『PERFECT DAYS』 ビム・ベンダース
『PERFECT DAYS』監督 ビム・ベンダース制作 日本/2023この映画を観る前には直感的に「鼻につきそう」と思いました。観ている最中は「あざとい」と思いました。観終わって「色々とパーフェクトだ!」と思いました。記事を書くにあたって映画の情報サイトを読むと、あれらのトイレは渋谷区内の17箇所のものなんですね。「THE TOKYO TOILET プロジェクト」なるものをまったく知りませんでした。元々日本は公衆トイレがきれいな方らしいですが、建物もおしゃれに改築されて清掃も行き届いているなんて素晴らしいですね。さて映画についてですが、この映画を最終的に自分の中にどう落としどころをつけるかいつも迷います。いつも。そういつも。もう3回くらい観ています。「なんだ、ともしびはこの映画の大ファンなのか」と思われますよね(笑)そう思うのが当たり前だと思いますが、私は悩んでいるのです。この映画の「作り方」を可とするか、不可とするかで。根本的なところで言えば、「作りに作ってる」作品ですよね。平山の住む家、勤務態度、暮らしぶり、通っているお店。姪っ子に突然泊まりに来られた時に平山が寝ていた一階の一室はずいぶんと段ボールが山積みでそれなりに物を持っているのだということは分かりました。でも基本的には日々の暮らしの中で荷物を持たなくても良いようにしているようです。自炊しないからやかんしか持っていない。ペランペランの布団が一組。掃除は箒と濡らした新聞でやる。外飲みで食事を済ませ、洗濯もコインランドリー、風呂は銭湯。賃貸アパートはいかにも昭和の頃に建てられた壁の薄そうな木造物件で、エアコンもついていない。ガラケーの携帯電話を持ち、趣味のカメラは安いフィルムカメラを使っている。シンプルに暮らしています。でも、実際のところ生活費は高くついていると思います。食費、洗濯代、お風呂代、フィルムカメラの現像など。(読書の本は古本屋さんで100円のものを買っていました)多分、こういうところは作っている側からすると「目をつむってね」というところなんでしょうね。もしも誰かと一緒に鑑賞した時に、観終わった後で一緒に見た友人に「だってさ〜、実際にはさ〜」なんて言いながらつっこみどころ満載だよって話をしてしまい、自分が嫌われてしまうのが想像できます(笑)でも一番シンプルなのは人間関係でした。家族とも疎遠、友達いなさそう、仕事は同僚がいるにはいるけど基本的には一人で黙々とやる。飲みに行くお店の店員だけが言葉を交わす数少ない人。しかしながら、生活の中で「顔見知り」はいるんですよね。神社の神主、公園のベンチで隣り合うOL、ホームレス、銭湯の客、古本屋やカメラ屋の店員、などなど。彼らとは決して多くの言葉を交わすことはないのです。互いにただ顔を知っているだけの人でしかない。この辺も用意周到に味付けを濃くしています。そういうのがすごく上手に成功している映画です。書きながら少し分かってきました。なにがパーフェクトかって言えば、それは「作り方」がパーフェクトなんですよね。ありそうでなさそうな設定。細かなところまですごく作り込まれています。でもそれが一般的にみて実現不可なのは、物理的金銭的事情よりも、メンタリティの問題だからだと思うんです。普通の人は「寂しさ」が物と情報を増やしてしまって、こんなにシンプルな生活には耐えられないと思ってしまいます。「欲望」も足でまといしちゃいますよね。平山の一番強い欲望はなんなんだろうか、ふと書きながら考えてみています。そして自分が欲望だらけの人間であることを実感しています。終わりにはちゃんと「物語」も添えています。姪っ子や妹が登場してきたことで平山が肉親と疎遠にしていることが分かります。同時に死期を前にするある人物の登場で、作品の死生観を薄っすらと述べています。最後はニーナ・シモンの『Feeling Good』をBGMにして平山が目を赤くして涙する顔のアップで終えます。最後の仕上げで、途中までは「こんな生活あり得ん」と鼻白んでいた自分もすっかりフワフワと床から3センチくらい浮いてしまうんですよね。それで毎回、「まんまと術中にハマってしまった。悔しい〜」って頭を抱えます(笑)観る前の「説教臭い感じがぷんぷんする」と思っていたのはどこかに行ってしまい、「自分も平山のように生きたいな」などと思って、ニタニタして今日はもうなにもせずにぐうたらしても良いか、となるんです。単純ですね。(平山は働き者なので、なぜ私が「ぐうたらしても良いか」と思ってしまうのかは不思議と言えば不思議。でもガツガツするのやめとうと思えるんです)なんだかんだ言いつつも、私とベンダースの指相撲はベンダースに勝敗が上がったということでしょう。素直に、「結構なお手前でした」と言うことにします。ここまで私の葛藤を読んでいただき、ありがとうございました🙌ニーナ・シモンの『Feeling Good』も聴くと、心がフワフワ浮きます。この曲をエンディングに使うのは、やぱりズルいですよ〜(笑)