既報の通り、ソマリア沖に於ける海賊の被害は1/31時点で16隻のタンカー・商船が拿捕されるに至っている。これに対し各国は水上艦艇を中心とする海軍をソマリア沖に派遣資、海賊対策に当たっており、先頃には中国が艦艇3隻を送っている。
 我が国も漸く重い腰を上げ(海賊による被害=通商破壊が始まったのは、昨日今日ではない。)、海自の派遣を決定。海上自衛隊の艦艇2隻を派遣する計画らしい。
 正味の処、いかに海自の艦艇(※1)とは言え、2隻というのは心許ない。長期の任務を考えれば、水上艦艇2隻と補給艦1隻の組み合わせで3隻。中国人民解放軍海軍のソマリア派遣艦隊と同様の編成が最小限の単位ではないかと思うが、艦艇は後から追加派遣もできるし、追加派遣の艦艇よりも重要なのがちゃんと海賊に対処して通商保護できるようにする新法の制定=交戦規定の確立であると私は主張するから、とりあえず2隻というのは良しとしよう。
 
 この海自ソマリア派遣に対し、社民党は例によって例のごとく(※2)「駄目なものは駄目。」としか言わない。
 最大野党にして「次の選挙で与党確実」とも目されている民主党の小沢党首も「何故海上保安庁ではいけないのか。」等とのたもうて居る。流石に党首ともなると、「海賊なんて漫画でしか見たことがない。」とは言わないだけ見つけものだが、小沢民主党首はじめとする「ソマリア沖派遣 海自× 海保○」論者たちは、海上保安庁が帝国海軍の(主流ではないにせよ)末裔(※3)であることを一体どう考えているのだろう。
 その「海保○」論者の雄、共産党は新聞「赤旗」に於いて、「内戦終結の努力と民生支援をめざしつつ海賊取り締まりの警察活動で対応すべき問題です。」「日本がやるべきは、ソマリアの和平を支援するとともに、憲法破りの海外派兵の拡大ではなく、イエメンなど周辺国の警備能力向上と、立法、司法、行政手続きによる海賊対策を追求している国際海事機関など国際機関にたいして支援を強化することです。」と、実に遠大な計画をいけしゃあしゃあと開陳してくれる。
 「ソマリア内戦終結」だけで一体何年かかることやら。その間やりたい放題(※4)の海賊をソマリア警察なりソマリア海軍なりが取り締まるまで、ソマリア沖の通商路を危険に曝し続けろ(※5)との主張である。
 
 ソマリア海賊は、今そこにある通商破壊の脅威である。これに対処するのに、共産党の言う遠大な計画だけ採っていたらどうなるか。
 或いは、「丸腰のものは撃たれない」等と盲信したり、うっかりその言に乗ってしまったりしたらどうなるか。
 それを検証しようと言うのがこの記事の提案=思考実験、「無防備タンカー ソマリア派遣計画である。」

<注釈>
(※1)と言うことは、高い確率でヘリコプターを搭載できるはずで、それは良いのだが。
(※2)何であんな党が政府与党で首相まで出して、自衛隊3軍の総司令官だったのやら。
(※3)戦前の日本には海上保安庁の任務を海軍が兼ねていた。今でも英国海軍などはそうである。
(※4)どの国も日本共産党の言うとおりの政策を採れば、当然そうなる。ソマリアの警察力が回復するまで、ソマリア海賊は切り取り勝手である。
(※5)もしくは、ソマリア海賊退治などと言う非平和的な活動は他国に任せろ。

(1) 計画概要

 計画の骨子は、「海自は勿論あらゆる海軍の援護・護衛・支援を受けないタンカーのソマリア派遣」である。
 目的は先述の通り、 峩産党の主張する遠大な計画のみが実施され、どの国も海軍を以って海賊に対処することをしなかった場合の検証」及び◆峇盜?里發里老發燭譴覆ぁ廚噺世信念を実践した場合の検証 である。

 目的に応じて、以下の2種類のタンカーを用意する。
 (1)海軍による護衛・支援以外のあらゆる防衛手段をとるA型タンカー
 (2)「丸腰のものは撃たれない」理論の実践のため、あらゆる防衛手段を放棄したB型タンカー
 
 この2種類のタンカーを以ってソマリア沖を航行させ海賊による被害がどれほど出るか、或いは全く出ないか、を評価する。

(2) 運用構想

 さて諸兄ご承知の通り、タンカーというのは通常非武装である。大砲や機関砲や機関銃は付いていないしミサイルランチャーもない。乗組員が武装していることも希だ。
 さはさりながら、ソマリア沖ばかりでない海賊被害により、なし得る対策を為したタンカーもあると聞く。曰く、放水銃の設置や、接舷斬り込みをやりにくくする乾舷の増加などである。
 水というものの破壊力は案外馬鹿にしたものではなく、十分な圧力をかけて打ち出される水は石に穴あけることさえ可能なのだが、放水銃にはそこまでの威力はないし、海の上で船から船では距離がありすぎる。
 対する海賊がロケット砲や肩撃ちミサイルまで持っているようでは、放水銃では接舷斬り込みの妨害程度にしかならず、水鉄砲と大差ないと考えるべきだろう。
 とは言え、A型タンカーは「海軍による護衛・支援以外のあらゆる防衛手段を取る」コンセプトだから、当然放水銃も装備する。その他ネット射出機や発煙弾投射機など、自衛のため装備できるあらゆるノンリーサルウエポンで身を固める。
 
