「次はお兄ちゃん!」




「お待たせ致しました。」


次はお兄ちゃんの髪を整えます。



チョキ、チョキ。


つる君が聞きました。


「今日は弟さんの付き添いですか?」


お兄ちゃんは

少し考えてから言いました。


「まぁ……そんな感じです。」




弟が横から言いました。



「お兄ちゃんすごいんですよ!」


「勉強も教えてくれるし!」



「テニスの練習も一緒にしてくれて!」



「ぼくが試合で勝てるのも、


成績で1番獲れるのも、


お兄ちゃんのおかげなんです!」


「それにこの間、


ぼく貧血で倒れた時も、


おんぶして急いで病院に


連れていってくれたんです。



店の中が

少し静かになりました。



るんちゃんは

ふわふわの泡を作りながら言いました。


「じゃあ弟さんの太陽は

お兄ちゃんなんですね。」




弟は

すぐに答えました。


「うん!」


「ぼく一人じゃ、できないもん!」




お兄ちゃんは

少し驚いた顔をしました。


そして

少しだけ笑いました。



極みヘッドスパが終わり

鏡を見ると、


お兄ちゃんの顔は、


少しだけ誇らしそうでした。




帰り道。


弟は

うれしそうに話しています。


「ねえ、お兄ちゃん!」


「また練習つきあってね!」





お兄ちゃんは

照れくさそうに言いました。


「しょうがないな。」



弟の太陽は

空にあるんじゃありません。


それは


ずっと隣で歩いている

お兄ちゃんでした。



そして今日もまた。


つるるんとんから


心が少し軽くなったお客様が


帰っていきました。


〈終わり〉

ある日の午後。



つるるんとんの扉が、ちりんと鳴りました。


入ってきたのは、

子熊の兄弟でした。


弟は胸を張って、

元気いっぱい。


その少し後ろを、

大きな体のお兄ちゃん熊が

静かについてきています。




つる君は

にこっと笑いました。


「いらっしゃい。今日は兄弟で来てくれたんですね。」



弟の子熊は

元気よく言いました。


「僕、1番!!」



「先にしてください」


「ぼく明日、テニスの試合があるんです!


「かっこよくしてください!」


お兄ちゃんは

少しだけ苦笑い。


「弟を先にお願いします。」



まずは ヘアカット。


つる君は弟の髪を

チョキ、チョキ。


弟はずっとしゃべっています。


「ぼく、この前もテニスで優勝したんです!」 

「学校でも成績で1番とって、すごいって言われてて!」




「この間なんか先生に


〈あなたは光輝く太陽のようね!〉って



褒められたの!」

 

「照れちゃうよ」



その様子を

お兄ちゃんは静かに見ています。



弟の髪が整うと

鏡の前で弟は言いました。


「わあ!かっこいい!」


つる君は笑いました。


「自信がある顔ですね。」




次は お顔剃りと毛穴洗浄。


弟は、お顔剃り時も楽しそう。



そして、お顔の毛穴洗浄。


るんちゃんが

ふわふわの泡を作ります。


弟は少しくすぐったそうに

笑っています。




最後は

極みヘッドスパ。


るんちゃんの手が

ゆっくり頭を包みます。


弟は気持ちよさそうに

うとうと。




施術が終わると

弟は言いました。


「次はお兄ちゃん!」



〈つづく〉


「え?」


「昼は働く。」


「夜は描く。」


「夢って」


「仕事じゃなくても」


「続けていいと思います。」



ヘッドスパが終わりました。


鏡の中のかめ君。


さっぱりした髪。


そして

何か吹っ切れるたような


明るくなった目。



帰り際。


つる君がかめ君に


「どんな漫画を書かれているんですか?」


かめ君は笑顔で甲羅から


スケッチブックを


取り出しました。


つる君とるんちゃんは


つる君の漫画に興味津々。


かめ君がスケッチブックを


広げた瞬間、


 

はさまっていた


小さな紙がひらひらと


床に落ちました。


「ん?」


かめ君はスケッチブックから


落ちた紙をひろいあげると、


そこには


むすこの亀吉の字。



「パパのまんがだいすき」


その下に亀吉が描いた絵。


「ヒーローのパパ。」


かめ君の目から


ぽろりと涙が落ちました。




つるるんとんの外。


雨はいつのまにか


止んでいました。


かめ君はゆっくり


歩きながらつぶやきました。

「昼は働こう。」


「でも」


スケッチブックを


ぎゅっと抱きしめます。

「夜は漫画家だ。」


かめ君の漫画には


一人の読者がいました。


そしてその読者は


家で続きを


待っていました。


〈おわり〉