ここで言う「政府」が、官房長官たる枝野か誰か、東京居残り組みを意味するならば、それこそ菅直人の視察に関わらずベントを開けと命じているのだから、現・民主党政権内にも私の同志が居るのかも知れない。即ち、不確実ながらも菅直人の暗殺を狙った可能性がある事になる。
 
46> 午前7時過ぎ、同原発に着いた首相は大地震に耐えられる免震重要棟に移った。47> 「そんな悠長な話か。早くベントをやれ」
48> 首相の怒声が響く。未明に指示したベントはまだ実施されていなかったからだ。
49> 現場を熟知する吉田昌郎福島第1原発所長は実施を約束。
50> この後、官邸は東電本店よりも吉田所長に信頼を置くようになる。

 上記の報道の内、後半部分は菅直人の弁明「原発所長の人柄に触れた事が、その後の対処に役に立った。」に符合するものであり、ここでも「菅直人及び民主党政権の弁明どおりの報道」となっている。

 問題は、この報道が真実か、否か。或いはこの報道を真実と信じうるか、否か、であろう。
 
 この報道は基本的に「早いうちにベントを指示し、最終的にはベントを命じた菅直人初めとする民主党政府と、命じられてなおベントを渋る東電と」と言う図式になっている。最終的には菅直人自ら現場指揮官である原発所長に」ベントを命じ、原発所長はベントを約束して「官邸の信頼」を勝ち取って事になっている。
 
 ベントを開放するというのは間違いなく放射性物質を多少なりとも放出する事だから、東電にとっては経営トップであろうとも原発所長であろうとも大変な決意であろう。だからベントを決意するのが遅れる可能性は確かにある。
 
 だが、同じ記事に報じられている通り、
 
67> 1号機の格納容器内の圧力は午前4時半には、通常の2倍超の8・4気圧に達し、
68> 核燃料が溶ける「炉心溶融」がいつ起きてもおかしくなかったが、
 
とある。「通常の2倍の圧力」であれば、この午前4時半時点で1号機格納容器が破損する恐れにはまだ至って居なさそう(*1)だが、圧力が高いということは冷却水も入れにくいということ。そうであればこそ「炉心溶融」の恐れもあれば、温度が上がるという事は圧力も高くなることを意味するがあるのだから、「格納容器破損」と言う事態にも至りかねない状況。格納容器が破損したら、放射性物質の飛散はとてもじゃないが現状の比ではない(*2)し、無論ベント開放なんかよりもはるかに悪い。

 つまり、政府・官邸・菅直人からの「ベント開放」圧力もさることながら東電自体が更なる被害(*3)を防ぐために、ベント開放の決断を迫られていた筈である。

 12日未明の午前4時半にそのような事態に至っていて、午前6時50分には政府のベント開放命令を受けて、なおも午前7時の菅直人視察到着時点でまだベント開放に着手すらしていないとされる東電の態度は全く解せない。
 その後、水素爆発があって原子炉に加えて使用済み核燃料も危険な事態に至り、消防官、自衛官共々その後の事態処理に獅子奮迅の働きをしている原発職員や、その指揮を今でも取っている原発所長の行動を考えると、「かような事態に至った責任を感じているから」と解釈したとしても、なお「ベント開放を政府の命令に反してまで東電は渋った」と言うのは俄かには信じ難い。
 
 もっと信じ難いのは菅直人だ。線量計を身につけて、「俺の身に構わず、ベントを開け!」と勇躍福島原発に乗り込む日本国首相(*4)菅直人の勇姿・・・・貴方なら、想像できるだろうか。
 
 私には想像できない。
 それだけ、信じ難い状況であり、そう報じる記事もまた、信じ難い。
 
 菅直人は、福島原発の第二回視察を、悪天候を理由に中止している。「悪天候」と言っても台風が来た訳ではない。唯の雨である。この雨の中に含まれる放射性物質(*5)を恐れての視察中止であるならば、そんな菅直人に上述のような「勇気」が、ありうるだろうか。
 
 菅直人は、かつてO-157食中毒騒動の時にはカイワレを喰って見せ、風評被害を防いだが、今回の福島原発事故で一部の野菜から放射性部室が検出された事を受け、野菜を食べて風評被害を防いでいるのは自民党議員ばかりである。これまた野菜に含まれるかも知れない僅かばかりの放射性物質を恐れているのならば・・・(以下同文)
 
 菅直人は自称「僕は原子力に物凄く詳しい」そうである。が、福島原発事故の後、東工大出身の日比野靖・北陸先端科学技術大学院大副学長ら3人を内閣官房参与に迎えている。無論専門家を内閣に迎える事は「僕は原子力に物凄く詳しい」と言って誰の意見にも耳を傾けないよりはマシであろう。が、その専門家を探し出すのに、出身母校の名簿からと言うのは、幾ら東工大が有名大学だからとて、索敵範囲が余りに狭く、かつ偏っていよう。それではまともな専門的意見は、喩えセカンドオピニオンにしても難しかろう。
 それがあらぬか、前述記事の「福島原発ベント開放」以降、菅直人やら民主党政府やらが福島原発事故なり東日本大震災に対して、まともな策を講じていないように私には思われる。引用記事のような勇気と決断を見せてくれた( 筈の)菅直人が。妙ではないか
 
 無論その「妙」を説明する一つの仮説があることは、諸兄とっくにご承知であろう。
 
 即ち、菅直人が、我が身を省みず東電にベント開放を命じたと言うのが嘘であり、逆に福島原発視察が終わり充分其処から離れた頃にベントを開くように命じた可能性。何しろヘリで視察に来ているのだから、結構な速度で福島原発から遠ざかれる筈だ。

 或いは、もっと穿って考えるならば、菅直人は「俺自身が視察を完了するまでベントはするな」と命じて福島原発視察を敢行した可能性。
 
 さて、いずれがありそうな話だろうか。渋る東電を叱咤激励し、遂にベント開放までこぎつけたが間に合わずに水素爆発に至った、のか。
 或いは、あれこれ指示・命令を出しつつも、自らの安全のためにベントを遅らすよう命じておいて、「菅直人原発視察」後にベント作業が開始されたために間に合わず、水素爆発に至った、のか。
 
 如何に。国民。


<注釈>

(*1) 定常運転ならぬ異常事態の圧力に対しさらに安全率をかけて強度は設計するものだ。安全率は、比較的低い航空機でも1.25。普通は1.5は取るし、原発施設なら2以上だろう。

(*2) 現状は、格納容器か配管の一部が破損し、其処から溶融した炉心を含む放射性物質の入った冷却水が漏れ出しているものと思われる。それでも中の圧力はある程度保てているのだから、格納容器や圧力容器には大規模な破損はないものと推定する。

(*3) 敢えて「最悪」と言わないのは、「最悪」とは私の理解するところでは
①炉心が全面的に溶融し 
②溶けた核燃料がどこかに集まって再臨界にいたり 
③再臨界を制御不能に陥り 
④再臨界の熱なり水素爆発なり水蒸気爆発なりで格納容器も圧力容器も破損する
事態であるから。この事態に至って初めて「チェルノブイリ級の大事故」と言える。但し、チェルノブイリでは、上記①~④相当の事態に至った上で、火災が生じて放射性物質を撒き散らしている。

(*4) の筈。

(*5) それは、通常の雨よりも多くの放射性物質を含んでいたであろうが、極微量でゴミである。 産経「放射性物質 核実験の3倍」に見るミスリード http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/34967306.html  参照