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 観艦式に参加した後の母港・佐世保への帰り道、関門海峡にて海上自衛隊のDDH144「くらま」が韓国コンテナ船「カリナスター」と衝突した事故については当ブログ記事「日本の軍艦は世界一ぃぃ」の中でも一寸触れた。
 
 事故発生当初は相応に報じられ、またぞろ例に拠っての自衛隊バッシングかと少々辟易していたのだが、どうやらこの事故は韓国コンテナ船側の責任である事が明らからしいとなると、途端にマスコミの扱いは小さくなり、続報は余り入らないようになった。
 
 「なだしお」衝突事故や田母神空幕長更迭劇で示された、自衛隊員を人間扱いしないマスコミの偏向報道も、今回ばかりはDDH「くらま」を非難できないか、に思われた。

1. 11月9日 NHK AMラジオ 朝のニュース―自衛隊差別の影―

 所が、11/9(火)朝のNHK AMラジオでこの衝突事故の続報が報じられていた。曰く、「自衛艦「くらま」は外洋を航行する15ktから17ktを出して航行していたことが判明した。海峡の狭いところですれ違う事が判っていながら安全な速度まで落としていなかった可能性がある。」と、まるで衝突事故はDDH「くらま」の責任であるかのような言い草だ。短い報道で何の解説も(釈明も)なかったから、このニュースだけ聞いた人は「自衛艦のスピード出し過ぎが事故の原因だったのか。」と考える公算大であるし、またそれこそがNHKの狙いであった公算もこれまた甚大である。
 
 マスコミの偏向報道を散々見せ付けられてきた、すれっからしの私のような人間は、そう簡単には引っかからない。モスクワ放送と北京放送と平壌放送で鍛えた耳は伊達ではないのである。
 
 私は二つのことを考えた。一つは衝突した韓国コンテナ船「カリナスター」は先行する貨物船を追い抜こうとして変針した結果、衝突事故に至ったと報じられていたから、この韓国コンテナ船は先行する貨物船より速い速度の筈であり、と言う事は「海峡の狭いところ」で相応の速度を出していたはずである。護衛艦「くらま」と比べてどちらが速いかはこの時点では判らなかったが。(後述)
 
 もう一つには、この「15ktから17kt」と言う速度が危険速度なり法律違反の速度であるならば、私の経験則からして、マスコミの扱いがこんなに小さい筈がないと言う事である。船の航行速度なんてものは衝突でもない限り急速には変わらないのだから、護衛艦「くらま」は相応に長い時間「15ktから17kt」で航行していた筈であり、そのことは海峡の交通を管制する海上保安庁にも衝突事故及びその後の調査以前から分かっていた筈だ。
 今頃その海上保安庁が危険速度なり法律違反なりと判定したのだとすると、海上保安庁は海上自衛隊を擁護するために事故原因=護衛艦「くらま」の危険速度を隠蔽した事になりかねない。これは勿論大問題だが、報道は唯「外洋の航海速度」と報じるのみ。
 であるならば、この護衛艦「くらま」の速度自体には、違法性も直接の危険性もないのに違いない。
 
 それをことさら強調するのは、例に拠ってのマスコミによる自衛隊差別であろうとは思われたが、改めて当該事故についての報道や情報を整理する契機となったから、世の中何が幸いするか分からないと言うか、天網恢恢疎にして漏らさずと言うか。


2. 検証―DDH「くらま」と韓国コンテナ船「カリナスター」の衝突事故―

 報道を調べてみると、衝突した韓国コンテナ船「カリナスター」は「12~14kt」で先行する「約6kt」の貨物船を追い越そうとしていたと報じられている。
 
海自護衛艦衝突:コンテナ船、関門橋の真下で急旋回 http://mainichi.jp/photo/archive/news/2009/10/29/20091030k0000m040142000c.html

 なるほど、今回NHKが報じた護衛艦「くらま」の「15ktから17kt」は「12~14kt」より速い速度には違いないが、その差は僅かに「約3kt」=時速約5kmの差でしかない。
 少なくとも航行速度に関する限り、護衛艦「くらま」の性で衝突事故に至ったとは断言しかねる速度差だろう。(*1)
 
 さらに別の報道によれば、韓国コンテナ船「カリナスター」の韓国人船長(*2)を業務往来危険容疑で書類送検する方針を海上保安庁は固めたとも言う。
関門海峡・護衛艦衝突:コンテナ船船長、書類送検へ 業過往来危険容疑http://mainichi.jp/seibu/shakai/archive/news/2009/11/09/20091109ddg041040009000c.html
 
