犬と狼のはざまで(河出書房新社): サーシャ・ソコロフ | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第55回:『犬と狼のはざまで』

犬と狼のはざまで/河出書房新社

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今回紹介する本は、ソコロフの長編第2作の『犬と狼のはざまで』です。実際には、紹介なんてできない「あっちの世界」の小説ですけどね。

本書の冒頭部には、訳者による序文とともに、主要登場人物表、本書の配列、そして物語の発端が簡潔に記載されています。なんとも至れり尽くせりなわけですが、これを読んでも本書の理解にはほとんど役に立ちません。本書は、『フィネガンズ・ウェイク』系の難解書なのです。

一応、砥ぎ師イリヤーの嘆願書的な手紙、猟兵ヤーコフの語り、ヤーコフの詩の3つのパートがある配列に従って描かれています。

しかし、それぞれの語りは理解困難です。1つ1つの言葉や文章は理解できるのですが、それらのつながりがあまりに錯乱していて、ただただ言葉に圧倒されてしまいます。前回紹介した同作者の『馬鹿たちの学校』では、かろうじて見えていたストーリーも、本書においては言葉の「騒音」によってかき消されているような感じです。

ただし、全部で18章ある本書の中で最後の16-18章は、他の章に比べて圧倒的に分かりやすいですので、これらの章を基軸として、他の章を詳細に何度も再読すれば、この難解極まりない本書も解きほぐせるのではないかと思います。

しかしここで疑問が沸いてきます。

一部例外を除けば、各章の語りや各章のつながりなどは、一読では分からないでしょう。とすれば、どこから読んでも大差はありません。どこから読んでも同じであれば、本書の配列になんの意味があるのでしょうか?

それは何度も再読して本書を理解したときに分かるかもしれません。しかし、何度も再読するような価値が本書に本当にあるのかは分かりませんし、価値があると信じて読み進めるには余りに体力が必要です。

まあ、はっきり言って私はお腹一杯。再読するにしても、しばらくは遠慮します。ただ、物語よりも「書くという行為とは」という疑問や、言葉そのものに愛着を覚える方にはおススメできます。

次回はウリツカヤの予定です。

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