私は音楽が嫌いです。

自分から音楽を聴くのは1年に5分もありませんし、クルマの中でもシーンとしたまま運転しています。

 

ところが中学生の時に祖母がギターをプレゼントしてくれて何となくつま弾きはじめ、ついでに歌を歌うようになりました。

 

高校性になって先輩に誘われてボーカリストとしてライブに出ることになりましたが、どうせやるならと金スパッツを履いて髪を赤く染め、後のビジュアル系のような格好で出ていました。

 

それがウケたのか家に女の子が押しかけ、モテモテ状態になりました。

他のバンドからも次々に誘われ、そのまま成り行きで毎月・毎週のようにライブに出ていました。

そのうち仕事系からも誘われるようになり、数寄屋橋のクラブで歌うバイトをしたりしました。

 

ある時、某大手スポーツメーカーのキャンペーンソングを歌わないかという話が来て、プロ入りを真剣に考えてみましたが、冷静になってみれば私の歌唱力はプロの中では下の方であり、勢いでプロになっても一生食える自信はありません。

 

しかも、よくよく考えれば音楽嫌いの人間がプロとして通用するとはとても思えません。


それまでは成り行きで調子にのっていましたが、ここで音楽への道はスッパリあきらめることにしました。

 

それでもバンド活動そのものの楽しさやライブの高揚感、仲間と息がぴったり合った時の快感などは心に深く刻まれました。

 

それから数年たって、やっぱりバンドが恋しくなり、とは言えボーカリストとしては目標を失っていますのでドラムを叩くことにしました。この「汚ねぇ魂」前面のハードロックバンドは10年間ほど続けました。

 

そして42歳の時にまたまたバンド活動が恋しくなり、知人の建築家何名かに声をかけておしゃれロックバンドを作り、今度は誰もやる人がいなかったベースを弾くことにしました。


とは言え、昔から歌の練習のためにギターをカキ鳴らしてはいたものの弦楽器が苦手で、特にベースやギターソロのように弦を単音で弾くというのが性に合わず、ちっとも上手くなりません。

 

それでもこのバンドはもう16年も続いていて、定期的にライブもやっています。固定ファンもつき、それなりのやりがいをもってやっています。


最近は、音数がやたらに多いプログレバンドからもお誘いいただき、ヘタクソなベースからさらに雑音を撒き散らしています。

 

前置きが長くなりましたが、一年に5分しか聞かないほど音楽嫌いで、しかも弦楽器が苦手な私が、それでも今までバンドを続けてきて本当によかったとつくづく思っています。

 

音楽は100練習しても1か2くらいしか上達せず、いつまでもゴールが見えないので永久に目標がなくなることがありません。


ドラムだとそこそこきつい運動になりますし、他の楽器でも1時間演奏すれば汗ばむくらいの運動にはなります。運動嫌いの私としては、自動的に運動になるのはありがたいです。


また体を細かくコントロールしますし、演奏中は常に次のフレーズを意識しますので、老後には麻雀なんかよりもずっとボケ防止になります。


そして、絵などの一人でできる趣味と違って、何が何でもスタジオに行って演奏しないとなりませんので、仕事に準じる責任感・緊張感が必要であり、定年後もボケっとしてはいられません。


さらに、バンドメンバーとは濃厚な付き合いになりますので、定年後も最低限の社会とのつながりを維持することができます。


それにバンドをやっている人は年齢に関係なくモテますので、不純な動機の方にももってこいです。


もちろん上達を実感した時の充実感や、難しいアンサンブルがキマッた時の快感はとても大きなものです。


60歳からのライフワークとして、音楽以上に適したものはないと思っていますし、音楽を聴くのが好きな方はなおさらです。


音楽は難しいという先入観があるかと思いますが、だいじょうぶです。今さら国際コンクールで優勝しようというわけではありませんので、できるだけでいいのです。


ただ、せっかくやるのであれば何か手応えが欲しいのも事実です。


そのためには部屋の隅で一人演奏するのではなく、やはりバンドを組んで年に一回でもいいのでライブをやることです。そのことによって緊張感や責任感がより高まり、ライブを無事に終えた時の達成感や充実感もまた大きくなりますし、上達も早くなります。


