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1.北朝鮮に核保有を断念させ、戦後処理問題の解決に取り組みます

 何しろ私なんかとは発想の根本からして違うようだから、社民党の公約=マニュフェストが私にとってのワンダーランド「不思議の国」になってしまうのは仕方の無いところだが、それにしてもこの第1.項は不思議だらけだ。
 
 まず表題にもある「北朝鮮に核保有を断念させ」に対しては、(1)でただ一言「非軍事面のあらゆる手段を用いて」としか言っていない。普通に考えれば、これは先の国会で民主党が審議拒否して廃案に追い込んでしまった対北朝鮮船舶検査法の早期施行を意味する筈だ。
 が、社民党の事だから余り期待は出来ない。何しろ北朝鮮の弾道ミサイル発射実験に対し、万一の場合に備えた配置に付いたミサイル防衛部隊を批難し、「迎撃しても破片は落ちる。落ちてくる破片は危険ではないのか。」と堂々主張された党首様が未だ健在の党だ。
 
 続く(2)で拉致問題を取り上げているのは、社民党としては上出来の部類だろうが、「北朝鮮との国交正常化交渉を再開し、」と国交正常化が先に来るようでは「粘り強い交渉」等望むべくもない上、「拉致問題と戦後処理問題の解決をめざします。」と「拉致問題」と「戦後処理問題」を全く同列に扱い、なおかつ「解決を目指します」であって、「解決する」とは言っていない。
 相手のある事だから、十全な事前保証など望めないといえば言えるが、決意表明でもあるマニュフェストが「解決を目指します」では、少なくとも迫力を欠くのは否めない。なおかつ「粘り強い交渉」は今まで散々やってきた事ではないのか?それでも現状の成果しかないと言うのに、「国交正常化」を先に立てた「粘り強い交渉」で、一体どれほどの成果が出ると予定しているのか?
 
 もっと酷いのは、1.項の以降(3)~(9)まで、項目数にして7/9が全て「戦後処理問題」に当てられている事だ。
 曰く「(3)国会図書館に戦争の事実調査を行う恒久平和調査局」「(4)「慰安婦」問題、強制連行等の戦後処理問題の早期解決」「(6)「慰安婦」問題の最終的な解決」「(8)アジアの人々と共有できる歴史認識」「(9)無宗教で対象を軍人軍属に限らない新たな慰霊施設建設と政府首脳の靖国神社公式参拝禁止」等が並ぶ。
 これらの施策をマニュフェストに掲げる事は「安全保障策の不備」以前の大問題を擁していると思うのだが、それは別途触れる事として、此処ではこれら「我が国を貶め諸外国に阿る」政策を以って「アジアの国々との信頼醸成の努力をかさね」る事が如何に儚いかを指摘するに留めよう。
 即ち諸外国が「我が国日本を貶める」と言う一点で共同戦線を組む事はあっても、個々の利害は不一致なのが基本であるから、あい矛盾する要求を突きつけられたとき、かような「安全保守策」は破綻する他ない。
 例えば竹島は、今は韓国が実効支配しているが「半島唯一の正当政府」を称して北朝鮮が日本に対し「独島の返還」を求めてこないとは限らない。そのとき社民党はどんな「信頼醸成の努力」をするつもりなのか。
 あるいは「アジアの人々と共有できる歴史認識」でも良い。朝鮮戦争に対する認識を北朝鮮と韓国と中国と我が国でどうやって共有させる心算なのか?それとも朝鮮戦争は、日本が(表向き)参戦していないから「アジアの人々と共有できる歴史認識」の対象外だと言うのか?
 
 「全方位平和外交」と言うのは、かつて社民党の前身・社会党が唱えていたお題目。「非武装中立」の焼き直しなのだろうが、そんな八方美人は結局、「誰からも信頼されない」状態に陥る他ないと、私は思うのだが・・・社民党及びその支持者たちは、一体どう思うのか、ぜひ伺いたいところだ。


