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 以下に示す3本の記事は、いずれも3/15付けの産経webに掲載された、福島1号原発2号炉の爆発とその後に観測された放射線量増大に関する「専門家の意見」である。順番は時系列で並べたが、その最初の(1)が出る以前に時事通信が伝えるとおり、福島1号原発2号機については以下の事が報じられていた。
 
 「放射線量急上昇は短時間」
 「健康には影響しないレベル」
 「格納容器本体は圧力維持=大破損なし」
 「原子炉内水位は改善方向」
 
 その後、使用済み燃料を格納した4号機で火災が発生し、原子炉付近での放射線量が高い事が判明した事が、以下の記事になったようである。
 
(1) 「最悪の事態に向かっている」環境エネルギー専門家  http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110315/dst11031511350033-n1.htm
(2) 「三つとも制御不能の恐れ」九州大教授  http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110315/dst11031513180064-n1.htm
(3) 検出数値「非常に高いが、政府指示は妥当。パニック避けて」専門家  http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110315/dst11031514340084-n1.htm
 

(1)「最悪の事態に向かっている」環境エネルギー専門家

  http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110315/dst11031511350033-n1.htm
2011.3.15 11:34
 飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長の話 
 東日本大震災が発生して以降、一番恐れていたのは制御されない状態で核分裂が連続的に起きる「再臨界」だった。
 核爆発と同じリスクがあり、その危険性が高まっている今は、最悪の事態に向けて突っ走っているといえる。東京電力や政府の対策もすべて後手後手に回っている。
 事態収拾に全力を挙げると同時に、かなり広範囲の避難計画が必要ではないか。
 

(2)「三つとも制御不能の恐れ」九州大教授

  http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110315/dst11031513180064-n1.htm
2011.3.15 13:17
 ■吉岡斉九州大教授(科学技術史)の話
 「福島原発の正門付近で高い放射線量が計測されているのであれば、原子炉建屋の付近ではさらに危険な状況と考えられ、必要な冷却作業が不可能になるかもしれない。
 2号機が制御不能な状態になれば、付近にある1、3号機の冷却作業も停止しなくてはならなくなるので、最悪の場合、3つとも制御できなくなる」

(3) 検出数値「非常に高いが、政府指示は妥当。パニック避けて」専門家

  http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110315/dst11031514340084-n1.htm
2011.3.15 14:34
 福島第1原発の敷地内で、最高毎時400ミリシーベルトという非常に高濃度の放射線量が検出されたことについて、広島大原爆放射線医科学研究所の星正治教授(放射線物理学)は「非常に高い数字ではあるが、現時点で(20~30キロの屋内退避を命じた)政府の指示は妥当と思われるので、パニックになることだけは避けてほしい」と冷静な対応を呼び掛けている。
 星教授によると、放射線を急に(急性)全身被曝した場合、人により差はあるが、毎時300~500ミリシーベルトでリンパ球減少などの急性症状が出始めるといい、その数値に達している。
 「国内では聞いたこともない」(星教授)ほど高い数値で、10時間浴び続けると、毎時4000ミリシーベルトを1時間浴びた場合と同じ放射線量となり、浴びた人の50%が1カ月以内に死亡するほどという。
 一方で星教授は「逆に1分浴びただけなら放射線量は60分の1となるわけで、一瞬ならば、そうした健康被害が出るわけではなく、また距離が離れると放射線量は減る」と話す。政府の指示については「専門家が距離を計測して指示を出しており、現状の数値が正しければ危険性は低い。情報に気をつけ、パニックにならずに指示に従ってほしい」と呼び掛けている。
 

最悪の事態に備える事は良い事だ。が、不要な不安を煽っては「専門家」の名が泣こう。

 期せずして、(1)から(3)へ番号が大きいほど、後の報道程、楽観的な予想が並んだ形である。これには、4号機の火災が鎮火した事や、散々問題になった1号機と3号機への冷却水供給が安定化し、2号機への冷却水供給も安定とは断定されないながらも続行している事も効いているだろう。
 
 が、それにしても・・・(1)の専門家・飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長殿は「最悪の事態に向かっている」として、再臨界に陥りつつあると述べている。早い話がチェルノブイリの二の舞であるが、福島原発は震災直後に制御棒が安全に挿入され、原子炉としては運転停止ている。これが再び制御不能に陥る再臨界は、炉心の燃料が大量に溶融するメルトダウンが発生し、且つこれが格納容器の其処かどこかに集まって溶融でもしない限り、起き様がない。14日に2号機で発生したような燃料棒が完全に冷却水面の上に出る「空炊き状態」が長いこと続いた上に格納容器内に冷却水が無くなってしまうような事がない限り、そんな事は起きない。
 そんな最悪の事態が「絶対に起こらない」と断言することは出来ないかも知れないが、2号機への冷却水供給が不安定であっても続いている状況を「最悪の事態に向かっている」と言うのは、専門家らしからぬ発言と言うべきだろう。
 否、むしろ、「専門家の発言」を借りて、肝心にして重大な上記のような注釈をすっ飛ばして、「制御不能」「再臨界」「核爆発と同じリスク」などと報じる産経の姿勢を、私は疑わざるを得ない。
 
 (2)の専門家・吉岡斉九州大教授(科学技術史)は・・・・この人は本当にこんなことを言ったのかと疑いたくなるほどだ。なるほど2号機からの放射能漏れで、隣接する1号機、3号機の冷却作業すら危険になるという可能性はある。それは認めよう。だが(1)でも述べたとおり、「2号機が制御不能になれば」と言うのはかなり大きな仮定であるし、「3つとも制御できなくなる」前に取るべき手段は数多ある。その中には、放射線被爆で動けなくなるまで冷却作業を続行する決死隊を組むと言う手段も含まれる。
 無論、今回の事態の最高指揮官である日本国首相である( 筈の)菅直人が、そんな決死隊出撃命令を出すとは全く思えない。が、福島原発で作業に当たっている東電社員や自衛隊員には、そんな決死隊を実現してしまう可能性があると私には思われる。
 2号機からの放射線が増えたぐらいで、最悪の事態に備えるのは良いが、最悪の事態に備えて最善の手段を提案してこそ、専門家の価値もあろう。
 最悪の事態だけ描いて見せて、何としようか。
 
 (3)の専門家・広島大原爆放射線医科学研究所の星正治教授(放射線物理学)は、後発だけに流石に冷静だ。放射線が人体に与える影響も定量的に述べている。
 
 これが、傾聴すべき専門家の意見と言うものだ。
 
 産経webが広島大・星教授と言う傾聴に価する専門家にたどり着いたのは誉めて良いが、其処に到る試行錯誤は、今回の福島原発事故に対する報道の混乱振りを示している。
 
 産経よ、報道機関にこそ、冷静さが必要ぞ。
 
 報道機関がパニックに陥って、何とするか。