※連続小説です!結構長く分割されていますニコニコ無名の作家、太陽さんより
1-1は
http://ameblo.jp/zakkaeftsiz/entry-12119874635.html


 2 気になる彼を見る
がたんがたん、がたんがたん
暑い。電車の中なのになぜこんなに暑いんだ。僕は柄にもなく、あまりの蒸し暑さにイライラしてしまっている。全く、冷房の強弱を使い分けているんだろうけど、わかり易く外に書いておいてほしいな。僕は電車の運用に対して不平不満を心の中でぶちまけている自分に気づき、いかんいかんと思って前を見る。
相変わらずのため息を巻き散らかしてる彼を僅かに見る。
まったく、ため息を吐いたら吸い込むってことを知らないのかな。吐いた息と一緒に出て行ってしまう幸せを吸い戻さないとどんどん不幸になっちゃいますよ。心の中で彼に向かって教えてあげた。
池袋から埼玉に向かう西武池袋線の急行の中。
七時というと、けっこう込み合う時間帯であり、急行に乗る時は満員電車レベルになる事さえある。今はそこまで込んでいないが、とにかく暑い。
石神井公園駅で多くの乗客が降りて行く。そして僕の隣の席も空いて、彼が腰を下ろす。全く持って視線の角度を斜め下、五十度くらいの角度を維持したままの視線で椅子に座るのでおかしくも思ってしまう。
「あれ、昼間のカフェの方じゃないですか」僕は少し大きな声で話しかける。確実に一回で聞こえるように。
彼はゆっくりと視線を上げ、僕の顔を見る。
「あ、お昼の方」
僕は丁寧に挨拶をし、またため息が聞こえた為顔を見たら、確かにお昼あった人だったので驚いて声をかけてしまった事にして詫びてみせた。そして彼の口から発せられる微かな音に耳を澄ます。その音から彼の意思や悩みを感じ取るように僕は努めた。またその傍ら彼との他愛も無い会話をすべくと、電車の弱冷房に対する意見と今の運用方法による悪い効用についても僕は話をした。

彼はどうやら怯えているようだ。
それも何に対してかは、彼自身もわからない。ただ、何かに対して強い恐怖を抱いている。
嫌がらせ?脅迫?
家に届いた数枚の手紙。それには死ねだとか、殺すだとか、あとはテレビドラマなどでみるような文字を色々な所から切り抜いて作った文章で罵詈雑言と脅迫のメッセージが記されていたようだ。彼には家族がいて、奥さんと子供。子供は三歳で元気に成長しているようだが、奥さんは彼と同様に神経を衰弱させているようだ。他にもインターホンを押されるが誰もいなかったり、自転車がパンクしていたり、車に泥を塗られていたりというような子供のいたずらのような嫌がらせを立て続けに受けている。そして、カミソリの刃や虫の死骸をポストに入れられた日の翌日、警察に届け出た。
警察には、子供や少しおかしな人からの不特定の人を狙った嫌がらせだろうと言われたが、定期的な見回りを強くお願いし、承諾されて警察との話を終えた。
そんなやり取りをしていた週末が終わり、今日は週の始まりの月曜日。気分も浮かないことだろう。

