日中の(多分)お偉い学者さんが集まって、日中共同の歴史研究を行ったそうである。
 
 無名な歴史学者ですらない私だが、歴史マニアにして歴史愛好家の一人ではあり、その私の「歴史感覚」では、歴史観と言うのは社会観の根幹を成すバックボーンにして、人の数だけ歴史観はある。

私の「歴史観」観 http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/21076216.html
 
 であると言うのに、「日本と中国」即ち、「(一応)開かれた民主主義社会である日本(*1)」と「共産党一党独裁にして、学問は思想に奉仕するもの(*2)と考える中国」が「共同」で歴史を研究しようと言うのだから、その出発点からして私なんかは眉に唾つけてしまう。
 
 そんな「共同」研究が、まともに成り立つものかよ、と。
 先ず歴史観からして違う。こちらは曲がりなりにも「多様な」歴史解釈を許容しているが、向こうは政府御用達、五星印付きの歴史観でないと己が社会的地位やらへたすりゃ身体生命が危ういような人達だ。
 日本側はいかに自説を変えようとも、身体生命が脅かされるわけではないから、「議論」するにしても真剣味が違うのは兎も角、「議論してお互い切磋琢磨する」建設的議論になどなりようがない。したがって結論は良い所「両論併記」。下手すると中国側の「一方的見解」で押し切られるのは目に見えている。
 
> 「歴史認識問題を政治から切り離し、日中の関係改善に舵を切る」
 この日中共同研究のキャッチフレーズからして、「政治から切り離して」居るくせに「日中の関係改善に舵を切る」時点で目的が政治化しているのだから、矛盾している。
 
 案の定、その実態は、中国側に政治手金散々振り回され、日本側に学問的公平とも建設的議論とも程遠い妥協、「政治的譲歩」を余儀なくされている事は、以下に報じられている通りである。

【日中歴史研究】舞台裏は…決裂回避で「苦渋の譲歩」http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100131/plc1001312245012-n1.htm
 
 勿論、そんなところで学問的良心吹き飛ばして、妥協し譲歩した、日本側の「お偉い」学者先生方が情けないのである(*3)。最も日中対立が先鋭化しやすい「南京大虐殺」からして、例によって中国が「30万人以上」と言う南京市が1個半全滅してしまうような数字をぬけぬけと主張するのに対し、日本側から「2万人~30万人」と言う数字が出てきており、「南京大虐殺は無かった」と言う説は併記さえされないのであるから、これは日本側の学者センセイ方も相応に「人選」し、「日中友好人士」を集めたのであろう。それは日本の歴史学界の未だ主流かも知れないが、とてもとても「自由な開かれた議論」とは言い難い。産経新聞が主張で噛み付くのも当然だろう。
 
【主張】日中歴史共同研究 「南京虐殺」一致は問題だ http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100201/plc1002010321006-n1.htm

 一方の中国はと言うと、この「日中共同研究」で「南京大虐殺が認められた」事やら、田母神論文と異なり「日本は侵略者だと認めた」等と強調している・・・いや、こいつは「大本営発表している」(*4)と呼ぶに相応しいな。
 中国政府の目的は、「愛国教育」の延長、日本と言う「共通の敵」に対する「勝利」の宣伝。早い話が、国内の不満の捌け口を日本に押し付けて、体制の安定化を図っている。(*5)

日本が侵略認めると強調 中国紙、歴史研究で http://sankei.jp.msn.com/world/china/100201/chn1002011304003-n1.htm

 かてて加えて、「日中共同研究」の内、戦後史に関する部分は今回封印されて公表されず、第2回の共同研究にまわすという事だが、戦後史部分が封印されたことなどを報じるNHKのニュースを、例に依っての報道妨害でインターセプトしているようでは、期待が薄いというべきだろう。
 
【日中歴史研究】中国で報告書報じるNHKニュース番組中断 http://sankei.jp.msn.com/world/china/100131/chn1001312248003-n1.htm、

 この日中共同研究が示しているところは、日本側の様々な「政治的譲歩」にも拘らず、ついに「共同の歴史見解」と言うものは成立せず、中国側は日本側から勝ち取った譲歩を中国側に都合が良いように引用していると言うことであり、都合の悪い部分は論文の発表禁止は愚か、発表禁止したことを報じることさえ封印しようと言う、1984張りの言論統制を、中国政府は強いているということである。
 
 「現在を支配する者は過去をも支配する。
  過去を支配する者は、未来をも支配する。」 とは、ジョージ・オーウエル作「1984」に於ける、真理省のモットー。
1984 ジョージ・オーウェル http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/20762953.html

 今回の日中共同研究は、中国の歴史学会は「1984」世界にあり、中国政府は真理省のモットーを忠実に履行している事を、改めて示している。

 つまり、魂の自由を愛して止まない私のような人間にとって、中国、少なくとも現中国共産党政権は、不倶戴天の敵であると言うことだ。


<注釈>
(*1) 学会の実態は、実は相当閉鎖的で派閥的であるとも仄聞するが。
(*2) 最近はあからさまには言わなくなったが、かつて社会主義は、理論や定理にまで「思想性」つまりは「社会主義らしさ」を求めた。人文社会のみならず、自然科学にまでだ。一体何処が「科学的社会主義」なのか、私にはサッパリわからなかったし、今でも判らない。
(*3) こんな学者同士のお遊びが流れたところで、それで「日中関係が悪化」したところで、何ほどのことがあろうか。
(*4) 言うまでもないだろうが、中国に於ける報道は、「党の喉舌」即ち共産党政権の宣伝以外の何物でもない。Googleに「法令順守」を盾に干渉するのも、そのためだ。
(*5) そんな手法をとること自体が、体制の根本的不安定さを示しているのだが、そんな手法は、新たな日中戦争の火種となりかねないことには、厳重に警戒すべきだろう。
 民主党の能天気な見解に関わらず、中国は間違いなく、日本に対する脅威である。