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亀井金融相「金融機関の負担を公的資金で支援」 モラトリアム法案で
2009.10.1 13:07 http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/091001/fnc0910011308018-n1.htm
 亀井静香金融相は1日、中小企業向け融資や個人向け住宅ローンの返済を3年程度猶予する「モラトリアム法案」について、「貸し手も倒れるようなことは絶対にあってはいけない」と述べ、公的資金で金融機関の負担を支援する意向を表明した。地域金融機関を対象としている改正金融機能強化法の活用も視野に、金利や元本の補てん分を穴埋めする意向だ。

 亀井金融相は記者団に対し、「信金信組など経営体力の弱い金融機関が、地域の中小企業に支援できるかという問題がある」と話し、返済猶予期間中の利子補給や、借り手が経営破たんした場合の元本保証を検討する方針を示した。これにより「地方の中小金融機関が経営難に陥ることは絶対にない」とした。

 改正金融機能強化法は、中小企業向けの貸し渋り、貸しはがし対策として昨年末に施行された。政府保証のついた12兆円の公的資金枠があり、すでに北洋銀行など7つの金融機関に合計で約230億円が注入されている。

 ただ現行の法制度で「モラトリアム法案」に流用できるかどうかは不透明で、与党3党の検討チームと金融庁で詳細を詰める。法案の詳細は9日までにまとめ、臨時国会での成立を目指す。

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(1.)愚行と言うも愚かなり-亀井金融相 モラトリアム法案で金融機関に公的資金支援-
 報じられているのは亀井金融相の発言。亀井金融相はかねてから、中小企業の借金を返済期限延長させるモラトリアム法案の提唱者であるが、同法案は中小企業に金を貸している金融機関には当然打撃となる。これに対し今回報じられているのは、金融機関には公的資金を投入してモラトリアム法案による打撃を吸収又は緩和するという発言である。
 
 「これにより「地方の中小金融機関が経営難に陥ることは絶対にない」とした。」とも報じられているから、亀井金融相はこの「モラトリアム法案対策」とも言うべき公的資金投入策に、相当な自信を持っているのだろう。
 
 私の率直な感想は表題にした通り。「愚行と言うも愚かなり」だ。凡そ一国の、それも金融担当大臣の発言とさえも思われない。
 「百年に一度の世界的経済危機」で企業の経営が苦しいのは判る。それを救うための方策も必要かも知れない。だが、そのために「借金の返済期限を強制的に延長する」などと言う政策は、正常な経済活動を妨げこそすれ助長するとは思われない。
 
 早い話、政府の一声、といって悪ければ衆院の圧倒的多数と連立与党と併せれば参院の過半数を占める政権与党の提案する法律一つで借金返済期限が延びるものならば、一体誰がまともに借金を返すだろうか?
 贈賄なり政治献金なりしてでも、政府に「追加モラトリアム法案」を出してもらおうとするのではないか?
 
 これは一人健全な経済活動の障害と言うばかりでなく、金融モラルの崩壊さえ招きかねない法案ではないか?
 そんな法案を、一国の金融担当大臣が積極的に推進するというのは異常事態である。それだけ現状が切迫しているのだという解釈も成り立ちはするが、万一金融モラルが崩壊したら、即ち「借金は借り倒すのが当たり前」になったら、それこそ不況脱出どころではなくなるのではないか。
 
 それは、資本主義の自殺、或いは自己崩壊となりかねないのではないか。
 
 このモラトリアム法案を「平成の徳政令」などと評する人もあるそうだ。借金の強制的帳消しを命じた徳政令が、鎌倉幕府崩壊の原因となった史実を踏まえての事と考えると十分納得のいく命名法だ。が、私は民主党政権の崩壊は大いに歓迎するが、日本経済の崩壊は大いに困る。是非回避したいところだ。
 
 かように不安が多々あるモラトリアム法案について、上記で報じられているのはその続報だ。モラトリアム法案が鎌倉幕府の徳政令と同様に金融界に打撃を与えかねないのだから、今度は金融界の方に公的資金を注入して救えばよかろうという、「対症療法」を亀井金融相はお考えと言う報道だ。
 が、この対症療法で金愉界は救えても、上述の金融モラルの崩壊ひいては資本主義の自己崩壊=日本経済の崩壊は、救えるどころか助長されるばかりだろう。
 モラトリアム法案が成立すれば、借り手は借金を当面返さなくて済むし、貸し手の方は公的資金を受けて安泰なのだから、返される当てが無くても貸してしまって構わない事になる。
 
 それとも、「日本の金融モラルは鉄壁であるから、モラトリアム法案やその対症療法としての政府資金投入ぐらいではビクともしない。」と言う自信が、亀井金融相にはあるのだろうか。あるとしたらその根拠をぜひとも伺いたいところだ。
 
 私は日本人であり、日本人である事を誇りに思っている。日本の金融モラルも、「借金は返すものだ。」が通常の感覚である程度には、高いものだとも思っている。
 が、「貧すりゃ鈍す」の喩えもある。「百年に一度の経済危機」を前に、経営に四苦八苦している経営者が「モラトリアム法案」なる借金返済期限延長手段を知ってこれを「活用」する誘惑に勝てるとは到底信じられない。
 況や個人向け住宅ローンの借り手は無数と言って良い個人だ。あわよくば借金を踏み倒してしまおうと言う奴がゴマンと出て来かねない。それでも政府の公的資金が投入されれば、貸し手のほうは痛くもかゆくも無いことになる。
 
 結果はどうなる?
 「中小企業向け」と「個人向け住宅ローン」にとりあえずは限定されているモラトリアム法案は、早晩大企業やそのほかのローンへの拡大が要望されるだろう。そうなれば金融機関に対する公的資金もさらに必要になる。そうは言っても公的資金と言うのは、つまるところ税金と国の借金である国債だ。どちらも無尽蔵にあるわけではない。財政は破綻する。
 
 そればかりではない。「借金は政府の一声で延長される、延長すべきもの。永久に延長すれば、踏み倒せる。」と言う感覚が当たり前になれば、通常の資本主義は成り立たない。信用取引とか、先物取引などが成立しないのだから。
 
 即ち、亀井金融相ご推奨のモラトリアム法案は、財政の破綻と金融モラルの崩壊を招き、日本に於ける資本主義経済の終焉さえ生じさせかねない。
 
 大体、金融機関に投入する公的資金があるのならば、その公的資金を低金利で「中小企業向け融資や個人向け住宅ローン」の借り換え資金として、中小企業と個人に直接貸し付ける方が、遥かに効率的ではないのか?「政府の無駄をなくす」と言うのが、現政権のキャッチフレーズではなかったのか??少なくとも、金融モラル崩壊と言うリスクを回避できるではないか。何を好き好んで日本の財政と経済を、少なくとも混乱、下手すれば崩壊させようと言うのか。(*1)
 
 これが、正真正銘掛け値なし、一国の、日本の、金融相なのである。亀井静香。
 
 「法案の詳細は9日までにまとめ、臨時国会での成立を目指す。」のである。このモラトリアム法案。
 
 それもこれも、前回の衆院選挙で民主党を「圧倒的に」支持した「国民の選択」の結果の一つである。
 
 如何に、国民。


<注釈> 
(*1)最初からそれが目的で今の連立政権に入った、と言う可能性も、否定はできないが。