奇妙な出来事があった。
昨日の話しだ。
朝7時、私の家の真ん前から男性の激しい口論が聞こえた。
なんだか複数の男性が怒鳴り合っているようだ。
今にも殴り合いに発展しそうな怒気に満ちた声だ。
なんだ?
喧嘩か?
と思ったのだが、口論はすぐに、仲良さげな笑い声へと変わっていた。
喜怒哀楽の激しい、変な人達だな。
と、思ったのもつかの間。
一分も経たないうちに、また激しい口論が。
またもや、喧嘩か?
でも、その直後にまた笑い声。
そして、また口論。
笑い声。
私は正直気味が悪くなってきた。
男性が複数で喧嘩しているのなら話は分かる。
でも、口論→笑い声→口論→笑い声、これが何度も何度も永遠に繰り返されているのだ。
何かが、おかしい。
友人同士でじゃれ合っているような喧嘩ではない。
完全に、男同士が殴り合う直前に発する怒りの声なのだ。
その直後に仲良く笑うなんてことがあるのだろうか?
例え一度くらいあったとしても、それを何度も何度も繰り返すなんて、常軌を逸しているとしか思えない。
こうなったら、頭にタオルでも巻いて(変装のつもり)、喧嘩の仲裁に行くか?
でも、本当に喧嘩なのだろうか?
もしかしたら、あの複数の男性の声は、みんな酔っ払いなのだろうか?
いや、いくら酔っ払っていたとしても、こんなに不気味な口論をするだろうか?
お酒ではなく、薬?
それとも、私が寝ぼけているのだろうか?
考えても答えは出ない。
ええい。
自宅がバレてしまうから、トラブルに巻き込まれるのは遠慮したかったが、仕方ない。
こうなったら、喧嘩の仲裁?に行ってやる。
正義感からではない。
何がなんだか分からないことが、とても不気味で怖かったのだ。
私は、意を決して頭にタオルを巻き、動きやすい服に着替え、軽くストレッチをした。(殴りかかってこられたときにすぐにガードポジションを取りたいので)
ガード用に、手にグローブを付けようかどうか迷ったが、やめておいた。
相手を刺激して、火に油を注いでしまう恐れがあったからだ。
はぁー、朝っぱらからパンチを素手でガードするの嫌だな。
でも仕方ないか。
覚悟を決めよう。
よっしゃ、気合いは入った。
適度に、アドレナリンが分泌してきて良い精神状態だ。
よし、どこから来られても平気だ。
玄関の扉に手をかけ、願った。
出来れば、喧嘩やトラブルじゃありませんように。
そして、扉を開ける。
あれ?
当たり前だが、外は見慣れた景色。
その見慣れた景色の中に、思った以上に人がたくさんいた。
なんだ?
こんなに大勢で喧嘩してたのか?
これは、私一人では対処出来ないぞ。
と、思ったとき。
ある男性が、私の目にとまった。
その男性は、手にカチンコを持っている。
なるほど。
次の瞬間、頭の中で全てが繋がった。
ドラマか映画の撮影だ。
きっと、同じシーン(きっと喧嘩のシーン)を何度も撮り直していたのだろう。
私は拍子抜けした後に、安堵の気持ちが胸に広がった。
良かった、本当の喧嘩じゃなくて。
でも、こんな朝早くに、住宅街で、しかも私の自宅の真ん前で撮影しなくても良いでしょう。
私は、すぐに家の中に引き返した。
最後にオチがあったから良かったものの、声だけ聞いていたら非常に不気味な出来事であった。