が、60を過ぎてから音楽を始める方にとっての一番の障壁は、このバンドを組んでライブをやるという部分でしょう。


同年輩で若い頃から音楽を続けてきた人たちはすでにセミプロレベルに達している人も少なくなく、まったくの初心者と演奏することは嫌がります。


かと言って、どこにいるのかも分からない各楽器の初心者をカキ集めてくるのも至難の業です。


そこで、始めはヤマハとかカワイとかの大手の音楽教室に通うことをお勧めします。


大手であれば他の生徒さん同士でバンドを組むことも可能でしょうし、発表会なんかもあると思いますので、それをきっかけにバンドをレギュラー化し、いずれ単独ライブに持っていく手はあると思います。


がんばって上達すれば、既存バンドから声をかけてもらえる可能性もあります。


アマチュアミュージシャンは横のつながりが数珠繋ぎのようにあり、広い意味でコミュニティを形成しています。そのコミュニティに入ることができれば、演奏機会はどんどん増えていきます。


アマチュアコミュニティに入るにはパートも大いに関係します。


まず、ボーカルはやめた方がいいです。

歌は誰でも歌えますので競争が激しく、声が特にセクシーとか個性的な歌が歌えるとかでないと、カラオケキングくらいでは相手にされません。


それ以前にオリジナルだけやるならともかく、プロと同じキーで歌うことはほとんどの人にはできません。


次にギターやキーボードも微妙です。

一人でも成立する楽器ですので、密かに家で続けている人も多く、技量の要求水準が高いです。


また、この二つはウワモノと言ってアンサンブルに華を添えるのが役割ですので、引き出しの多さと独特の器用さが求められます。


ギターで言えば何種類ものエフェクターやアンプを使いこなす、キーボードで言えばシンセサイザーから効果音を含むどんな音でも出せるなど。


つまりキャリアがものをいうパートで、1、2年ではバンドデビューは難しいと思います。


もっとも引く手あまたはベースとドラムでしょう。

ベースとドラムは一人では完結できない楽器ですので、若い頃に経験があってもとっくにやめている人が多く、プレイヤーの絶対数が少ないです。


特にドラムは自宅に置くにはデカすぎますので、希少パートと言ってもいいでしょう。

もしご自宅にドラムを置くスペースがあるなら、その時点で勝ちですし、今は電子ドラムがありますので近所迷惑にもなりません。

ただし、初期投資はかさみます。


ベースは地味な楽器ですので希望者が少なく、そういう意味で希少です。


その他にサックスやトロンボーンなどのソロ系も希少ですが、ジャンルによっては出番が少なく、その割にガチのクラシック楽器でソロを取るには少なくとも3年はかかります。


ダークホースはコーラスとパーカッションでしょう。

成り手が少ないので希少であり、出番も多いです。


ただし、コーラスはリズム・音程ともにタイトで、初めから音感のいい方以外は相当に練習しないとない方がいいと言われてしまいます。それに楽器が体にくっついていますので体調管理も必要で、喉を酒焼けさせている場合ではありません。


パーカッションも極めようとすれば激ムズですが、アマチュアバンドの要求水準で言えば簡単な楽器です。ただし、何種類もある楽器を袋に詰めてガシャガシャ持ち歩き、ライブでは大ぶりなものまでレンタルを手配して持ち運ぶ必要があります。


ということで、自分がやっているからではありませんが、60歳から始めてもっとも先が見える楽器はベースです。


ベースは初心者でも30分で弾けるようになりますし、エフェクターなどもほとんど使いませんので、2、3万円もあれば始めることができます。


また、生音が小さいので、ちょっと手の空いた時に時間を選ばずに練習することができます。


ライブの時もギターは音に合わせてアクションをとらないとサマになりませんが、ベースはうす暗いステージの端で微動だにせずに弾いてもそれはそれでカッコいいので楽チンです。


ただし、ギターやキーボードが華やかさやバリエーションを求められるのに対し、ベースは和音の低音部分だけでなく、実はリズムやノリを作ることが一番の仕事です。


言ってみれば、出入り口は小さいけど、やたらに深い井戸のような楽器です。


特にジャズ系はドラムがピアノやギターと同じウワモノに近く、リズムやノリのほとんどはベースが担っています。


ですので、バンド全体が上手く聞こえるかどうかはベースにかかっていて、地味ながら責任重大です。


コツとしては、バンドがあるレベルに達するまではドラムの後ろに隠れて小さな音でコソコソごまかし、メンバーがベースの重要さに気づくまでに何とか上達することです。


私もつい最近までコソコソ弾いていました。


いずれにしても、音楽は練習すればそれなりの成果を必ず実感できる趣味ですので、つい最近まで努力してもアホ上司のせいで報われなかったり、運がなくて結果が覆ったりで世の不条理に辟易としているあなた!


チャンスです!