報じられているのは、米財務省の半年次為替政策報告書。「半年次」と言うのだから、6ヶ月に1回報告する定期報告なのだろう。
 同報告に曰く、「米国の主要貿易相手国の中に(中略)為替操作を行っている国はないと判断した」と言う。言い換えれば米国の主要貿易相手国は為替の公正性を十分持っていて、不当に自国通貨を過大評価させたり過小評価させたりしては居ないとの判断。即ち、米国の貿易は十分な市場原理に従っていると言う判断である。
 
 但し、上記で「中略」した条件が付いている。その条件とは、「効果的な国際収支調整を阻害したり、競争上の優位性を不公正に保つことを目的とした(為替操作はない)」である。
 ここで付帯されている二つの条件の内「効果的な国際収支調整を阻害」する事のメリットは、私には判らない。貿易収支をごまかしたりする上で役に立つのだとすれば、自国の通貨を過大評価させると言うことを言っているのかも知れない。
 他方の「競争上の優位性を不公正に保つことを目的とした」と言う方なら判る。早い話が自国通貨を過小評価させて、アメリカ向け輸出を有利にしようとする方法で、かつて自動車貿易摩擦華やかなりし頃、アメリカ政府が円高(=ドル安)を容認(或いは推奨)していたのと同じ理屈だ。
 
 わざわざ記事のタイトルに中国が引っぱり出されているのは他でもない、最後の行にある通りその「中国が輸出拡大のために意図的に人民元の通貨価値を下げている」と言う批判が米議会などにあるからだ。
 同報告書の提出に当たってティモシー・ガイトナー(Timothy Geithner)財務長官自らが「」も『「依然として人民元は過小評価されているとの見解を財務省は持っている」と強調した。』とは同記事にもあるから、人民元が過小評価(対人民元のドル高)されており、それが中国から米国への輸出を有利にしていると言うことは米財務省も認めているわけだ。
 
 但し同報道によると、米財務省は、中国政府が「積極的に為替相場の伸縮性を高めていると評価」しているという。
 
 言い換えれば、中国政府は人民元の為替レートを公正になるよう(即ち人民元の為替レートを下げて中国からの輸出が不利になるよう)努力しているのだが、その成果が不十分で人民元の為替レートは低いままなのであり、「中国政府は悪くない。」と米財務省の報告は言っているわけだ。
 
 本当だろうか?
 
 経済というものがかくも世界化し巨大化してしまった現在に於いては、政府の為せる経済政策はどんな手段であっても「効果は限定的」にならざるを得ないのではないか、と私は思っている。経済については専門家でも何でもないので、半ば勘なのだが。
 「社会主義市場経済」なるキメラならば、自由主義市場経済よりも統制の利く部分は確かにあるだろう。だが一方で、その「社会主義」および「伝統的」なる中国闇経済の深さは、中国政府による「為替正常化」政策を、ますます難しく、効果の薄いものとする事も考えられる。従って、本当に「中国政府は悪くない」という可能性は確かにある。
 
 だが、そいつは「可能性」だけだ。「推定無罪」に近い。
 
 まあ、考えても見たまえ、あの中国政府が、毒入り餃子を輸出しながら「中国国内で毒が入れられた可能性はない。」と虚偽(口頭だけの)の「科学データ」を根拠に言い張り、国内で同じ毒による中毒事件が発生するとこれを隠蔽し、毒が入れられたのが中国国内であることは確実になった今に至るも殆ど「捜査」を進展させないうなあの中国政府が、
 「百年に一度の未曾有の危機」たる米国サブプライムローン破綻に端を発する今回の経済危機で主要輸出産業の一つ玩具メーカが大打撃を受け、GNP成長率が8%を切ると社会不安(ひょっとすると暴動から革命)になりかねない状況で、
 いくらアメリカ政府との「約束」とは言え、輸出をますます不利にするような「人民元為替レートの切り下げ」を実施するだろうか?
 
 実施しようとするだろうか?
 
 米財務長官には長官なりの判断があるのだろう(多分)。彼の元にはアメリカ政府を挙げての各種情報が集結していると言うことも想像に難くない。
 
 だが、私にはどうも、「中国政府は十分努力している。」とは、信じがたい。
 
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