実務上における源泉所得税の悩ましいポイントとしては
非課税として従業員に支給していたものが本来給与課税であったり、
旅費や食事代などいくらまで非課税となるのか
判断に困るシチュエーションがあります。
今回はその例をいくつかご紹介していこうと思います。
Q1.支店を複数有するK社が、この度新しい支店開設に伴い、
従業員を本社から派遣することとした。
従業員の自宅から支店までの交通費の実費分30,000円の他、
支店の勤務環境を考慮した結果、
別途旅費名目で10,000円支給することとした。
A1.自宅から支店までは非課税。
別途の10,000円は課税。
非課税となる旅費は所得税法上では以下のように定められています。
①勤務する場所を離れて職務を遂行する為に行う旅行
②転任に伴う転居の為に行う旅行
③就職や退職した人の転居または死亡により退職した人の遺族が転居の為に行う旅行
Q1では実費分の30,000円は①に該当する為に非課税となりますが、
旅費名目10,000円については非課税となる旅費に該当しないので課税とされます。
Q2.A社は当社役員に対して借上社宅(132平方メートル以上)を提供している。
毎月社宅の賃貸料として200,000円を支払っているが、
役員から50%の100,000円を徴収している。
今期からその借上社宅を一部改装し、
顧客用の応接室や作業所を設けることとした。
その際、役員から徴収すべき金額はいくらか。
A2.70,000円を徴収する。
役員から徴収すべき金額(賃貸料相当額)の計算フローは以下の通りとなっております。
Q2の場合を見ると小規模な住宅以外に該当し、
借入の場合に該当する為、50%を家賃徴収すべきとわかります。
(法人所有の場合での計算は説明の為に省きます。
実務上でも50%計上がほとんどです。)
よって20万円の家賃に対して10万円の徴収は全て非課税と認められていた訳です。
では社宅の一部を業務用に使用する場合はどうなるでしょうか。
所得税法上では「通常の賃貸料の額の計算の特例」として以下の通り定められています。
36-43 (1)公的使用に充てられる部分がある住宅等 36-40又は36-41により計算した通常の賃貸料の額の70%以上に相当する金額
つまり、上記の図1で算出した金額に70%を掛けていいということです。
よって100,000×70%=70,000円となります。
Q3.K社は呼び込みの為に看板を持ち宣伝するスタッフを日雇いで雇った。
また、来社すればいつでも上記の仕事をお願いすることとした。
この場合では給与から差し引く源泉所得税は乙欄徴収なのか、丙欄徴収なのか。
A3.雇用開始日から2カ月は丙欄。
それ以後は乙欄徴収。
給与から差し引くべき源泉を求める際に税額表を使いますが、
雇用者の扶養控除申告書の提出の有無、
勤務期間によってどの欄を使用するかは異なります。
2ヶ月までの勤務期間は丙欄が認められていますが、
2ヶ月を超える場合は乙欄となる点にご注意下さい。
(所得税基本通達185-8)
Q4.A社は従業員を労う為、夏季に社員旅行をすることとした。
税法上従業員が給与課税されない為にはどのような要件があるのか。
A4.原則的に以下の要件を満たせば、非課税として取り扱われます。
①旅行期間が4泊5日以内(海外旅行含む)
②全従業員の50%以上が参加
また会社と従業員の費用の負担の割合ですが、
社会通念上一般的に行われていると認められている額とされていて
曖昧なものになっております。
一般的な割合として以下のデータが裁判所により挙げられています。
<調査時期> <旅行費用平均額> <会社負担額>
平成11年7月 112,421円 69,089円(61.5%)
平成16年3月 108,000円 74,000円(68.5%)
平成21年12月 81,154円 56,889円(70.1%)
つまり税務調査等が入ったときに目立つような金額の負担は、
給与課税とされるリスクが高まるので注意しましょう。
◇まとめ◇
今回は源泉所得税に係るケースをほんの一部ご紹介致しました。
源泉所得税のリスクとしては、
税務調査により会社が費用計上していたものが役員の給与とされてしまうと
トリプルパンチ(源泉徴収漏れ、消費税の修正、役員賞与として損金不算入)のリスクもあります。
経理担当者の方などは
源泉所得税のリスクを軽んじないよう
知識を備えていることをお勧め致します。