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http://sankei.jp.msn.com/world/china/090612/chn0906121910005-n1.htm
中国、1年以内に空母破壊兵器を実験か 米国防関係者が警戒
2009.6.12 19:07 

このニュースのトピックス:中国
 【ワシントン=山本秀也】米議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」で11日、中国が日本、台湾周辺の西太平洋に展開する米海軍の空母撃破を狙った新型兵器を開発中で、1年程度で実験段階に入る可能性があることが米防衛関係者の証言で明らかになった。同関係者はこうした中国の動きに対して警戒を呼びかけた。

 中国の新型兵器については、ポール・ジアラ元国防総省日本部長が証言。「向こう1年程度で洋上標的への実験段階を迎える」と分析した。

 米国防総省によると、中国が開発中とされる新型兵器は、洋上の大型艦船を標的にする「対艦弾道ミサイル」(ASBM)。移動式の中距離弾道ミサイル東風21型(DF21)がベースになっており、誘導性能を高めたものだという。射程は約1500キロ。台湾、沖縄周辺のほか、横須賀、佐世保など、在日米軍の港湾拠点を含む日本近海が射程に収まる。

 ASBMは、中国近海に米海軍の空母戦闘群が接近するのを妨げる戦略の柱と位置づけられる兵器で、さきに公表された米国防総省の年次報告書でも開発動向に懸念が示されていたが、開発がどの段階にあるのかなどはこれまで明らかにされていなかった。

 また、マイケル・マクデビット退役海軍少将は、西太平洋で米海軍の行動が中国に抑えられれば、「日本の孤立化を招く恐れがある。東京にとっては戦略的脅威だ」と指摘した。

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1-1 洋上弾道弾防衛の重要性―中国、1年以内に対艦弾道弾を実験か―

 上記の通り産経webで報じられているのは、中国の対艦弾道ミサイルが1年以内に実験されるだろうと言う米議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の報告。
 「移動式の中距離弾道ミサイル東風21型(DF21)がベースになっており、誘導性能を高めたものだという。射程は約1500キロ。」と言うから、地対艦ミサイルの超長射程版を狙っての物のようであり、「中距離弾道ミサイルの改造型」なんてご大層な物で狙うと言う事は、それだけ価値のある標的を狙った物、即ち「空母破壊兵器」であろうと言うこの報道は、合理的推論だろう。
 
 中国が空母保有の動きを本格化していることは、既に何度も報じられているところ。当ブログでも何度か記事にした。
 
 即ち中国は、対艦弾道弾と言う従来にない奇策と、空母保有と言う正攻法の両方で、海洋覇権(※1)を確立しようとしている、と解釈すべきなのだろう。
 
 「対艦弾道ミサイル」とは、米国をはじめ世界中のどの国も(私の知る限り)実用化も実戦配備もしていない「奇策」を中国が取ろうと言う所以は、今から空母の整備を始めても、当面の間原子力空母を1ダースほども持つ米海軍に比肩すべくも無いそのギャップを、「ミサイルギャップ」で埋め、少なくとも中国本土周辺の海域から米空母を締め出そう。然る後に台湾併合なり、沖縄占領なり、日本本土上陸なりを敢行しよう、少なくともそれを実行しうる能力を以って「優位に外交交渉を進めよう。」と言う意図であろう。
 
<注釈>
(※1)「覇権主義反対」なんていっていたはずの国が、だ。
 勿論「中国の覇権は覇権ではない。王道だ。」と言う中華思想一流の理屈なのであろう。


1-2 対艦弾道ミサイルの技術的考察

 勿論、技術的には超音速どころか極超音速で降下する弾道ミサイルまたはその突入体を、如何にして標的である艦(多分空母)まで誘導するかと言う問題がある。
 まずはどうやって標的である艦の位置を知るかが問題だ。発射前の探知も問題だろうが、こちらはまだ何とかなる。報じられている通り、日本をはじめとする港湾が射程内なのだから、港湾停泊中を狙って攻撃すれば、V-2に始まる弾道ミサイルでお馴染みの慣性誘導が使える。GPS或いはそれに類似した衛星航法を併用すれば、停泊した艦に当てる精度は出るかも知れない。
 
