ヨーロッパ紋切型小事典――AからZの煌めき/パスカル・ドゥテュランス
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作者については全くの無知ですが、フランスの文学者だそうです。
さて、紋切型事典といえばフロベールの遺稿として有名です。フロベールの紋切型事典は、『ブヴァールとペキュシェ』という未完の小説の第2部として組み込むために書かれた事典で、当時のフランスで紋切型に使用されていた言葉を集め、その言葉の(紋切型の)意味を底意地悪く記載したものです。例えば、「愚か者:あなたと同じ考えを持たない人のこと」って感じです。
本書はそんな紋切型事典のヨーロッパ版・・・とはちょっと違います。本書は、ヨーロッパ人によるヨーロッパについての言説や図版を収集したもので、ヨーロッパに対する紋切型的先入観的なものを再検討することを目的としています。再検討することによって、紋切型的の言説や図版から、本当のヨーロッパを多面的に浮かび上がらせようとする真面目な本です。
意図が真面目なこともあって、フロベールの紋切型事典にある底意地悪さが皆無またはほとんどなく、タイトルは似ていても別種の本になっています。また、底意地の悪さの薄さがヨーロッパに対する批判的な眼差しをも薄くしている気がします。例えば、キップリングの植民地肯定の詩である『白人の責務』なんかも引用して、もう少し批判的にヨーロッパを描いてもよかったのではないかと思います。
とはいえ、ヨーロッパ人によるヨーロッパの言説や図版を多数収録している点は高く評価できますし、新たなヨーロッパ像が浮かんでくるのも確か。家に一冊置いておいても悪くない。