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怪しい空模様の中、予定調和を信じないワタシは反哲学的な決断で散歩に出ていくことにした。

事件の背景が1つ浮かび上がってきた。

1.あの日は今にも雨が降りそうな天気だった。

で、ワタシはなにをしたか。自転車に乗ってフラフラと、いやブラブラと出発した。殊更なにも変わったことは

あった。

ワタシは普段、普通の自転車には乗りません。いわゆるママチャリには乗らない。もちろん異常な自転車にも乗らない。車輪が四角ではコマル。ワタシの愛車はマウンテン・バイクです。なぎら けんいちの心の友です。

なにゆえにマウンテン・バイクか。これにはワタシらしい深慮遠謀、深謀遠慮がある。


どうして意味の同じ熟語を繰り返したか? どちらの入力でもちゃんと出てくるか試しただけです。

さて、どんな深慮遠謀か。これはワタシの社会観察から来ている。

世間をざっと見回したところ、60才以上の方で自転車の立ち漕ぎをしている方は極めて稀である。

犬でも自転車の立ち漕ぎをする時代なのに、なぜか還暦をすぎた方たちの自転車の立ち漕ぎは滅多に見ない。

読者の皆さんも頭の中で記憶を半数、いや反芻してみてください。ご老人の自転車の立ち漕ぎを見た経験はほとんどないはずです。

ワタシがこの事実に気づいたのは12年と3カ月前です。以来、ワタシは60才を過ぎても70才を過ぎても自転車の立ち漕ぎができるようにすることを人生の第一目標にしてきた。

理由? ワシントン条約の保護の対象になるためです。

ワタシは将来、奥さんや息子に見捨てられるかもしれない。オジー・オズボーンなんかそろそろアブナイ。オジーさんになってます。

仮に奥さんや息子に見離されても、自転車の立ち漕ぎができれば大丈夫。自転車の立ち漕ぎができる70才になっておればですよ、世界の稀少動物として国際的な条約の保護下に置かれる。ワタシを売ったり買ったりは誰もできない。

そういうわけで、ワタシは10年も前から自転車の立ち漕ぎの練習をしてきた。マウンテン・バイクで立ち漕ぎ力を養ってきた。

ところが、あの日、ワタシが乗ったのはマウンテン・バイクではなかった。[続く]