3. 推論―何が関門海峡で起こったか?―

 報じられているところでは、韓国コンテナ船「カリナスター」は先行する貨物船を当初右舷側から追い抜こうとしていたと言う。貨物船や「カリナスター」からすると右舷に緩やかにカーブする航路であるから「インを攻めようとした」訳だ。
 これに対し貨物船はこれから右舷に転舵するときに右舷側に接近されたらおっかないから、左舷から追い抜いてくれと言い、関門海峡の交通を管制する海上保安庁も左舷から抜くように助言したと言う。
 以上は海上保安庁と貨物船、韓国コンテナ船「カリナスター」の事故直前のやり取りであり、交信記録はあるだろうが私のような一国民では確認が難しい事象だ。
 但し、韓国コンテナ船「カリナスター」は「港湾管制当局の指示で左側から、前方の貨物船を追い越そうとした際に衝突した」と少なくとも事故直後は主張していた事もあり、海上保安庁から貨物船は左舷から抜くようにとの交信があった点では海上保安庁・韓国貨物船「カリナスター」の証言は一致しているから、これは真実と見てよさそうだ。
 但し、海上保安庁が今回の事故で管制官の刑事責任は問わないと報じられている通り、海上保安庁の交信は助言であって指示ではなく、先行する貨物船を右舷から抜くか、左舷から抜くか、抜かないかは韓国貨物船「カリナスター」の船長の責任と言うのは、法的にも常識的にも正しそうだ。
 
関門海峡・護衛艦衝突:管制官を立件せず 助言に法的権限なし--海保方針 http://mainichi.jp/select/jiken/news/20091110ddm012040122000c.html

 問題は、「先行する6ktの貨物船を追い抜こうとする12kt以上のコンテナ船が、90度近い変針をする。」と言う行動が、「貨物船を追い抜こう」と言う意図や海上保安庁の「左舷から抜け」と言う助言で、充分説明できるかと言う事だ。
 忘れてはいけないのだが、「90度変針した」ならばまた逆方向に90度変針しないと元のコースに戻らないから、その間、少なくともCross方向に航行している時間は「追いつく」と言う意図に対しロスとなるし、その分先行する貨物船の航路から横にずれる事になる。
 広い洋上で、充分優速ならばそれも良いかも知れないが、先行する貨物船と韓国コンテナ船「カリナスター」の速度差は6~8kt=時速11~15km=秒速3~4m。200mの船を船体長分抜くのにも1分近くかかる速度差しかない上に、先述の通り変針するのは関門海峡でも特に狭い関門橋の下である。おまけに関門海峡の航路は緩やかに右にカーブしているから、90度近く左へ変針した韓国コンテナ船「カリナスター」はそれ以上の逆方向=右へ変針をしないと、航路に戻れない。
 「先行する貨物船を海上保安庁の助言に従い左舷から抜こうとした。」ためにかような舵取りをしたというのならば、韓国コンテナ船「カリナスター」船長の正気を疑わざるを得ない。少なくとも、此処が関門海峡で関門橋=海峡でも特に狭い部分がすぐそこにあると言う現状認識を全く欠くほどの「心神喪失」状態であったと考えざるを得ない。

 或いは、「関門海峡の封鎖を企てて失敗した。」と考える方が、未だ合理的だ。
 先述の通りの舵取りなのであるから、仮に護衛艦「くらま」が衝突を回避したとしても、韓国コンテナ船「カリナスター」が関門海峡の下関側に座礁なり衝突なりした可能性は相当に大きい。
 

4. 合理的判断―韓国コンテナ船とマスコミに、然るべき鉄槌を!―

 では、韓国コンテナ船「カリナスター」が(*1)関門海峡封鎖を意図したものではないとしたら、何故こんな狭い海峡でこんな急激な変針をしたのだろうか。
 先述の記事では衝突直前の韓国コンテナ船「カリナスター」の動きは、海上保安庁の分析では以下のようになるという。 http://mainichi.jp/photo/archive/news/2009/10/29/20091030k0000m040142000c.html
 
①>衝突の数十秒前にカリナスターは貨物船の右後方に急接近。
②>関門海峡海上交通センターの管制官は、貨物船に進行方向に向かって右(北九州市側)へ寄るよう助言し、
③>カリナスターには貨物船を左側から追い越すよう連絡した。
④>カリナスターは関門橋に差し掛かった時点で、通常の追い越しでは考えられない急角度で下関側へ針路変更。