 問題は発射後の、特に終末誘導であり、終末誘導が必須となる移動目標だ。
 高校生でもわかる弾道ミサイル防衛講座 http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/folder/1174328.html  (※1)」にも記したとおり、射程1000kmの弾道ミサイルは弾着時には約3000m/sに達する。報じられるとおり、1500kmの射程ならば約3800m/sとなり、マッハ数にして10前後の極超音速で降って来る勘定だ。
 普通対艦ミサイルなら電波シーカー、即ちレーダーだが、マッハ10前後に達する飛行の空力加熱に、耐えるレドームは現状なさそうだから、レドーム材料の開発から始めないといけない・・・かも知れない。中国の事だから、「米空母に乗り込ませたスパイまたは洗脳した乗組員に誘導電波を出させる」ぐらいのことを考えているかもしれないが、弾道ミサイルのほうがそれを受信できなければ誘導のしようがない。誘導を目標が放射する電波に頼るパッシブシーカであっても、電波の送信がないだけだから、事情は変わらない。
 対艦ミサイルのシーカーとしてはマイナーだがIR=赤外線シーカーもある。が、極超音速となるとやはり空力加熱で今度は自身の鼻先が赤外線放射源になってしまう筈で、見通しは電波シーカ以上に暗そうだ。
 或いは「先端にレドームがあり、その中に電波シーカー」と言う対艦ミサイルの常識を破り(※2)、高熱に強い送受信素子を、空力加熱の辛い先端ではなく胴体周囲に並べて電波を送受信し、目標の方向を探知する方法があるのかもしれない。少なくとも受信一方のパッシブシーカーとしては成立しそうだ。艦に当てるほどの測角精度にするのが、相当辛そうに思えるが。

 或いは、上記のように並べた各素子の位相を調整して、ドーナッツ状ならぬリング状合成開口レーダーとして使う方法があるのかもしれない。機軸方向に並べて合成開口すれば、弾道ミサイルの高速とあいまって相応の精度で測定できるはずだが、いかんせんこの方法では機軸方向はサッパリ見えないはずだから、少なくとも自律誘導には使えない。
 
 胴体周囲や、極端には後端に配置したアンテナでも、ビームライディングやコマンド誘導なら可能だろう。だが前者は、誘導されるミサイルが「乗っていける」ビームが必要で、天高くから降って来る弾道ミサイルのためには、上空から(例えば人工衛星から)目標へビームを照射してやらなければならない。
 コマンド誘導では目標(空母)とミサイルの位置とミサイルの進路を同時に正確に検知し、的確にミサイルへ指示を出してやる必要があり、「どこから、誰が?」と言うのが大問題になる。何しろ空母が「見える」のは、水上艦艇である空母のレーダー水平線の内側。レーダー水平線は高度の関数だが、空母の随伴艦艇の対空ミサイルもあれば、空母艦載機の戦闘哨戒もある。大気圏内ではおちおち「見て」も居られそうにない。落下して来る弾道ミサイルの位置を知る方がまだ容易だろう。こちらの方は弾道ミサイルからその航法装置からの位置情報を伝達させる手もある。(無論、暗号化した上で、だろうが。)
 
 或いは意表を突いて、弾道飛しょうは初中期誘導までで、終末誘導前に極超音速パラシュートなり飛しょう経路なり(※3)で減速し、レドームの耐熱性や空力加熱による赤外線放射が問題にならないほどまでに減速する方法を取るか・・・しかし、いずれも「空気抵抗」に拠る減速では、特に高空では期待し難い。となると、ロケット逆噴射による減速でないと、望みは薄そうだ。最終的な突入部分だけの減速だから、発射時ほどの推力は要らないようにできるだろうが、盛大な赤外線放射を放つだろうから探知も警戒も容易にするし、非常な高速による落下という弾道弾の持つ利点を大いに減じることになる。  
 
 あれこれ考えてくると、対艦弾道ミサイルというのは、相当難しそうだ。この終末誘導の困難さからすると、ひょっとして中国の対艦弾道ミサイル、米空母が停泊中の開戦第1撃、すなわち先制攻撃を主として狙った「真珠湾専用ミサイル(※4)」なのではないかとも思えてくる。
 
 無論、「対艦弾道ミサイル」なんて物を実験しようというのだから、それ相応に目算はある、と考えておくべきだろう(※5)が。
 「戦略的には全ての敵を重視せよ。」と言うからな。
  
<注釈>
(※1)第1回をやったきり、長い事放ったらかしだが。
(※2)対艦の弾道ミサイルというだけでも充分常識破りだが。
(※3)後者は相当難しい。弾道飛しょうとはつまるところ運動エネルギーと位置エネルギーの交換なのだから、「飛しょう経路による減速」は殆ど「上昇によって運動エネルギーを位置エネルギーに変換する」ことを意味し、目標のある海面上高度では、高速とならざるを得ない。
(※4)こいつの今の射程では、中国本土からハワイまでは届かないが。
 して見ると、我が国から発してハワイを奇襲し、米戦艦5隻を屠った大日本帝国の真珠湾攻撃は、実に大した偉業だな。
(※5)中国の得意技の一つが、ハッタリであることには要注意だが。