予測しえた帰結―高速無料化で多大な影響とJR四国―
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高速無料化でJR四国社長、路線廃止も視野に、鉄道、44億円減収も10年度試算。

(2009/10/01 日本経済新聞 地方経済面 第12面)
 四国旅客鉄道(JR四国)は30日、民主党が掲げる高速道路の無料化が実現した場合、2010年度の同社の鉄道運輸収入は09年度当初見込みに比べて44億円減少するなど、経営に多大な影響を与えるとの試算を発表した。同日会見した松田清宏社長は「我々の自助努力を超えるところがある」として、仮に無料化で採算の改善が見込めなくなれば一部路線の廃止も含めた検討に入らざるを得ないと説明した。
 JR四国は今後、他のJR各社と連名で10月上旬にも国土交通省に「総合交通政策についてもっと議論が必要」との要望書を出すことを明らかにした。JR四国によると、無料化の影響を試算したのはJR各社の中では初めてとしている。新幹線がなく、多くの路線が高速道路と並走していることから比較的試算がしやすかったためとしている。
 景気低迷前の07年度と比較した09年度運輸収入試算では、07年度以降の景気低迷で18億円、高速道路が1000円となったことで14億円が減少するとした。これによって07年度に260億円だった運輸収入は228億円になる見込み。さらに高速道路が無料化された場合は年間で30億円が減少すると予想しており、10年度の運輸収入は198億円にまで減る可能性があるとしている。
 09年度の経常損益については赤字にならないよう、経費削減を進めている。これまで業務の外注化や運行列車の編成車両数の削減、ワンマン運転の拡大などで約10億円を削減したほか、一部設備投資の先送りや広告宣伝費の抑制で14億~15億円を削減したため。
 ただし無料化された場合の経営努力については「(必要な経費の削減など)永続的には無理がある」としたうえで、「来年度以降は無料化に伴う減少分がそのまま赤字となる可能性もある」と苦境を説明した。
 仮に無料化となった後の自助努力については、経営安定基金の取り崩しや一部路線の削減など「何も決まってはいないが様々な選択肢がある」と述べた。路線廃止に踏み切る場合、どの路線が対象になるかなどは「地元との話し合いになる」として言及しなかった。
 また、会見では「国の施策として無料化をするのであれば、車、鉄道、フェリーなどが役割分担するのがいいのか、どうすればそれができるのか。四国の公共交通機関としていかにして安全安心な輸送を維持していくか、という議論が必要ではないか」と繰り返し強調した。
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 光あるところに影があり、硬貨には両面があるように、一つの施策・方策が全ての人にとって好都合・有利であるなんて事はまずないと思わなければならない。良かれと思って実行した事により、何の影響も受けない人が居るぐらいならまだしも、不利益をこうむる人が、普通は居ると思うべきだ。
 であればこそ、何らかの施策・方策を決定実行しなければならない為政者=政府は常に不平・不満・非難の対象であり、先の衆院選挙で長い事政権与党の座にあった自民党が地すべり的大敗を喫したのも、一つにはこの「為政者=現政権に対する不満」があったのだろう。
 誠、キケロの言う通り、「君主は何をやっても悪く言われる。」と言うのは、古代ギリシャの都市国家、民主主義黎明期以来変わることの無い「真理」のようだ。
 
 その為政者=政権与党は、今や「国民の選択」により民主党とその連立与党である社民党及び国民新党である。よってこれら連立与党は「何をやっても悪く言われる」のが当たり前なわけだが、報じられているのはそのうちマニュフェストに民主党が掲げていた高速道路無料化による悪影響である。JR四国の予想では、来年度で44億円の減収となる見込みだと言う。

 
1.利益の上がらない事業は、縮小・撤退せねばならない。-市場原理-

 当たり前の事だが、企業活動と言うのは慈善事業ではない。充分な利益を確保した後には慈善事業や文化事業に投資なり投機なりすることもあるが、利益を全て吐き出してまでそれを実施していては、利益団体としての企業が続かない。
 従って、利益の上がらない事業は縮小もしくは撤退するのが、普通の企業である。何らかの理由で、例えば他の事業による黒字を補填してでも赤字の事業を継続する事は、珍しいと思わねばならないし、企業に期待するべきでもない。

