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 既報の通り、鳩山民主党政権は、アフガニスタン支援策として5年間で4500億円と言う策を打ち出し、これをインド洋上給油活動中止に代わる物としてオバマ合衆国大統領の理解を求めるのだと言う。
アフガン支援はタリバン支援か? http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/30584431.html
 最初に謝らなければいけないのだが、上記の記事で私は「5年で4500億円、年平均900億円、戦闘機にして5機」と換算して見せた。謝るのは「900億円で戦闘機にして5機」と言うところ。「1機180億円」の勘定だが、これは一寸過大評価であった。現用のF-15Jなら一声100+億円。F-2はもう一寸高くて120億円ほどの様であるから、900億円は「戦闘機8機」ぐらいの勘定である。
 因みにイージス艦は1400億円程だそうだから、上記のアフガニスタン支援はイージス艦三隻分。海上自衛隊が保有する全イージス艦の半分を寄贈するのと同額である。


1. 費用対効果―コストを考える

 さてそれならば、野党時代の民主党などの頑強な抵抗を撥ね退けて継続されていたインド洋上給油活動は一体どれぐらい費用がかかるものだろうか。
 「人件費は高くても、補給艦他の乗組員の給与と燃料代。そう高いものにはつく筈がない。」とは思っていたが、年間69億円ほどなのだそうだ。http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/091111/crm0911110249009-n1.htm

 これに対し先日発表されたアフガニスタン支援策は年平均900億円。差し引き、831億円/年の支出増加であり、5年間では4155億円。イージス艦三隻にわずかに足らない程度の金額である。
 
 比率で言えば実に13倍。アフガニスタン支援1年分の費用で、インド洋上給油は13年間実施できるのである。
 長く実施できれば良いとは限らないが、総額4500億円はインド洋上給油活動ならば実に65年間実施できる勘定だ。65年もあれば流石のアフガニスタンの「戦後」も終わっている公算甚大とすべきだろう。
 
 少なくともコストと言う点で、従来継続されているインド洋上給油活動と、今度新たに公表されたアフガニスタン支援とではまさに「桁違い」であり、アフガン支援の方が高コストなのである。
 
2. 費用対効果―効果を考える

 それではパフォーマンスの方はどうだろうか。13倍のコストがかかろうとも、パフォーマンス=効果が圧倒的ならば、そのコストは甘受できる事もあるだろう。
 何しろ鳩山首相は、「何がアフガニスタンの人に役に立つか」と言う視点に立つと言い、岡田外相がお忍びでアフガニスタン現地を電撃訪問してまで「現地のニーズ」を追求し、いわば現政権の総力を結集したアフガニスタン支援策だ。さぞや効果的な施策が並ぶかと思いきや・・・
相次ぐテロ、支援関係者も対象に アフガンルポ http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091013/plc0910131849021-n1.htm

 その筆頭に上がっているのが、前々から噂の高い「タリバン元兵士に対する有給の職業訓練」である。「有給の」と付いたのが「進化」と言えば「進化」だが、実効性に対する疑念はそんな進化位じゃ小揺るぎもしないのである。職業訓練を受けたとて、職がなければ貧乏からは脱出できまい。
 11/11日夜のNHK AMラジオでは、アフガニスタン復興支援に当たる赤十字の職員(日本人)に対するインタビューを報じ、「民生支援をし、経済的に発展する事で治安を回復する事を期待したい。」とかナントカ言わせていたが、ソリャ「期待したい」のは山々だろうが、治安の回復しない=治安の悪い状態で経済復興していると言うのが一体どんな状況なのか、私には想像を絶する。この赤十字職員なり、NHKなり鳩山首相なりに確かなヴィジョンがおありと言うならば、是非に伺いたいところだ。 
 かてて加えて、「タリバン元兵士に対する給与」がタリバンに対する日本の支援となりかねないことは、先日の記事にも記したとおりである。
アフガン支援はタリバン支援か? http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/30584431.html

 警官の給料を半分もつと言うのは、警官とアフガニスタン政府にとっては嬉しいところかも知れない。が、見方を変えればアフガニスタン全警察官8万人に対するバラマキ政策と言う事である。8万人は相応の数だし、その家族を含めれば恩恵を受ける人間は相当な数に上るが、アフガニスタン国民としては少数派の域を出ない。
 警官とその家族以外のアフガニスタン人からすれば、日本がアフガニスタン警察に贈賄しているとしか見えないかも知れないし、それは一面の真理だろう。
 
 第三国でのテロ対策教育と言うのは、少なくとも対テロ戦争への効果を期待できる策である。相応に時間がかかり、即効性は期待できないが。
 これに対しタリバン=テロリスト側の反応は即効性があるだろう。即ち日本人がテロの対象として優先度を上げられるだろう事は間違いない。それは対テロ戦争においては「受容すべき危険」ではあるのだが、鳩山政権、なかんずく社民党にその覚悟があるかは非常に疑問だ。
 それでも今回発表されたアフガニスタン支援策の中で、一応の効果が期待できるだけ、この策はましと言うべきだ。
 
 農業指導や農地開発は、「有給の職業訓練」よりは未だましだ。これによって得られる農作物は現金ではないから直接武器に交換される可能性は低い。農作物として結実するまでにも時間がかかる。
 勿論、提供された資材を横流ししたり、その指導員を誘拐して身代金を取ったりしなければ、だ。
 当然、タリバンとしてはそうするものと考えるべきだ。農業指導者は暗殺と誘拐の対象になる。総額4500億円の巨大援助だ。身代金も相応に用意してあるのかもしれない。
 が、農業指導者が暗殺や誘拐されるようでは、効果的な農業指導・農地開発・その結果としての経済復興は、困難とならざるを得ない。
 
