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(3.)比較検証 魚雷vsミサイル

 それでは魚雷とミサイルを比較して見ていこう。
 
 まず弾体規模、大きさだが、魚雷が汎用の短魚雷と潜水艦用の長魚雷の2系統に大別でき、大きさも各国子の2種類と思ってさほど間違いがないのに対し、ミサイルは大は大陸間弾道弾から、小は歩兵の持つ肩撃ちSAMや対戦車ミサイルまで、大きさのレンジが可也広い。魚雷の用途は対艦対潜のみであるのに対し、ミサイルは対地対艦対空対潜と多岐に渡るのも、大きさのレンジと相関はあろう。
 
 魚雷もミサイルも、基本的に円筒形の構造で、多くはその先端に「目玉」に相当するセンサーを有する。魚雷で言えばソナーかウェーキセンサー(*1)であり、ミサイルで言えばシーカー(*2)だ。
 魚雷の「目玉」の殆どはパッシブまたアクティブのソナーで、いずれも音を追尾する。多くはパッシブ/アクティブのソナーを兼用又は併用するのも、ミサイルには無い特徴だ。発射の際にパッシブ/アクティブ指定してやる魚雷もある。基本的に音を追尾するのは、水中と言う環境が他の手段、光学や電波や赤外線やらを非常に制限するためだろう。
 対するミサイルの「目玉」はやはり多彩で、電波だけでもパッシブ/アクティブの他にセミアクティブと言うのも結構幅を利かせている。最もミサイル=飛昇体としてはパッシブと変わりなく、目標自信の電波を追尾するパッシブシーカと、発射母機/母艦の発する電波の反射波を追尾するセミアクティブシーカと言う違いに過ぎない。
 目玉としては他にパッシブシーカである赤外線シーカも多いし、少数ながら光学シーカやセミアクティブレーザーなんてのもある。大気と言う環境が、多様なシーカを許してくれている。
 
 「目玉」の後ろに弾等・信管と誘導部が続くのはどちらも同じで、ミサイルの方は此処に初中期誘導の慣性装置やGPSなどの追加もしくはメインの航法機器が付くものもある。
 信管の起爆法としては、いずれにも着発=命中による衝撃又は接触による起爆は使われるが、近接信管と使う場合、魚雷では目標船体による磁気が使われ、ミサイルの電波や赤外線、光波はやはり使われない。
 
 更に後ろに続くのが、推進装置である点でも両者は共通するが、魚雷の場合は電池とモーターか空気又は酸化剤(*3)と燃料と機関が配置され、最後端のスクリューへと続く。一方ミサイルの推進装置は、固体ロケットかジェットエンジン、まれにラムジェットが推進装置であり、これらの組合せ、主として固体ロケット+ジェットエンジン/ラムジェットエンジンとなる。ジェットエンジンやラムジェットエンジンには燃料も積むが、酸化剤が不要なのは呼吸=エアブリージングが出来る大気中の強みだ。
 
 誘導のための操舵方式もミサイルの方が多彩だ。魚雷は後部にある舵面を動かす「水力操舵」しか見当たらないが、ミサイルは空力操舵だけでも後翼操舵、前翼操舵、少数ながら双操舵があり、TVCにサイドスラスタと直接推力を操舵するものも多い。目標の機動性もまた広範にわたるから、高起動目標もミサイルは追尾しなければならないため、と一応理屈づけられるが、「サイドスラスタで誘導される対戦車ミサイル・ドラゴン(米)」なんてのもあるから、一筋縄ではいかない。
 対する魚雷は、目標が艦艇及び潜水艦に限られるから、確かに機動は多寡が知れていようが、一方で目標速度(20kt―30kt)と雷速(20kt-60kt 高速に設定すると、射程が落ちる。)の差も射程によっては大きく取れないので、ミサイルに比べると酷く小さく見える舵面の「水力操舵」で十分な誘導が行えるのか、一寸心配になるほどだ。
 