2.日米同盟の強化に反対し、多国間の安全保障システムを構築します

 第2.項で社民党マニュフェストが述べているのは、日米安保条約の弱体化・空文化と新たな「多国間の安全保障システム」の提案だ。
 (1)で米軍再編の再協議を求め、基地強化に反対
 (2)で日米地位協定の全面改訂と思いやり予算の段階的削減。「本来負担する必要が無い」とまで言っているから、最終目標は全廃なのだろう。
 (3)は「日米安保条約の軍事同盟の側面を弱め」「経済や文化面での協力を中心にした平和友好条約への転換」と言っている。言葉はきれいだが、巧言麗色少なきかな仁で、これは端的に言って日米安保条約の破棄だ。
 (5)では「横須賀への原子力空母反対」と言っている。が、アメリカ海軍広しと言えどももはや通常動力空母なんてものは無いのだから、「(米海軍の)原子力空母反対」は即ち「空母反対」に他ならない。太平洋の西岸に常駐する唯一の米空母を追い出そうと言うのだから、これは北朝鮮も中国もロシアも大喜びの「力の空白」を招来するものだが・・・社民党及びその支持者の方々にはそんな発想は端から無い(*1)か、或いはその「力の空白」こそを目的とした施策と見るべきだろう。
 
 「軍事同盟の側面」が無い日米安保なんて、日米安保ではない。何故ならば、「経済や文化面での協力を中心にした平和友好条約」で期待できるのは、「アメリカから攻め込まれることはなさそうだ。」までであって、現在の日米安保に期待されているような「万一の場合は米軍の来援が期待できる(かも知れない)。」ではないからだ。全地球上に百以上有る全ての国と平和条約を締結したところで、それに期待できるのは、その条約締結国から攻め込まれることは無いだろう、と言うところまで。条約を締結していない国なり、締結してもそれを破る国(*2)から攻められたら、自力で守るしかない。
 
 であると言うのに、社民党が提案するのは、「6ヵ国協議の枠組みを発展させ、北東アジア非核地帯と地域安全保障機構の創設」である。
 北朝鮮の核開発一つまともに阻止することも出来ないでいる6カ国協議が「発展」させると「北東アジア非核地帯と地域安全保障機構」に化けるのだと言う。
 6カ国協議が北朝鮮の核開発阻止を目的としていたのだから、その目的は「北東アジア非核地帯」に通じる道であると言う理屈なのだろうが、対北朝鮮と言う共通の敵相手に出さえ、6カ国(の内の北朝鮮を除く5カ国)の足並みはなかなかそろわなかったと言うのに「北東アジア非核地帯」などと言う、保有する核兵器の相当部分を配置換えしなければならなくなる中国と、一部の配置換えだけでウラル山脈の向こう側に核兵器を貯蔵しておけるロシアとが、同意できる可能性は、ロシアと中国の首脳部が社民党と同じ発想の持ち主で無い限り、極めて低いだろう。
 無論、それ以前に「北東アジア」にすっぽり入るに違いない北朝鮮の「非核化」が大前提になる。現状の6カ国協議でさえ、まともに進んでいるとは言えない、北朝鮮の非核化が。この可能性と言うのも、相当なものだ。
 
 それでも百歩どころか一万歩ほど譲って社民党の思惑通り6カ国協議が「発展」し、「北東アジア非核地帯」が実現したと仮定しよう。それが「地域安全保障機構の創設」につながると言う希望的観測と言うか願望は一体どこから来るのか?
 なるほど「北東アジア非核地帯」の実現は「偉業」だ。それを実現した6カ国協議の発展型は、それ相応の連帯感を持つに至るかも知れない。だがそれが、中国とロシアと言うかつては同盟国であったが今は同盟国とは言えず、今後はもっと言えそうに無い二つの核兵器保有国を擁する地域安全保障機構と言うのは、極めて不安定なものになると想定せざるを得ない。
 中国、ロシアの両国が「北東アジア非核地帯」に続いて核兵器を放棄すると考えるのは更に夢想的だ。両国ともインドやパキスタンと言う南アジアの核兵器保有国から遠くないと言うのに、北東アジアだけ「非核地帯」になったからとて、核兵器を放棄する理由が無い。
 
 言い換えれば、6カ国協議は発展し難いし、発展したとしても「北東アジア非核地帯」が実現する見通しは「全く」と言って良いほどないし、況や「地域安全保障機構の創設」なぞ夢のまた夢と言ってよいほど非現実的であり、到底今そこに現存としてある安全保障、日米安保条約と引き換えにして良いものではない。
 

<注釈>
(*1)めでたい。実にめでたい。
(*2)日ソ不可侵条約がどうなったか、知らないとは言わせないぞ。