※無名作家の太陽さんという方に、ハートフルな雑貨屋さんというテーマで素敵なお話をお書き頂いたのてご紹介✨
お店のことはノンフィクション、ストーリーは実話にも基づきつつフィクションですおたのしみくださいませ(*^^*)
いいね!と思ったらshareお願いいたします☆




 エフトゥシズストーリー5 パパからのプレゼント

 

「もう終わったのか?」

静かなオフィス。パソコンを打つ音と、とぎれとぎれに聞こえる会話の声。

時刻は間もなく11時、夜の。23時だ。

はい、終わりました。と答える部下。

そういえば、と話しが始まる。以前行った出張の話、客先での打ち合わせの席の話、社長の話。40代後半に差し掛かった男はどうしてこんなにも語ることが多いのだろうか、と思うほどに話が続き、23時半、部下は解放され家路につく。

部下はへとへとに疲れ、バスと電車を乗り継ぎお嫁さんの帰る家に向かうのである。

彼は以前上司の課長に言ったことがある。

「課長、もうすぐ子供が生まれるんです。少しでも早く帰って子育てもできるように頑張ります」

課長は言った。

「おめでとう。ただ男が子育てってのはなあ、男は仕事、女は家庭だからな。俺なんて娘はもう小学生だけど、しっかり育っているぞ。男は背中で子育てするもんだ。なっ」

彼はその時から上司への尊敬の気持ちを失った。

うとうとしてバスが終点についているのにも気づかなかった。

 

翌日。朝の7時40分。会社につく、8時半の始業までに机やフロアの掃除を片付け、ラジオ体操をする。始業ベルがなっても課長は来なかった。

なにやら家庭に不幸があったらしい、

「背中で育てていた子供に何かあったのかな」とぼんやりと思いながら朝の打ち合わせに入った。

 

突然の妻の他界。

小学校5年生の多感な娘。

子育ての相談を正面から突き返してきた義父母。

仕事一色でアル中気味の父親と愛想をつかして沖縄に一人向かった母親。

すべてが順風満帆、自分は仕事をしていればすべてが丸く収まり、子供は大きく育ち。自分は悠々自適な老後が迎えられる。

そう思っていたかつての課長の人生は180度転換を迎えた。

 

部下を23時以降まで拘束することが当たり前であった以前の職は失わざるを得なかった。

小学5年生の娘を放課後から夜24時近くまで一人にしておくことはできない。そう判断した以前の課長は、社長にその家庭状況を説明したが理解されず、仕事を変えざるを得なくなって、それから半年が経った。

 

今まで土日に(たまにゴルフや接待が無い日だけ)しか顔を合わすことのなかった娘。思い出そうとしても顔がすっと思い出せなかったものだが、今では毎日朝ごはんを作り、一緒に食べ、夜ご飯の買い物や食事を一緒に取っている。

それで以前の課長は分かった。どれだけ子育てが大変であり、デリケートなものか。

家事をスムーズにこなすこと、バランスの良い食事を家族が取れるようにすることがどれだけ重要であり、また難しいことであるかを。

 

かつての課長は特に娘との会話には苦労した。

まったくもって何を話していいかがわからないのである。仕事場での飲み会や社長の愚痴やゴルフの話が通じるわけもなく、もっぱら娘の話を聞いた。そんな会話の中で、娘が誕生日を楽しみにしていることが分かったのも誕生日まで3日を切ったころだった。

これまで誕生日と言ってもすべてを妻が、料理を作り、ケーキを買い、プレゼントを選び渡していたのだった。いつも仕事を言い訳に、ただほしいものを買ってやれと伝えていた。

それがいまはすべて自分でやらなければならなくなったのだから、まったく何をどうしていいのやらと頭を悩ましていた。

「こんなことを考えていることが、昔の仕事場のやつらが知ったら笑うだろうな」

かつての課長は自嘲気味な笑いがでたが、本気でどうすべきかと改めて唸った。

 

誕生日まであと2日というところで、会社を午後半休とり、プレゼントを手に入れるべく動き出した。娘が一体何をほしがり、何を喜ぶのか。そのことがまったくわかっていないままに。

