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 航空機映画、と言うのは、マイナーなジャンルなのだろう。航空機文学とどっちがマイナーだろうと言うぐらいの。航空機文学としてはサン・テグジュペリの「夜間飛行」やリンドバークの"We"何て一般人でも名前ぐらいは聞いたことがあると言いそうな作品があるが、航空機映画には一寸思いつかないことからすると、航空機映画は、航空機文学よりもマイナーと言うことになる。
 航空機映画というと何があるかと言えば、不時着した双発機から単発機を作り出して脱出する「飛べ!フェニックス the Flight of the Phoenix」なんてのはリメイクされたぐらいだからメジャーな方だろう。(※1)「遠すぎた橋」はそのC-47( DC-3の軍用型)とグライダー群の長い離陸シーン(※2)があるし、比較的新しいところで「スカイキャプテン」が奇想天外なカーチスP-40(※3)で楽しませてくれるが、いずれも航空機映画とは言い難い。
 一時は一世を風靡したと言って良い、トム・クルーズ主演の「トップガン」も、も相当古い映画だ。

 そんなマイナーな航空機映画の中にも、傑作もあれば、駄作もある。中には金字塔と言うべき画期的な作品もある。今回取り上げる映画「空軍大戦略」は、間違いなく航空機映画の金字塔である。
 
 時は第2次大戦初頭。ドイツのポーランド侵攻で始まった第2次大戦は「まやかし戦争」と言われた時期を終えて仏独が直接対峙した、と思う間もなくフランスが降伏。映画はそのフランス降伏直前から始まる。英国空軍ダウンディング大将の私信がオープニングで印象的に使われる。

 「故に、これ以上の増援はフランスに送らないで下さい。
 Battle of France フランスの戦いは終わり、今や英国の戦いBattle of Britain が始まろうとしていますから。我々はこれに備えるべきです。」

 このダウンディング大将の私信が終わると、タイトルバックBattle of Britainが出て勇壮な行進曲が始まり、その英国の戦いに備えた「空の無敵艦隊」ドイツ空軍の視察シーンとなるのだが、此処でズラリと並んで見せる大戦機、なかんずく第2次大戦ドイツ機こそが、本作品を航空機映画の大金字塔としている。(強く断言)
 
 イギリス人てのは物持ちが良いし、イギリスは第2次大戦の戦勝国。おまけにアメリカには劣るものの相応に量産しているものだから、スピットファイア戦闘機にしろモスキート戦闘爆撃機にしろ、飛行可能なイギリス軍第2次大戦機というのは相応に数がある。だからスピットファイアぐらいが出てくる映画なら相当にある。だが、ドイツは敗戦国であり、敗戦で一旦は武装解除された国。メッサーシュミットMe109が人類史上最多生産戦闘機であろうとも、ドイツ国内には飛行可能なメッサーシュミット何か殆どない。(※4)
 だが、此の映画の中ではメッサーシュミットMe109戦闘機や、ハインケルHe111爆撃機が、元気に飛び回る。繰り返す、飛び回る、のである。
 
 特殊撮影は一部にある。墜落シーンなんかはそうだし、撃たれた爆撃機の外板が剥がれ、操縦策が切れていく何てシーンや、銃撃そのものを外部から撮るシーンはそうだ。
 が、大半の飛行シーン、コクピット視点、これらは実機を使った実写なのである。そのために戦後もスペインで使われていたメッサーシュミットMe109戦闘機、通称「イスパノメッサー」とハインケルHe111爆撃機を持ってきて「本物のスピットファイヤと(魂を英国に売ってしまったとは言え)本物のメッサーシュミットによる実写空撮」をやってしまったのが此の映画だ。

 今ならばCGで誤魔化すところ、いや、CGで誤魔化すしか手がないところだが、当時はまだ実写が可能だった。メッサーシュミットが引いた煙の尾を、スピットファイアのコクピットが突き抜ける、迫力溢れた空撮が。
 その迫力に比べれば、イスパノメッサーが「魂を英国に売ってしまった」即ちエンジンを英国製マーリンエンジンに換装されており、ために機首廻りがスピットファイアそっくり(※5)になっていることも、気にならないと言ったら嘘になるが、看過しうる。
 ・・・とまあ、航空機ファン、なかんずく大戦機ファンにとっては狂喜乱舞したくなるような映画「空軍大戦略」であるが、実は空軍史映画としても相当なものがある。
 
 「かくも少なき人々」とチャーチルの演説で賞賛された英国空軍パイロットの圧倒的な不足。その不足を情報と統制で補うレーダー網、対空監視網、プロッター(※6)と地上管制迎撃GCIの完成。