 一方「丸腰のものは撃たれない」理論の実験船であるB型タンカーには、リーサルもノンリーサルもウエポンはいっさい装備・搭載しない。
 
 さらにA型タンカーは「海賊に見つからないのが最大の防衛策」と言うコンセプトに従い、その航路は厳重に秘匿し、航行速度も可能な限り高く保つ。この結果、燃費は悪化する上最短コースをとれないであろうから、運用コストは通常の航行は高くなるはずだが、どれだけ高くなるかを含めて評価対象となる。
 
 一方B型タンカーは、「丸腰のものは撃たれない。」のだからまず丸腰であることを広く知ってもらわないといけない。従って船名・船籍は勿論、ノンリーサルウエポンを含めていっさいの武器を装備していないことをネットでも放送でも公表し、その航行位置を全て公開する。
 
 また、重要なことだが、A型タンカーB型タンカー共に、海賊に襲われた場合も無線で救援を頼んではならない。この思考実験ではソマリア沖にはソマリア海軍しか展開していないはずであるから、無線で救援を呼ぶと、ソマリア海軍以外の各国派遣艦隊がこれに応じてしまい、「海賊によってどれぐらい被害を受けるのか」を正確に評価できなくなってしまう。
 
 以上が「無防備タンカー ソマリア派遣計画」である。
 
 さて、A型タンカーやB型タンカーは、今現在、不十分とは言え各国海軍護衛の恩恵に預かっているタンカーに比べて、海賊被害が少ないだろうか?或いは、全く被害を受けないだろうか?
 
 共産党の主張する遠大な計画の実効性は、あるいは「丸腰のものは撃たれない」理論は、実証されるだろうか。

(3) 逆説「空城の計」

 「実証されるわけないじゃないか。」と言うのが、私の当初の考えだった。
 
 だが、よく考えてみると「ひょっとして、B型タンカーは無事安全に航行できる可能性があるのでは?」と思えてきた。
 何も私が「丸腰のものは撃たれない。」と信じ込んだ訳ではない。
 
 三国志と言うのは中国の古典小説で、漫画にも映画にも何度もなっている。私は漫画を斜め読みした程度だが、「死せる孔明、活ける仲達を奔らす。」だの「泣いて馬謖を斬る。」だのの諺の元が三国志だって事ぐらいは知っている。その三国志のヒーロー・孔明の計略の一つに「空城の計」と言うのがある。
 敵の大軍が城に迫ったとき、普通は守りを固めて閉じる城門を開け広げ、城壁にも兵を配置せず、城を守る側の孔明がこれ見よがしに琴など引いてみせる、と言う無防備な状態をさらして見せる。
 すると敵の大軍、「あの神算鬼謀の孔明が、無防備な状態を見せている。これは無防備な状態などではない。罠があるのに違いない。うっかり攻め込めぬぞ。」と疑心暗鬼に陥り、結局城は攻められなかったと言う。これぞ孔明の計略・「空城の計」。
 
 で、今回の思考実験のB型タンカー、これ見よがしの無防備ぶりは「空城の計」とも見える。「罠かも知れない」と疑心暗記した海賊が手を出さなければ、B型タンカー、安全無事に航行できる可能性がある。
 忘れてはいけないが、海賊が「罠かも知れない」と疑心暗鬼に陥るのは、罠を仕掛けうる兵力が存在しうるから。各国海軍がソマリア沖に派遣されていると言う事実こそが、B型タンカーを「空城の計」に見せかけるのである。
 
 逆に言うと、たとえB型タンカーが一切の海賊被害を受けなかったとしても、それは「丸腰のものは撃たれない」理論を実証したことにならない。
 他方の「B型タンカーが海賊被害を受けた場合」はやはり「丸腰のものは撃たれない」理論の誤りを実証したことになるのだが。

(4) 和戦両様

 私の考えでは「ひょっとしたら」と言う低い可能性でB型タンカーは「空城の計」と見なされ、無事かも知れない。が、海賊がそこまで深読みしなかったり、たった一度でも無防備であることがばれたらそれっきりだ。通常のタンカーなんかよりも被害は大きいだろう。
 A型タンカーで事が済めば、誰も好きこのんでアフリカくんだりまで海軍を送ったりするものか、とも思う。
 
 共産党の、この先何年かかるか判らない遠大な計画で、ソマリアとその沖の海に法と秩序を回復すると言うのは別に良かろうが、それさえやっておけばソマリア沖航行の安全が確保されるわけではない。
 もし短期間にソマリア沖の安全が確保されるとしたら、それは今現在ソマリア沖に展開している日本以外の海軍のお陰である。それはそれで結構なことだが、「ただ乗り」との非難は免れまい。たとえ上記の遠大な計画に従って何らかの成果を上げていたとしても。
 
 長期的にソマリア復興を目指すとしても、短期的には海上自衛隊艦艇を派遣し、直接海賊に退治してこそ、和戦両様の構えと言えよう。