かつてであれば政界内の力関係でしか決まりえなかった閣僚にも、マルコス治政下においては大統領の意によってみずからが選抜した官僚テクノクラートにその地位を与えるようになった。そのテクノクラートの輩下に欧米の大学で学位を取得した有能な職能官僚集団を集め、彼らに政策の立案と施行を担当させた。旧財閥から利権を奪いとり、若い有能な企業家に新たに利権を与えることによってその事業拡大を支持し、新企業をマルコスの考える開発路線に向けて動員していくという方向が選択された。のちに「マルコス・クローニイ」と呼ばれた新興財閥群がそれである。


この時期に、フィリピンとアメリカの経済関係の基本にあったラウレル日ラッグレー協定が廃止された。LL協定は、アメリカのフィリピンからの輸入関税率の引げ、米系企業のフィリピン国内での事業経営に対する内国民待遇の供与などをうたったものであった。この協定は対米輸出に依存する砂糖産業を中心としたアグリービジネス財閥や、米系企業との合弁財閥を大きく利してきた。LL協定の廃止は、これら既得権益層に甚大な打撃を与えて、新民族資本の台頭をうながすという意向をその背後にもっていたのである。