1.はじめに
会計検査院が「国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費について」の指摘を行いました。
建物の資産価値が下がりにくい海外の中古物件を利用した節税策が富裕層の間で広がっていることが問題視されました。
そこで今回は、この海外不動産を活用した節税スキームについてご紹介したいと思います。
2.節税の仕組み
このスキームは、まず国外の中古建物を取得します。
そして、賃貸料収入を上回る減価償却費を計上し、不動産所得に損失を生じさせます。
最後に、不動産所得に損失を他の所得と損益通算することで所得税額を減少させます。
一般的には、減価償却費を早期に計上しても課税の繰延べ効果しかありません。
しかし、建物の譲渡や非居住者になることで所得税額を減少させたケースも報告されているようです。
(1)日本と欧米の中古建物について
下記は、住宅建築から滅失の平均年数です。
また、日本の戸建住宅は価値が大きく低下しますが、アメリカとイギリスでは中古住宅と新築住宅の価格差が小さいといわれています。
日本…およそ32年
アメリカ…およそ66年
イギリス…およそ80年
(2)減価償却費について
国外に所在する不動産も国内と同様の耐用年数を用いて減価償却を行います。
また中古不動産については、下記の簡便法により減価償却を行うことができます。
①法定耐用年数の全部を経過した資産
法定耐用年数 x 20 / 100
②法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数
※1年未満の端数は切り捨て、その年数が2年に満たない場合には2年とします。
下記は、法定耐用年数の全部を経過した中古建物を簡便法により計算した耐用年数です。
短期間で多額の減価償却費を計上できることが分かります。
【木造等】 4年(法定耐用年数22年)
【れんが造等】 7年(同38年)
【鉄骨鉄筋コンクリート造等】 9年(同47年)
国税庁HP
「中古資産の耐用年数」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5404.htm
(3)分離課税について
減価償却費が計上できなくなると、その物件は売却することになります。
その場合の譲渡所得の計算は、下記のように行います。
収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額
譲渡所得の金額は、建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
建物の取得費は建物の購入代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引く必要があります。
結果として、減価償却累計額の分だけ譲渡所得の金額が増加します。
しかし、総合課税に比べて低い分離課税の税率が適用される場合には、全体としては所得税額の負担が減少します。
例えば、総合課税の税率(最高税率45%)に比べて所有期間が5年超の物件は税率15%が適用されます。
国税庁HP
建物の取得費の計算
https://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3261.htm
3.おわりに
上記のような、海外不動産を活用した節税スキームは、以前から問題視されていました。
今回、会計検査院の指摘が入ったことから、税制改正に繋がる可能性は高いと思われます。
そのため、今後の税制の動向に注目です。