もうずっと男と寝ていなかった。
たぶん一年以上だ。
時折、恋しくなったこともある。
けれど、それはセックスそのものが恋しいというわけではなかった。
自分の身体の凹凸にぴたりと当てはまるもうひとつの身体が恋しい。
抱き締められる瞬間、ゆっくりと目を閉じる時の恍惚は、
たぶんわかりやすい快感しか持たない男にはわからない。
男が欲しいだとか、体が寂しいとか、馬鹿げた想像をする男たちに
そのことをどう説明すればいいのだろう。
唯川恵『イブの憂鬱』
季節や時間帯によって、各々「匂い」があるように思う。
その匂いで、あぁ去年の今頃はこんなことしてたな、とか、
あの頃はこんなだったな、と思い出すことがある。
取り分け、この時期は思い出が多過ぎる。
昼間の暖かさが嘘の様な、少し肌寒い夜道を一人で歩くと
嫌でも色んなことを思い出す。
何時か必ず別れが来ることを確信しながら
夜明け前の畔道を毎日歩いた、夏の始まり。
また同じ生活を繰り返したいとは思わない
ただ、時々ふとあの頃に一瞬戻ってみたい、とは思う。
懐かしいような切ないような。
傷付けあって罵ったこともあったものの
最後に差し出した言葉が「ありがとう」だったことは
本当に良かったように思う。
愛するが故に、手放さなくてはならないものも有ると学んだ21の秋。
左手を胸に当てて、愛していないと5回誓おうか。
蛇足であるが
他人の前で恍惚と語る色恋話程みっともない物は無いと思う。
私はいつも嫌悪していた。
言葉の端々に見え隠れする無神経な傲慢さに軽蔑を覚えた。
勿論主な構成要素は嫉妬と羨望である。
私はいつも苦しかった。
この人さえ居なければ、と何度も思った。
そしたらもう、理性と本能の狭間で苦しむことも、
傷付くこともなくて、
悲しいことも全部全部無くなって、
つまりそれは
あぁなんてつまんねぇ世界なんだろうと。
「あの頃は楽しかった」と言えるようになったのは
自分が少し成長したからだと信じて良いのだろうか。
私は貴方の何処が好きだったのかしら。