 海上保安庁の分析が正しく、韓国コンテナ船「カリナスター」の動きが報じられている通りであるならば、それを合理的に(*2)説明できる解釈は、私の想像の範囲では以下の通りである。

(1)上記③の海上保安庁助言に関わらず、韓国コンテナ船「カリナスター」は先行する貨物船を右舷から抜くべく「イン側を攻めて」いた。
(2)先行する貨物船は上記②の海上保安庁助言に従い、また航路が右にカーブしている事もあり、航路を右に寄った。
(3)先行する貨物船を右舷から抜こうとしていた韓国コンテナ船「カリナスター」に対し、貨物船が右に寄ってきたので衝突の危険が生じた。
(4)「追い越す場合は追い越す側が回避の義務を負う」のが船舶の回避原則であるが、狭い関門海峡をさらに右によって「右舷から追い抜こう」としていた韓国コンテナ船「カリナスター」は右に変針することが出来ない。やむを得ず左に転舵して貨物船との衝突を回避しようとした。90度近い大変針は船の行き足=接近速度を減らして衝突を避ける手段であった。その結果、上記④の急角度変針となった。
 なお、この際に逆進なり逆ピッチなりをかけて減速すると言う選択が韓国コンテナ船「カリナスター」にはあった筈である。逆進・逆ピッチと言うのは車のブレーキと違って船としては緊急回避手段なのだが、かような事態はまさに緊急であろう。
 
 さて今度は護衛艦「くらま」の立場で考えてみよう。
 「くらま」は護衛艦であり、最大速度公称30ktを誇る。経済巡航速度はその7割程度と推定できるから、およそ20kt前後であろう。何もない海上ならば経済巡航速度で航行し、燃料を節約し(*3)たいところだが、狭い関門海峡航路ではそうも行かない。「15~17kt」と言うNHKが報じる速度は貨物船の6ktや韓国コンテナ船「カリナスター」の12~14ktに比べれば確かに速いが、合理的であるし、先行する船との間隔が充分あいていた状況では、許容されるべき速度だろう。
 そこへ左舷前方に見えていた韓国コンテナ船「カリナスター」が横腹を見せるようにして進路に侵入してきた事になる。
 「接近する船を右舷に見る方が回避の義務を負う」のも回避の原則であり、この場合回避の義務はまたしても韓国コンテナ船「カリナスター}側にあるのだが、護衛艦「くらま」にとっての状況も厳しい。航路は「くらま」から見て左にカーブしており、右に転舵すれば「カリナスター」と並んで陸岸に衝突なり座礁なりしかねないし、逆に左に転舵すれば「カリナスター」が追い越し損なった先行貨物船に衝突する恐れがあった筈だ。
 「護衛艦「くらま」は衝突の危険を認識していなかった」などと言う説もあるが、関門海峡でも特に狭い関門橋下で90度近い変針をやらかして横腹をこちらに見せる対抗船が居るなんて事態こそ、「想定外」であろう。
 それでも護衛艦「くらま」は機関の逆進をかけると共に艦首に配置されていた見張員の退避を命じ、後者は凡そ間に合ったが前者は間に合わなかったと報じられている。打つべき手は打ったと言うべきだ。
<海自護衛艦衝突>「逆進かけたが間に合わず」防衛相 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091028-00000033-mai-soci

 確かに護衛艦「くらま」の航行速度がもっと遅ければ、逆進が間に合って衝突は回避できた可能性はある。
 しかしそれは、無謀な追い越しを仕掛け、それをやり損なって大変針して狭い海峡の一番狭いところで航路も護衛艦「くらま」の針路もを横切ると言う暴挙をなし、「くらま」に対する適切な回避行動も取れなかった韓国コンテナ船「カリナスター」の全ての尻拭いを、海上自衛隊及び護衛艦「くらま」に押し付けるものであろう。
 
 自衛隊に対し、甘えるのも大概にするがよろしかろう。
 
 かかる状況であるから、韓国コンテナ船「カリナスター」船長・韓国人・44歳・氏名不詳が書類送検されるというのも理の当然である。
 
 左様な事情をおくびにも出さず、唯「外洋の高い速度で護衛艦「くらま」は航行していた。」と報じたNHKラジオの報道は、偏向するにも程があると言うべきだろう。

 天誅!

<注釈>
(*1)洋上テロリストでも非正規軍でもなく
(*2)つまり「カリナスター」の船長が発狂していたとか、実はテロリストであるとか言う可能性は除外するならば。(*3)その浮いた分を航行なんかよりも訓練に廻したい。