12.


カルーセル麻紀さんが言ってました。たしか徹子の部屋でし たね。

「私ね。山口洋子と友達なんですよ。でね、彼女と男の話をしてたわけ」

「ちょっと待って。山口洋子さんて、あの?」

「作詞家で銀座のママの。私たち、昔っからの友達なんですよ」

「そぉ。いい詩を書く方ですよねぇ。で?」

「それでね。彼女と男の話をしてたときにね。私、あの男ともやった、あの男ともやった。あっ、そうそう、あの男ともやった。なんて指を折りながら話してたわけ。そしたらね、山口洋子が言うんですよ~。

『麻紀ねぇ。あんた、姿形はオンナでも心はオトコねぇ。私たち女はね、あの男とやった、あいつともやった、なんて絶対に言わないよ。女はね、どうしてもヤラレタって感じがするもんなのよ。あんたみたいにヤッタ、ヤッタって鬼の首でも取ったみたいに言わないもんなの。やっぱりアンタは外見はオンナでも心の中は 男ねぇ』、って」

まっ、思い出しながら書いてる会話ですから、まったくこのとおりではありませんが大意はマチガイナイ。

この会話には重大な秘密が隠されてますよ。カルーセル麻紀さんが自己同一性に対する漠たる不安を感じたのは小学生の時だそうです。

あっ、この自己同一性に対する漠たる不安というのは芥川龍之介の遺書の中にあ った“将来に対する漠たる不安”のパクリです。簡単に言えば、オレはなんか男のコのほうが好きになっちゃうんだけど、どっかオカシイんだろうか?ってカルーセルさんが思ったのは小学生の時だったってことです。

カルーセルさんは15才で高校を中退するとこっそり家出。年齢を偽って札幌のゲ イバーで働きはじめる。女性の格好をして名前も麻紀になって、やっと心の落ち着き先を見つける。麻紀だけでは座りが悪いので、そのゲイバーの店名をもらっ てカルーセル麻紀と名乗った。 よくカルーセルさん自身がネタにしてましたが、本名は平原徹男だった。強そう でしょ? そう言ってカルーセルさん自身が笑ってました。今は名実ともに女性に なって戸籍の名前も平原麻紀だそうです。徹男→麻紀。たったこれだけ変わるのに数十年にわたるドラマが隠されている。