 有線誘導は、魚雷、特に潜水艦発射の長魚雷では基本である。有線誘導以外、目標情報更新手段が無く、雷速はミサイルに対し格段に遅い事もあり、目標情報更新は魚雷にとって重大。故に有線誘導が魚雷の基本なのだろう。ミサイルで有線誘導と言うのは、対戦車ミサイルの一部にあるきりだ。対艦・対ヘリ有線誘導ミサイルと言うコンセプトはあったが、実戦配備されていない。
 
 主翼に相当する物が無いのも魚雷の特徴だ。殆ど円筒形であり、発射管発射、特に潜水艦からの発射に適している。水中にあり、水による浮力が空気による浮力より格段に大きいことが、主翼を不要にしているのだろう。

<注釈>
(*1)航跡=ウェーキを検地する、圧力センサの一種か。
(*2)シーカーを持たないミサイルもある。慣性誘導のみの弾道弾などだ。
(*3)酸素魚雷は残念ながら廃れてしまった。


(4.)新型魚雷の新技術?

 仄聞するところによると、魚雷メーカーと言うのは独占企業なのだそうだ。日本で言えば三菱重工しか、長魚雷も短魚雷も作っておらず、開発もしていない。西側諸国でも魚雷を開発している国は少数で、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、スゥエーデンぐらい。メーカーも各国1社程度だ。
 かような寡占・独占状態が長い故か、どうもオーソドックスと言うか、手堅い設計と言うか、魚雷の技術革新は鈍いように思える。
 確かに誘導魚雷は普及し、魚雷は誘導が当たり前になった(*1)。推進装置は電気魚雷が発達した他、エンジンを使った魚雷も酸化剤を含んだ一液燃料をはじめとして独自の発達を遂げ、他では滅多に見られない燃料とエンジンの組合せになっている。
 しかしながら、発射前に魚雷に入力する(魚雷を「調定する」と言う。古風な言い廻しだ。)諸元は、「誘導をパッシブソナーかアクティブソナーか選択する」と言う項目以外、殆ど第2次大戦当時の調定諸元と変わりが無い。つまり、魚雷としての発射法≒使われ方に殆ど変化が無いことになる。
 但し、有線誘導が特に長魚雷では一般化しており、発射後の調定諸元変更ができるようになったのは第2次大戦以降の進歩である。魚雷によってはこの有線誘導を双方向通信に使い、ミサイルで言うところのTVM(Tracked Via Missile)に当たる誘導、即ち「魚雷の目玉(ソナー)からの信号を元に、母艦から誘導する。」事ができるそうだから、魚雷をUAV(無人航空機)ならぬUUV(無人潜航艇)として運用すると言うのも、新しいところだ。
 また最新の魚雷では、従来のアナログ調定(*2)に代わるデジタル調定で調定諸元を増やし、それだけ広範な目標に対処できる事を目指してはいる。が、我が国最新の魚雷の名前がGR-X5。「5」と言うのは魚雷の戦後第5世代を意味する。先述の通り日本の魚雷開発は三菱重工の独占事業であるから、MHIが五代に渡って魚雷を開発し続けている筈だが、第4代までは上述のアナログ調定≒第2次大戦+誘導選択のみ。やはり鈍いと感じざるを得ない。
 ミサイルが陸自海自空自と我が三軍を相手にしているほか、米軍米企業の情報やら干渉やらが入ってくるのに対し、魚雷の方は海自様だけ相手にしていればよいと言うのも、影響しているのかも知れない。
 逆に言えば、現在開発中の魚雷GR-X5のデジタル調定は、それだけ画期的、革命的なものとなりうると言う事である。
 先代のGR-X4が導入しようとして果たせなかったこともあり、デジタル調定とGR-X5に、大いに期待したいところだ。

<注釈>
(*1)逆に直進だけ、それすらも怪しい魚雷でよく当てていた物だ、とも思うし、実際相当肉薄しないと当たらなかったようだ。
(*2)一つの調定諸元を、1本のコネクタピンにかける電圧で入力する。つまり、コネクタピンの数しか諸元を調定できない。