 さて、報道や証言は嘘をつく嘘を流す事ができる。レーダーや船舶が搭載するAIS(船舶自動識別装置)の記録を一国民が分析する事も出来ない。が、目に見える事象、隠しようのなさそうな事象を追うだけでも本件はある程度検証できるように思う。
 
 目に見える事象、「物的証拠その1」は護衛艦「くらま」及び韓国コンテナ船「カリナスター」の損傷箇所だ。動画でも静止かでも報じられている通り護衛艦「くらま」の損傷はその艦首。艦首も艦首、突き出した舳先の先端が破壊され、その後ろあたりに格納されていたペンキが火災を発生させて、死者こそ出さなかったが負傷者を出したと報じられている。火災の原因がペンキか否か、負傷者が本当に出たのか、死者が本当にでなかったのか、疑う事はできるが、護衛艦「くらま」の舳先がものの見事に壊れている事は一寸疑いようがない。(*3)対して韓国コンテナ船「カリナスター」の損傷は右舷側側面。
 洋上の船舶は相手を左側に見ながらすれ違うのが通例であり、関門海峡の上り下りの航路もそのように設定されている。一方両艦船の損傷は、韓国コンテナ船「カリナスター」の右舷側面に護衛艦「くらま」が突っ込んだ事を示している。さらに言えば、韓国コンテナ船側の損傷が意外なくらいに小さく、護衛艦「くらま」の舳先が曲がらずにつぶれている事から両艦船はほぼ直交して衝突した事も、一寸疑いようがない。
 
 「物的証拠その2」は事故現場である。関門橋のすぐ近くで発生した事故であると言う事は、事故後しばらく両艦船が停止したこともさることながら、関門橋と言うそれ相応に「目のある」「目の届く」ところで事故が発生したと言う事は、北朝鮮や中国ならばいざ知らず、我が国では隠匿のしようがない。
 と同時に、関門橋通行者と言う多数の無名の目撃者は、韓国コンテナ船「カリナスター」が、「門橋の真下で急旋回=急変針した」とされる海上保安庁の分析結果及び報道を、裏書きしてくれる筈だ。従ってこれも「一寸疑いようのない事実」である。
 
 「合理的推論その1」は関門橋が架かっているぐらいだから、韓国コンテナ船「カリナスター」が急旋回を行った場所は、関門海峡でも特に狭い場所であると言うことだ。
 さらには、前述の「物的証拠その1」の通り両艦船はほぼ直交して衝突した事はこの急旋回がまさに急旋回=恐らく90度近い急変針であった事を示してる。そうでなければ韓国コンテナ船「カリナスター」から見て左舷側に位置していた筈の護衛艦「くらま」が「カリナスター」の右舷側面に真っ直ぐ突っ込む合理的コースが描けない。護衛艦「くらま」は護衛艦である以上運動性能には優れるだろうが、誘導魚雷ではないのである。
 となると、この韓国コンテナ船「カリナスター」の動きは、「海峡の狭いところを通過する船舶の動き」と言うよりは「海峡を自沈して塞ごうとする閉塞船の動き」に近い。

 勿論、本当に関門海峡を封鎖する心算ならば、海峡の一番狭い部分、つまり関門橋の下で航路に対して直交=関門橋と平行になって衝突するよう、もっと早いタイミングで変針する必要があったし、衝突された際に座礁なり沈没なりするように細工も要ったろう。従って韓国コンテナ船「カリナスター」が関門海峡封鎖を狙った洋上テロリスト(*4)であると断定する論理的根拠はない。
 
 「物的証拠その3」は上記の「合理的推論その1」から導かれるが、海峡の狭い部分と言うのは流体力学で言う「スロート」であり、非圧縮性流体の流量保存則を想起すれば、流速が最も大きい部分である。つまり流れがこのあたりで最も速いところこそ、関門叫橋下である。
 勿論、水は非圧縮性流体でほぼ間違いはないが、海峡のような水路の場合は「水面の高さ」がある程度自由になるから、流量と流路の幅だけで厳密な流速は出ないが、類推としては充分有効である。海峡の流速を支配するのは、潮の干満が主であろうから、月の位置と月齢次第と言う事になるが、「流れがこのあたりで最も速い」事には違いは生じそうにない。つまりそれだけ、躁艦・操船が困難な難所である。

続く http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/30571532.html
<注釈>
(*1)まあ、例によってマスコミは、そんなこと無視して護衛艦「くらま」ひいては自衛隊を、貶める気満々なのだが。
(*2)氏名は伏せられて報道されている。年齢は報じられているのに。
(*3)あの突き出た舳先は、艦首水面下のソナーを保護するためのものだから、ひょっとして水面下ではソナーも損傷しているかも知れない。そうすると、修理には期間も費用も相当かかるぞ。
(*4)或いは非正規軍