娘は母親が亡くなってから物を欲しがらなくなった。物欲がなくなったかのように、何を聞いても特にほしいものはないと言った。

そんな娘に対して、何かこの父親があげて、それを喜ぶ顔を見たいと思っている自分がいることに驚いた。

 

昨夜、パソコンで周辺のプレゼントやらギフトが買える店を探した。

ふつうのデパートのおもちゃやノートやらではつまらない、とにかく何かを探した。

近くの清瀬駅から駅からほど遠くないところに雑貨屋があることを初めて知った。

インターネット上にある画像から娘が好きそうな、小学校高学年の女の子が好きそうなものがあることを確認して、店の名前をメモした。

 

生活を彩る雑貨屋さんEft.Siz

 

エフトゥシズ?

発音しずらい名前だな。

 

会社を早くあがっての午後。

前の会社だったら午後半休なんて絶対取れなかったものだ。と考えつつ自転車で小金井街道を北上した。道が狭くて危ない通りだが、ゆっくりと歩道を走り、踏切を超え、セントラルのジムを斜め右に入る。そこをまっすぐに行くとけやきホールがある。娘が幼稚園の時一度だけ来た記憶があるような気がするがなぜ来たのかを思い出せず、店を探した。

 

ネットの地図を見ながら種を売っている店の並びを見るが何もない。

改めて地図をよく見てみると、けやきホールの手前の角で曲がったところにあるように書いてある。そこへ向かってみる。薬局の隣、病院の建物の向かい、マンションの一室。小さな店らしきものがあり、店のメニューが書いてある。

 

見ていると店員に声をかけられた。

「こんにちは、良かったら中にもメニューがあるのでどうぞ」

お店の中に入ると、中はかなり狭いのだが壁をよく使って、たくさんの小物がおいてあるのに驚いた。

「コーヒーも1杯200円でお飲みいただけますのでよろしければどうぞ」

と声をかけられ、かなり年の差を感じて汗が出てきているのでコーヒーは遠慮して、娘のプレゼントを買いに来たのだが、一体何をあげたものだかと正直に相談してみた。

とりあえず店の中を一通り見まわし、娘が一体何を好きなのか、部屋の中にどのようなものを置いているのかを考えたが、思い出せず。店員にも娘の好きなものなどを尋ねられたが何とも答えられないので情けない。

小学生5年生の娘ということを伝えたので、文房具やちょっと変わった靴下などを勧められた。個人的には何とも可愛らしすぎてどうにも思えないのだが店員いわく、小学生の女の子も一人できたり、親と来てこのようなものを喜んで買っていくのだとのことだ。

あまり張り切りすぎても逆に警戒されそうなので、2000円ほどの予算でピザの形をした靴下、動物柄のノートと動物が乗った鉛筆、そしてミキサーの形をした鉛筆削りを選んで、プレゼント用に包んでもらった。

 

そういえば妻にもこのようなプレゼントを結婚してから渡したことがほとんど無いことを思い出し、少し後悔をしたが、喜んでくれたらまたプレゼントしたいな、と思いながら自転車を漕いだ。

 

誕生日の日、あまりものを欲しがらなくなった娘は今流行りの映画を見たいとのことで、映画館に連れていき、餃子とジュース、ケーキを持って家に帰った。

家でケーキを食べる前に、かなりの勇気と恥ずかしさを押し切ってプレゼントを渡した。

娘の驚いた顔が忘れられない。

一瞬固まって、涙を流し、そして小さく頷きながらありがとうと言ってくれた。

あまりの喜ばれように、自分も少し固まってしまったが、言葉が素直に出てきた。「今までは一緒にいれなくて悪かった。これからは俺がいつも一緒にいてやれるから、プレゼントも何あげていいか分からなかったんだけど、使ってくれ」

 

娘は頷いて、袋をあけて、商品を並べて言った

 

「すごーっい!」

 

初めてあげた娘へのプレゼント。

 

プレゼントっていいもんだ、と思い。来年は何が好きかを知ってから、もっと喜ぶものをあげよう。と思ったのでした。