パートナーからの性的暴行。
5人の女性たちの体験談





こんな話はどうだろう。




あの日あたしがお店から指輪を盗んでしまったのは、あの指輪があまりに魅力的過ぎたからです。

あんなキラキラした石を使って、あんなデザインで仕上げられたらもう…若い女に我慢できるわけがないじゃありませんか。

大体あんな人目につく場所にあんな魅力的な商品を置いておくなんて、お店の側にも非はあるんじゃありません?

私は若い年頃の女で、当然お洒落の欲も旺盛です。また、あのショウウィンドウの鍵は華奢で、簡単にこじ開ける事が可能でした。もう、ほとんど取ってくれと誘っているようなものだったと思います! 本当に、魔が差したんです!

あの指輪だって、あたしの指にはめられて嬉しかったんじゃないでしょうか? 聞けば店主は買いたいという客をみんな断ってたっていうじゃないですか。そんなことをしたら、せっかくの指輪が錆びついてしまう。デザインも流行りから外れてしまう…。だからそうなる前に、あたしが指にはめてあげたんです。逆に感謝されてもいいぐらいのものだと思うんです。あの指輪は、私の指の上で本当に綺麗に輝きました!

ですからあたしは無実です。少なくとも、執行猶予は付いてしかるべきだと思います。





もしこんな事を言い出す手癖の悪い女がいたら、群衆に叩き殺されて終了ではないだろうか。



自らの欲には正々堂々とした「人権」があり、
魅力的な対象がいたら…
または「もよおして」きたら
それはどうにも仕方のない事であり、
自らの欲望の対象になるやつの方が罪なのだ
言ってはばからない。
清々しいまでの投影である。



物欲と性欲は
満たさなくても死につながるものではない。
その点が食や睡眠、呼吸や排泄などの
生存に深く関わる欲求とは階層を異にする。



しかし、世間ではこれと同じ理屈が
大手を振ってまかりとおっている。



男性を糾弾したいのではない。
自分の性欲の手綱を取っている
男性の方が多いのは知っている。



だが、馬鹿の絶対数が多過ぎる。



まともな男性の中にも
時々その馬鹿さが垣間見えて
ゲンナリさせられる。



生物学的には、
男性の性欲の押せ押せパワーによって
生殖と出産のバランスが成り立っている
側面はある。存在理由はある。



しかしゴリ押された側の「気持ち」は
置いていかれたままだ。



意思表示しても無視され
領海侵犯をされてしまったら
どうしたらいいのか。
それも、信じていた相手から。



なぜこんな当たり前のことが
わからないんだろうという
根源的な絶望と寂しさが
がらんどうの身体の中を
引っ掻き続ける。



この気持ちの後始末を引き受けるのも
欲望の対象となった側である。




なんとも理不尽な話だが
この世はそもそも
理不尽のカタマリなのだった。