応援いただけるならば、クリックを → https://www.blogmura.com/
 
 報じられているのは、先日記事にした世界初のソーラー飛行機「ソーラー・インパルス」号が徹夜飛行に成功したというニュース。先回の記事では今月頭に試験飛行とのことだったが、少し伸びて実施は7/8であったそうだ。一週間ほどの延期だから、天候待ち( それならば、延期は一日二日の公算大だ。)と言うよりは何らかのトラブルを解決したのだろうと推測できる。
  
夜間飛行への挑戦-スイスのソーラー飛行機、徹夜夜間飛行試験へ   http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/33025483.html
 
 兎にも角にも26時間の連続飛行=徹夜を含む飛行に成功したのであるから、実験は成功であり、「ソーラー飛行機でも夜間飛行及び徹夜飛行は可能」と実証されたことになる。別の報道では「着陸時には後48時間飛べるだけの電力があった」なんてものもあるから、機体の方だけならば「二徹三徹、どんと来い。世界一周12日間だって、天気さえ良ければ御の字だぜ!」と言いたくなるような状態らしい。これはこれで技術の一つの勝利であり、スイス人の誇りとするに足る。
 
 が・・・そこはそれ「世界初」でもあり、元々徹夜飛行でさえ危ぶまれるようなソーラー飛行機のこと。世界に先駆けたソーラー飛行機「ソーラー・インパルス」号を長時間操縦するのは並大抵のことではないらしい。 
 
1> ソーラー・インパルスには、自動操縦の機能がついていない。
 即ち今回の26時間完全徹夜飛行は、完全手動で行われ、飛行時間中パイロットは一睡もしていないのである。その上、
2> また、機体の翼長はジャンボジェット機と同等にもかかわらず軽量なため、
3> 風向きやちょっとした操縦に対して非常に反応しやすく、ボルシュベルク氏は注意力を維持し続ける必要があった。
即ち舵が良く効く機動性の良い、裏を返せば安定性に欠ける機体で、しかも翼面積が大きくて低速だから風の影響も受けやすい。操縦には細心の注意が必要なようだ。
 舵の利きは舵面の形状を変えたり、操縦系統に手を入れれば「利きすぎる舵」を利かなくすることは不可能ではないだろう。我らが零式艦上戦闘機が「操縦系統の計画的剛性低下」で舵の利きを絶妙に調整し、抜群の運動性能を実現したのと原理的には同じ事だ。
 が、主翼面積が大きいのは、ソーラーバッテリーの面積と低速飛行を可能とする/低速での飛行を可能とするためには不可欠なモノであるから、非常に効率の良い太陽電池と蓄電池や小型軽量大馬力の電動モーターなんてモノが実現しないと、一寸やそっとじゃ「風に対して敏感」というのは治りそうにない。いわば、ソーラー飛行機の特徴だろう。
 
 従って、当面の間、少なくともソーラー飛行機の長距離飛行はパイロットに相当な負担を強いることにになる。「世界初」の「ソーラー・インパルス」号ならばそれは更に過酷であり、
4> ■空調・与圧なし、気温はマイナス28度
5> 高度8000メートルでは日中でも気温がマイナス28度まで下がる。
6> しかし狭いコックピットには暖房もなく、与圧もされていなかった。
と報じられている。与圧室・与圧コクピットはては暖房までもないのは、上記1>の自動操縦装置ともども全体質量1600kgという軽量な機体とするための犠牲だろう。
 そのくせ、パイロットの居眠り防止には意を用いられていて、
7> 機体が5度以上傾いた場合には、ボルシュベルク氏の着用しているジャケットのそでが振動するように設計されていたという。
から、こちらは「居眠り防止」に特化したハイテクだ。Wiiコントローラーの中に入っているような慣性航法装置で姿勢角を検知し、携帯電話内蔵しているような振動機を使えばよいから、確かに質量としてはたかが知れている。特に、前者=慣性装置の軽量化が大きいだろうな。但し「居眠り防止」に特化しすぎている気はする。まあ、最大のリスクを排除しようと言うのだろうけれども。
 
 更に報じられているところでは、わざと「ファーストクラスのイスではない(堅い)イスを使った」とか「ヨガ運動と呼吸法で、体内の血流をうまく循環させ」たとか報じられている。意味するところはいずれも「居眠り防止」なのであろうが、特に前者は、さらなる長時間飛行に当たっては逆に障害となる可能性を秘めている。「ケツが痛くなって長時間飛行続行不可になった飛行機」なんて汚名を航空史に残さないためには、何らかの対策が必要だろう。
 
 無論、今後予定されていると言う世界一周飛行へ向けての課題は上記のいすばかりではないが・・・飛行機という機体と言うよりは、操縦する人間の方がより厳しい条件になりそうだ。
 
8> トイレもなくプラスチックの袋に用を足した。地上の管制チームはパイロットの体調も監視し続けた。
9> ボルシュベルク氏はスイス上空を飛行中、酸素マスクをつけ、
10> 栄養補助食品や自家製のサンドイッチをつまみ、フランスの米菓子リオレやコーヒーを楽しんだという。
 これらの報道が意味するところは、今回の「ソーラー飛行機徹夜飛行」がいかに困難であったかと言うことであり、その操縦者・ボルシュベルク氏の偉大さである。
 と同時に、本機を以ってしての世界一周飛行のさらなる困難さであり、特殊な人間ではない普通のパイロットがソーラー飛行機を以って長距離飛行するという実用段階への道のりの遠さである。
 
 以上を勘案すると、ソーラー飛行機は、無人機UAVとして先に普及するのではないかと、予想される。任務は監視・観察飛行というのが至当ではないかと考える外、如何であろうか。
 
 今回のソーラーインパルス号に、操縦者・ボルシェベルク氏とその飲食物その他以下の質量に纏めた自動操縦装置と任務遂行のための機器( カメラ、レーダー、無線機、赤外線カメラその他)があれば、エアバス並の巨体ながら、「晴れ続ける限り飛び続ける」長期間監視UAVになるのだから。