 それは、公共交通事業と言う、高い公益性を持った事業についても、決して例外ではない。
 
 従って、上記のように高速道路無料化で厳しい減益を予想するJR四国としては、既存路線の統廃合なり廃止なりも視野に入れなければならないし、実際そうなる路線も当然出てくると思うべきだ。
 報じられているところでは、「路線廃止に踏み切る場合、どの路線が対象になるかなどは「地元との話し合いになる」として言及しなかった。」となっているが、八つ場ダムの建設中止の様に長年かけた話し合いの結果だった「マニュフェスト」の一言で吹き飛ばされる事もあるのだから、企業としての存続がかかるJR四国に充分地元ととの話し合いの上で双方納得のいく路線廃止ばかり求めるのは、酷と言う物だ。
 
 亀井金融担当相が、モラトリアム法案で危機に陥る金融機関に公的資金を投じれば済むと考えているように、この場合JR四国をはじめとする公共交通機関経営会社に公的資金を投じれば済むと考える人も居るかも知れない。
 が、忘れてはいけない。「高速道路無料化」の影響は今後長く続くと見なければならない。つまり公共交通機関に投入しなければならない公的資金は、今後長く投入し続けなければならなくなる。
 
 さもなければ、既存の黒字路線を含めたJR四国はじめとする公共交通機関が倒産の憂き目に会う。日本の鉄道は、比較的黒字路線に恵まれた、世界的にも有数の鉄道優良物件(*1)であるにも拘らず、だ。

<注釈>
(*1)だからこそ、私鉄が山のようにある。東京近辺で言えば、東京急行、京浜急行、小田原急行、相模鉄道、西武、東武・・・これに営団地下鉄はじめとする地下鉄群が加わる。私は「鉄ちゃン=鉄道マニア」では無いので、とても数えられない。


2.一般的に鉄道は、最もエネルギー効率の良い陸上交通機関である―総合的視点―

 一般論として、鉄道は陸路の中で最も効率の良い交通機関だとされる。鉄路を敷き、駅を作り、電車ならば電線を通して・・・と、インフラ整備には相当先行投資が要るが、一度敷設してしまえば大量の物資人員をは陸路運ぶ方法としては最も安く上がる。自動車のようにDoor to Doorのきめ細かい集配は出来ないが、駅と言う拠点と拠点を結ぶ陸路大量輸送手段としては馬や徒歩は勿論自動車とて及ぶところではなく、それ故に工業原料や軍隊などの重いものの大量輸送は鉄道輸送が中心であるし、空路とて及ばない。
 昨シーズンの大雪で中国の火力発電所に石炭運ぶ鉄道が止まり、電力不足をきたしたのも、鉄道と言う陸路大量輸送手段が優れており、中国の火力発電所がそれに頼っていたからだ。
 
 かてて加えて、近代的鉄道は言うまでもないが、電車である。電動自動車と同様、或いはそれ以上に、直接は「二酸化炭素を排出しない」交通機関である。
 
 無論、電力を作るのに石炭を燃やしたり石油を燃やしたりの火力発電を使っていれば、これらは二酸化炭素を排出するから、これらで発電した電気を使う電車を「二酸化炭素排出ゼロ」と称すると詐欺に近い。が、発電の際に発生する二酸化炭素と言う問題は電気自動車とて同じ事。一度に大量に輸送するメリットを生かす、言い換えればある程度の乗車率なり有効積載率なりを確保すれば、電車による鉄道は電気自動車以上に二酸化炭素排出を抑制することができる。
 
 条件付とは言え「二酸化炭素排出量の25%削減」などと言う、荒唐無稽にも近い数字を国際会議で公言してしまった日本としては、自動車のハイブリット化、水素自動車化、電気自動車化の推進もさることながら、鉄道への代替と発電の原子力化率向上もまた推進しなければならない・・・筈である。 (つづく)