1年以上の予定で海外で勤務する人は、出国の翌日から「非居住者」に該当することになります。
日本の税法上、「居住者」であるか、又は「非居住者」であるかで課税される所得の範囲や課税方法が異なります。
今回のブログでは、海外勤務することになった場合に注意すべきことをご紹介したいと思います。
1.概要
海外勤務者の税務について考える場合に、最も重要なのが居住者・非居住者の判定です。
なぜなら、先ほど述べた通り「居住者」であるか、又は「非居住者」であるかで課税の所得の範囲や課税方法が異なるためです。
所得税法により、海外勤務者は、下記のように「居住者」と「非居住者」に区分されます。
■居住者
現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人
(1)非永住者以外の居住者
【課税される所得の範囲】
国内源泉所得+国外源泉所得 → 課税
(2)非永住者
【課税される所得の範囲】
国内源泉所得+「国内で支払われたもの+国内に送金されたもの」 → 課税
【課税の方法】
国内の課税方法と同様
■非居住者
居住者以外の個人
【課税される所得の範囲】
国内源泉所得 → 課税
国外源泉所得 → 非課税
【課税の方法】
役員…20.42%の税率で源泉徴収
使用人…源泉徴収必要なし
※注意すべき点
1年以上の予定で海外に勤務する人は、出国の翌日から非居住者となります。
また、税法上の住所とは、個人の生活の本拠をいい、生活の本拠かどうかは「客観的事実」によって判定することになります。
また、税法上の住所とは、個人の生活の本拠をいい、生活の本拠かどうかは「客観的事実」によって判定することになります。
つまり、住所はその人の生活の中心がどこかで判定されます。
2.海外勤務者の海外勤務期間が変更になった場合
海外勤務期間を変更した場合には、下記について注意する必要があります。
(1)海外勤務期間が短縮した場合
1年以上の海外勤務を予定していた場合、事情により1年未満で帰国しても海外勤務中は非居住者として取り扱われます。
そのため過去の課税関係を修正する必要はありません。
(2)海外勤務期間が延長した場合
延長が明らかとなった日以降は、非居住者として処理を行わなければなりません。
この場合、出国時に遡って、非居住者として処理を修正する必要はありません。
ただし、居住者期間の給与について、すぐに年末調整を行う必要があります。
3.非住者である役員(海外勤務)に役員報酬を支給したケース
非居住者である役員(海外勤務)に対して、日本法人から役員報酬を支給した場合には、日本において20.42%の源泉所得税が課されます。
また、勤務する国からも税金が課せられる場合があります。
このような場合には、日本の税金と外国の税金の両方が課税されることになり、国際間で二重に課税されることになってしまいます。
このような場合には、国際的な二重課税を調整するために、一定額を所得税の額から差し引くことができます。
これを外国税額控除といいます。
【具体例】
海外勤務の役員(非居住者)
日本法人から役員報酬を1,000万円支給
役員報酬を1,000万円に対して、20.42%の源泉所得税が日本で課されます。
1,000万円×20.42%=204.2万円
また、このようなケースにおいては、外国でも税金が掛けられる場合があります。
そのような場合には、日本と外国で二重に課税されることになります。
上記のようなケースの場合、外国側で外国税額控除を適用することが可能となります。
外国側で申告を行ない、日本において課税された源泉所得税204.2万円を控除した金額を外国側に納付することになります。
4.「183日ルール」について
従業員が海外に出張した場合に、租税条約により183日ルールが適用される場合があります。
183日ルールは、正式には「短期滞在者免税」といいます。
滞在日数が183日以内である等の一定の要件を満たした場合には、海外での個人所得税が免除される制度です。
この制度を適用するには、下記の3つの要件を全て満たす必要があります。
(1)滞在日数基準
滞在日数が183日以内であること
(2)支払地基準
報酬が現地法人から支払われてないこと
(3)PE負担基準
報酬が日本の企業が海外に保有するPE(恒久的施設)によって負担されていないこと
5.海外勤務者が出国するまでに会社が行う手続き
1年以上の予定で海外勤務する人に対して、会社は出国までに年末調整を行う必要があります。
これは、出国の翌日から従業員が「非居住者」となるためです。
また、年末調整の対象となる期間は、1/1~出国の日までとなります。
この場合の所得控除については、下記のように1年分控除できるものと出国日までしか控除できないものがあります。
一年分控除できるもの(人的控除)
・配偶控除
・扶養控除
出国日までしか控除できないもの(物的控除)
・社会保険料控除
・生命保険控除
・地震保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
また、確定申告が必要な場合には、自分に変わって確定申告をする人(納税管理人)を選ぶ必要があります。
納税管理人は、居住者であれば誰でもよいので、家族・友人・会社の担当者等、だれに頼んでも問題ありません。
ただし、納税管理人を定めるには、税務署に「納税管理人の選任届」を提出する必要があります。
6.おわりに
企業規模の大小に関わらず、海外勤務が身近になり、上記のような取り扱いに困惑している経営者様も多いのではないでしょうか。
海外勤務者の税務について考える場合に、最も重要なのがやはり居住者・非居住者の判定です。
この判定を間違えると、税務調査で指摘され、不納付加算税等が課せられることになります。
また、国によって租税条約の内容が異なるので、きちんと内容を確認すべきでしょう。