1-3 対艦弾道ミサイルは21世紀の「定遠」「鎮遠」か?  にほんブログ村

 さてこの中国製対艦弾道ミサイルは、中国の切り札として、米空母を中国沿岸から遠ざけるだろうか。
 言い換えるなら、対艦弾道ミサイルは21世紀の「定遠」「鎮遠」たりうるか?
 
 「定遠」「鎮遠」と言うのは清帝国時代の戦艦であり、我が国からすると日清戦争当時の宿敵。30センチ砲連装2基を備えた、冬至装甲艦をただの一隻も持たない我が国にとっては恐怖の対象であり、当時我が国の商船はこれら清国北洋艦隊の恐ろしさに出港をためらったと言う。
 商船が出港しないと言う事は、完璧な海上封鎖をされたのに等しい。当時の日本は今ほどの重工業国ではなく、食料自給率も今ほど低くは無かったが、海洋立国であり、シーレーンの確保は一大関心事だった。
 
 そのシーレーンを遮断せしめた「定遠」「鎮遠」程の威力を、この中国の奇策・対艦弾道ミサイルは持っているだろうか?
 
 結論からいえば、「定遠」「鎮遠」ほどのインパクトは与えないだろう。無論、相応の牽制効果はあるだろうし、米空母などの「高脅威艦」の日本寄港をためらわせる事はありうるが、洋上展開を阻止するほどではない。
 
 私がそう結論付けてしまえる理由は、米海軍の山のようなイージス艦だ。手元のメモに拠れば、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦で23隻、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦で62隻(就役予定含む)、併せて100隻近いイージス艦が米海軍にはひしめいており、太平洋を拠点とする第7艦隊なぞ、空母と旗艦(強襲揚陸艦)を除いてすべてイージス艦にする計画とも報じられている。
 勿論全てのイージス艦が弾道ミサイル対処能力を持っている訳ではない。一口にイージスシステムと言っても「ベースライン」と呼ばれる基本ヴァージョンだけでも既に7つを数え、そのうち弾道ミサイル対処能力を有するのは極少数だ。が、それは現状の話。先の不要人工衛星迎撃の際に見られたように、ソフトウエアのアップデートと弾道ミサイル防衛能力付与には、1月程度で実施可能なのである。
 
 なおかつイージス艦+SM-3と言う海上配備型弾道防衛システムは、数ある弾道弾防衛システム(ペトリオットPAC-3、地上配備型THAAD、空中レーザー砲ABLなど)の中で、最も実証されているシステムだ。その「実証」を「試験での成功にしか過ぎない。」と言う人もあろうが、試験ですら成功し得ない事が、実戦で成功しえようか。
 実証を段階的に行うならば、実証も容易な目標からはじめて困難な目標に至るのが道理。それを「容易な目標でしか実証していないから、実際の困難な目標は未実証だ。」とは言えても、「実際の困難な目標は失敗するに決まっている。」とは断言し得ないだろう。(常識的に考えれば、だが。)
 
 対する中国の対艦弾道ミサイルは、「1年以内に実験の可能性」と言われるだけで、まだ実証もヘッタクレもありはしない。
 
 「ウサギと亀」の例えもあるから、ゆめゆめ油断すべきではないが、相応の努力と警戒を怠らなければ、イージスシステム及びその発展型のミサイル防衛能力が、中国の対艦弾道ミサイルに、易々と突破されると考える理由は、私には見出せない。