今日は3ごく4(さんごくし)の日、ということで、この話題をいってみよう。
私は三国志が大好きだ。学生時代、これが一番代表的だろうと思って、吉川英治氏の小説”三国志”(文庫で全8巻)を読んだ。もうとてつもなく面白く、立て続けに最初から最後までを3回読み返した。
日本人にも親しみやすく著した吉川英治氏の小説三国志において、とある”ミス”があることは有名だ。それは、この物語に登場する数多くの人物の中でも有名な部類に入る武将”張郃”(チョウコウ)が、”3回死ぬ”(死んだような描写があるのに、あとでまた何事も無かったかのように登場してくる)というものである。
だが、はたして本当にミスしているのか、疑問が湧いたので検証してみよう。
まずは、”3回目の死”を見てみよう。
文庫8巻、蜀(諸葛亮の属する国)と魏(張郃の属する国)との戦い後半。天才軍師諸葛亮は、自軍の部隊をわざと木門道という谷へと退却させる。これを見た張郃は、敵を殲滅するチャンスとみて退却する蜀の部隊を追いかける(魏の天才軍師司馬懿に止められるが、これを拒否する)。しかし、とある地点に到達した時、周囲に火が付き、たちまち膨れ上がった業火に囲まれて逃げ場を失ってしまう。諸葛亮が用意していた罠だったのだ。
「性火の如しといわれていた張郃は、遂に炎の中に身をも焼いてしまった。」
「張郃を亡った魏兵は、・・・」「張郃の戦死は惜しまれた。」
「彼を討死させたのは、実に予の過ちであった。」(司馬懿)
などと書かれてあるので、ここで死んだのは確実のようだ。実際、中国の三国志演義でもここで諸葛亮の策にかかり死んだことになっているので、ここは正しいということになる。
次に”2回目の死”を見てみよう。
文庫5巻、曹操軍から逃げる劉備軍であったが、ついに長坂坡という場所で追いつかれ、乱戦になってしまう。そこで曹操軍から、「背に張郃と書いた旗を差し」た武将が登場し、劉備軍の名将趙雲に襲い掛かる。2人は戦闘を繰り広げた末、趙雲が「長剣を引き抜くやいな、張郃の肩先から馬体まで、一刀に斬り下げて、すさまじい血をかぶった」。
「趙雲は彼(張郃)をたおした」←(この”たお”の漢字は”倒”ではなく、にんべんに”ト”という見かけない漢字)とある。
この時に登場した張郃がどういう人物であったかという細かい説明は書かれていない。いきなり出てきて、いきなり趙雲に倒された。なのでこの張郃は、あの有名な張郃と”同姓同名の別人”と考えることもできる。
また、もしこの時の張郃が”本物の張郃”だったとしても、「たおした」とあるだけで、”3回目の死”の時のように「死んだ」といったような確実に死亡したことが分かる言葉が使われていないし、趙雲が(張郃の)すさまじい血をかぶるほどのケガを張郃が負いはしたが、奇跡的に一命をとりとめた可能性もある。
こう考えると、多くの読者がここで張郃が死んだと勝手に決めつけていることが逆に不思議に思えてくる。
よってここでは張郃は死んではいないと断言する!
最後に”1回目の死”を見てみよう。
文庫4巻、ここでも曹操軍と劉備軍の戦いが描かれるのだが、張郃の描写はほんのわずかだけ出てくる。
「猛然、張郃の勢を、うしろから粉砕し、趙子龍と(関羽の部隊が)協力して、とうとう敵将張郃を屠ってしまった」。
誰が、どのような方法でといった細かい描写は無く、ただ趙雲と関羽の部隊で協力して「屠ってしまった」とある。これの他に、このシーンでの張郃に関する描写は無い。
この時の張郃が同姓同名の別人である可能性はあるのか。
この曹操軍と劉備軍の戦いの前に、曹操軍と袁紹軍の戦いが描かれるのだが、もともと袁紹配下だった張郃と高覧という武将が、負けそうになってきた袁紹軍から曹操軍に寝返るというシーンが描かれている。これは三国志演義通りの展開である。そのあとのこの曹操軍と劉備軍の戦いにおいて、趙雲が「一突きに、高覧を刺し殺した」。その直後に、「張郃を屠ってしまった」の文章が出てくる。少し前に袁紹軍から寝返ってくるシーンがある、近くに高覧がいたといった要素から、このシーンで出てきた張郃は、同姓同名の別人などではなく、”本物の張郃”であった可能性が高い。となるとやはりここでは吉川英治氏はミスを犯し、ここで死ぬはずではない張郃を間違って殺してしまったのだろうか...
いや、違う。
もう一度、あの文章を見てみよう。
「とうとう敵将張郃を屠ってしまった」。
殺してしまった、とかではなく、”屠ってしまった”になっている。
私は”屠る”(ほふる)という言葉の意味を調べてみた。すると、”からだを切りさく。また、きり殺す。”とあるが、その他に、”敵を破る。打ち負かす。”という意味もあるではないか!
そう、ここでの張郃はただ、”打ち負かされた”だけであって死んではいないのだ!
直前の高覧は「刺し殺した」と直接的な表現を使っているのに対し、あえて張郃には「屠って」という言葉を使ったのは、吉川氏が「張郃は死んだわけではありませんよ」と私たち読者にちゃんと教えてくれていたことにほかならない!
よって私はここに、吉川英治氏の小説三国志で、張郃は3回死んではいないと結論付ける(あくまで個人的な見解です)。
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