お昼にカフェを出てから、彼がどんな仕事をしているのか気になり様子を見てみた。
彼はとある大手携帯電話メーカーに勤める営業マン。海外展開をしている会社であるが、日本国内の通信業者向けに日々営業周りで靴底をすり減らせながら、注文をもらうべく勤労を続けるサラリーマンだった。基本的には外回りで、顧客と打合せをし、夕方になったら品川周辺から自宅へと電車に乗る生活をしているようだ。
現在市場が急拡大しているスマートフォン。それを日本メーカーとして世界へ発信する会社はそう多くない。そして世界の携帯電話市場は20億台に上る程需要が継続的に伸びているブームな市場である。
世界としての台数はとんでもないが、総人口一億二千万人程の日本で言うと、ブームとはいえど規模はそこまで高くもなくなっている。数年前にアメリカの会社が電話を再創造する。と言って解き放った初のスマートフォンを始め、各会社が似たようなスタイルで似たような機能のスマートフォンを出して大分時間が経っている。電話に乗れば大半の人がスマホを手にゲームやらチャットやらフェイスブックやらを常にやっている光景は既に日常の物となっている。数年前(そんなに長くではないが)には日本で大ヒットしたSNS、ソーシャルネットワークサービス。それもスマホ全盛時代には主役は一変している。流行もの好き、だけど日本の素材でないと流行る事はない日本という市場にアメリカ製のSNSが浸透、書き込みや写真をシェアできることはもちろん、チャットやつぶやきなども可能。芸能人なども自分の宣伝に使用したり、今ではやっていない者は村八分、仲間はずれにされてしまうことなんかもあるとか(これは以前のSNSでも同じであっただろうけど)。そんなIT分野の最前線に経つメーカーの仕事と聞けば、聞こえは良いが、蓋を開けると顧客のわがままに振り回され、ノーとは言えない商談を終え、社内に報告すれば上司からも他部署からもブーイングを受けまくるというのが日常業務の一部になっているのだから現実は辛いものである。
彼は午後に大手通信業者との商談を二件して一日の仕事を終えた。
時より見て取れた彼の横顔は心ここに有らず、魂の抜け殻とも言えるようなふわふわした印象を見せていた。
また、気がついたのは彼が常に携帯電話を気にしていたことだ。
もちろん携帯電話を作っているメーカーの人間で有るが故に、フルでそれを活用することは当然であり、仕事もスマホを使うことが常に必要なのであろうが。しかし、見た所彼が確認しているのは仕事のメールや更新情報というのは極稀であり、フェイスブックやツイッター、ブログなどの情報であったのだ。そして見る度彼は顔を崩し、ばつが悪そうに、又は露骨に落胆したりしてみせた。
商談を終えた後、再度同じカフェに彼は立寄、コーヒーを飲みながらパソコンで事務処理を少しして、帰路についた。

哀れな彼に対し弱冷房車の設定について、長い事話をしてしまったことを少し後悔しながら僕は呟いた。
「それにしても本当、最近スマホ増えましたよね」
「そうですね。あなたもですか?」彼は俯きながら聞いて来た。元気はなくても市場の実情には興味があるのだろう。
「そうですね。僕も使っています。でもアメリカのじゃないですよ。やはりこういうハイテクは日本製品の使い易いやつに限ります」
僕は遠回しにあなたの会社の物を使っていることをアピールし、彼の反応を伺う。彼はメーカー名を訪ねて来て、僕の回答に少し表情が緩むのが伺えた。
「それにしても電車の中では基本的にゲームとフェイスブックですね。どこを見ても」
僕の言葉に彼はすぐに反応を示さなかった。僕は続けた。
「フェイスブックもミクシイもやってはいますけど、なにやら最近怖いらしいですね。まったく知らない人が友達を申請してきたり、あと友達になりすまして申請して、承認したら個人情報を盗んでいくなんてものあるらしいですよ。いろいろありますよね」
彼は僕の顔を覗き込むように眺めてくる。僕は彼の興味の強さを感じる。
彼は少し考えるような仕草をして、
「あの、そういう問題お詳しいんでしょうか?」
「詳しいと胸をはれる程ではないのですが、少し勉強していたりその関係の仕事に就いていたことがあったりしまして。少しわかる程度ですよ」
「実はSNSでちょっとした悩みがありまして」
彼はずっと出したかった一言を出して、すっとした表情をしたかと思えば、言わなければ良かったと少し後悔したような表情も出してまた俯いた。
そして車内アナウンスが次の所沢にもうすぐ着く事を伝える。
「あ、私はここで乗り換えます。すいません、初対面の方に悩みの相談なんて。また次回お会いしましたらちょっと相談させてください。たいした事ではないですのお気になさらず下さい。では。」
僕は彼の横顔を見ながら考えた。早い段階で相談に乗った方がよいのでは、と。
しかし、彼は素早くも丁寧に鞄を持ち、立ち上がって列に沿って降りて行った。そしてドアが閉まる前にこちらを見て、会釈して乗り換えて行った。おそらく今が初めて彼が僕の顔の全体を見たことだろう。

僕は心配を胸に電車の揺れに身を任す。そして思う。
なんか臭いんだよなあ、この問題。


1-1は
http://ameblo.jp/zakkaeftsiz/entry-12119874635.html

もっと読みたい!気になる!!
と思ってくださる方はいいねやコメント、シェアお願いいたします照れ

楽しい雑貨屋さんもよろしくです(^^)
http://zakkaeftsiz.theshop.jp