 戦術的には、制空権の確保を目指して基地攻撃を主眼にしていたドイツ空軍が、ロンドン誤爆とその報復であるベルリン爆撃によって都市攻撃=戦略爆撃への方針転換。
 一方の英軍の方では大編隊戦術と小編隊戦術の対立(※7)。そして、ドイツ軍の方針転換と、亡命ポーランド人パイロット(※8)らの実戦配備(※9)で息を吹き返す英国空軍。その結果は空を圧する大編隊での迎撃となる。
 ラストはドイツ空軍の来ない静かな英仏海峡と、ドイツ軍の英本土上陸作戦準備の放棄。
 
 両軍の参加兵力と損害がテロップで流れ、チャーチルの有名な演説で此の映画は終わる。

 「かくも多くの人々が、かくも少なき人々のお陰を被ったことは、人類史上未だかつて無かったことである。」
 
 英国は、英国本土上空の、英仏海峡上空の、制空権を維持することで、本土防衛に成功した史実を、此の映画は良く伝えている。
 
 DVDも相当安くなったようだし、お勧めの一本である。
 
 因みに私は、此の映画のLDが発売され誰がためにLDプレーヤーを買った。勿論LDもだ。
 DVDも買ったけど。
 
<注釈>
 
(※1) 私は先代の方が好きだ。なんと言っても役者が違う。ジェームズ・スチュアートに匹敵する役者は、新作には見あたらない。
 「双発機から単発機を作る」と言うストーリー上、不時着する飛行機は同じ双胴双発の輸送機C-141である。こいつは、余り代替が効きそうにないな。
 
(※2) C-47がプロペラ廻してゆっくり動き始める。
 葛折りになっている牽引ロープが順に引っ張られ、やがて一直線にピンと張る。
 一瞬の間。
 そして徐に動き出す、牽引されたグライダー。
 この繰り返しを延々とやってくれる。
 
(※3) 普通のP-40は、潜水何かしたら水圧で潰れる。電動(推定)スクリューさえあればよいと言う問題ではない。プロペラだって水中で廻せば、推進器となるのである。
 
(※4) 確かMe109Gグスタフが1機だけあったような。尤もわが国の零式艦上戦闘機は、飛行可能な機体が3機ほどあるが、全部米国にある。嵐山美術館にある4式戦闘機「疾風」はあるところまで飛べた筈なんだが・・・
 
(※5) マーリンは、グリフォン共々スピットファイアに搭載されたエンジンである。さらに言えば、V型エンジンであり、メッサーシュミットオリジナルのダイムラーエンジンが倒立V型エンジンであるのに比べると、プロペラ軸が高い位置に来る。
 イスパノメッサーを見ていると、成る程レシプロ単発機の機首廻りは、エンジンで大半決まるものだと納得する。特に空冷式の場合。
 例外もあるが。
 F6Fヘルキャットと、F4Uコルセアが同じエンジンとは、機種廻りを見ていると、にわかには信じがたい。FW190D「鼻長ドーラ」とMe109の後期型もエンジン共通の筈だが、これは液冷式だし、オイルクーラーの配置が効いている。
 
(※6) 巨大な地図の上に置いた駒で敵味方の飛行体を表す方法。この駒を置いたり動かしたりするプロッターは、大半女性だ。
 その地図を見ながら各基地や飛行中の味方航空隊に無線で指示を出す。上記のレーダを含むセンサー群と、信用できる無線機があってこその方法だ。
 
(※7) 大編隊を組んでから迎撃した方が損害少なくして戦果は挙がるだろうが、爆撃前に迎撃することが難しい。一方の小編隊戦術は臨機応変で迅速な対応が可能だが、兵力の逐次投入となって、損害が大きくなる。
 "We don't need big wing or small wing.
 We need pilots・・・・・and the miracle."
 大編隊も小編隊も、我々の欲するものではない。
 我々に必要なのはパイロットだ・・・それと、奇蹟だ。
 
(※8) ポーランド人ハリケーン中隊の、隊長の退避命令無視しての突撃は、涙が出るほど格好良い。
 ”Repeat please! すまねぇが、もいっぺん言ってくんろ。”
 
(※9) このポーランド中隊の命令違反英国人士官がなじるシーンも、此の映画の白眉だ。
 英国人士官の叱責をポーランド人士感がポーランド後に通訳するのだが、最後の通達「your squadron is operational. 本日付けで当中隊は実戦配備とする。」は通訳無しに理解して、ポーランド人達は歓声を上げるのである。