3. 鳩山首相のアフガン支援に対する疑念

 ところで、今回のアフガニスタン支援は、鳩山首相の言によると(*1)「その発想は昔から変わらず何がアフガニスタンで喜ばれるか。」なのだそうである。まさに「友愛外交」の面目躍如と言うべきで、日本の国益も諸外国に対する影響力=国威も全て無視して=犠牲にして、「アフガニスタン人民のために」貢献しよう。そのためには「多少の」出費も、(より重要な事に)出血も甘受しようという「友愛」精神に溢れた主張である。

 宣伝或いはアジ演説としてはそれでも良かろう。

 一国の首相が国益追及の場である外交の舞台で披露するには、余りに無謀で無思慮だ。
 
 まず第一に、日本の国益を損ね、日本人の血を流してまで「アフガニスタン国民に貢献」する意義が、私には理解できない。それはそれで一種「崇高な使命感」である事は理解するが、その崇高さには自己陶酔以上の価値が私には認められない。
 それとも「地球は地球にある全ての生命体及び非生命体の物であって人類だけの物ではない」から外国人に参政権を付与するのも当然だと主張される鳩山首相だから、「アフガニスタン人も人類だから貢献するのは当然」と言う主張なのだろうか。
 一種「崇高」ではあろう。
 が、全く理解できないし、その「崇高」に自己陶酔以上の価値は見出せない。
 それは、先述の在日外国人への参政権付与にしても同じであるが。
 
 第二に「政府の無駄を省く」として補正予算の執行を停止し、国債発行額が当初予定していた44兆円を大幅に超えそうになり、「事業仕分け」として兎に角削れそうな予算は全部削って「目玉政策」である「子供手当て」だとか「高速道路無料化」に当てようと汲々としている現在の財務状況と「今後5年間で4500億円」と言う大規模支出であるアフガニスタン支援策との整合を問う。
 かかる財務状況下で左様な支援を新たになさねばならない理由だ。
 上記記者会見で鳩山首相は
>給油をしないから、その代わりにアフガンの支援、
>こういうことをやってあげますよという発想ではなく
と述べているのだから、これは財政が極めて苦しい中で立ち上げようという新規事業であり、なおかつ「景気回復」には殆ど全く寄与しないであろう事業だ。説明と合意が必要であろう。

 第三に上記記者会見では「給油をしないから、その代わりにアフガンの支援ではない」と明言しておきながら、今度オバマ大統領が訪日する際にはこのアフガニスタン支援策を以ってインド洋上給油活動中止に理解を求めると言う事の矛盾をどう説明するのか。
 先の記者会見が嘘だったのか、今度来るオバマ大統領に対し嘘をつくのか、はたまた「進化」してアフガニスタン支援策はインド洋上給油活動の代替策に化けたのか。
 
 鳩山首相のブレはいつもの事で、そのブレを「ブ」の字とも言わないのが今のマスコミではあるが、それはそのブレを「誰も見ていない」或いは「誰もが許容している」と言う事は意味しない。
 
 「我々は眠らない。」-ピンカートン探偵局-

<注釈>
(*1)出典;2009/9/25 記者会見 http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090926/plc0909260947011-n1.htm
 この人の主張はコロコロ変わるから、出展を明示しないと特定できない。


4. 鳩山首相の発想 金4155億円也

 以上から、今回のアフガニスタン支援策は、私には鳩山首相と民主政権(及びそれにつるんだ社民党)の自己陶酔によるものとしか評価できない。
 言い換えれば、鳩山首相の「アフガニスタン人のために」と言う発想と「インド洋上で自衛隊が給油活動する事はケシカラン」と言う社民党(と多分、鳩山首相自身の)思い込みが、年間831億円、総額4155億円の財政支出(人的物的損害に対する補填含まず)と言う形で米国大統領の前に開陳されようとしているのである。
 
 その自己陶酔は確実に日本の財政を圧迫するし、恐らくはアフガン民生支援に従事する日本人の血を必然とするだろう。
 その血を流さない、或いは流れる血を減らそうという努力も施策も今の鳩山政権は全くと言っていいほど実施していない。護衛に陸上部隊を派遣しようと言う話もなければ、護衛をアフガニスタンに駐留する他国の軍に依頼すると言う話も全く聞かない。「日本の民生支援なんだから、護衛するのなんて当たり前だ。」と考えているか、「日本の民生支援がアフガニスタンでテロに襲われるなんてあり得ない。」かのいずれかであろうが、後者であるとするならば、岡田外相はわざわざお忍びで出かけていったアフガニスタンで、一体何を見てきたのだろうか。
 
 「心、此処にあらざれば、見るとも、見えず。」
 
 それに加えてその効果は、対テロ戦争への貢献と言う意味でも、アフガニスタン復興に対する貢献と言う意味でも、非常に疑問である。
 
 さあさ、国民。

 鳩山首相及び民主党の自己陶酔と社民党の自己満足のために、イージス艦三隻分の大金を、ドブに捨てる覚悟があるか?
 財政事情が逼迫し、「事業仕分け」で片っ端から事業を停止せざるを得ないこの現状で。
 
 「友愛外交」のために。