※連続小説です!結構長く分割されていますニコニコ無名の作家、太陽さんより


  1 カフェでの出会い
季節は真夏。
形は無いが、窓の外を眺めるだけで今が真夏であるということがわかるのは特異的だな。
景色が歪んで見える。アスファルトの照り返しが焼き肉の鉄板の上のように景色を歪ませる。
平日の午後二時前。昼食のピークを終え、OLやらサラリーマン達は財布片手にオフィスに戻って行き、カフェには大分客が少なくなっている。都会の真ん中品川。その町はある大企業の名前をとっての町とまで呼ばれているが、オフィスビルの一角にあるカフェの中は、どこの町にもあるこのチェーン店であることしかあきらかではない。
店内を見渡すと既に数人の老人とPCに向かい会うサラリーマンが一人。そして僕と隣にいる彼。
僕と彼はお昼の時間から約一時間は隣にいる。
彼はそんなことが気にならないくらい。気にする事ができないくらい、暗い表情で悩んでいるようである。たまに僕が椅子を少し動かしたり、グラスを置いたりする音にも敏感に反応しているのが気にかかる。そんな人を見ると心配で放っておけないのだから、僕も困ってしまう。
彼が再びため息をついた。
「あの、どうかされたのですか?」僕は心底心配そうな声で話しかけてみた。
ところが、彼は反応を示さない。
あれ、聞こえなかったのかな。
「あのお」少し大きな声で語りかけてみる。
すると、彼は戦くように体全体を反応させ、飛び上がるように驚かせてしまった。
「あ、あ、な、なんですか?」
「あの、すいません。隣にいらっしゃって、具合でも悪いのかと思って」
彼は驚きの表情を和らげるが、緊張が顔を強ばらせている。
「あ、いや、大丈夫ですよ」彼は解けた氷のグラスを覗いて言う。
「あ、それならいいんですが。いや、僕が隣に来てからもう一時間程も同じような格好でため息をつかれていたので、心配になってしまって。」
「わ、私を見ていたんですか」男が顔の緊張をさらに強める。おびえているようだ。
「見ていたというか、隣にいる人からずっとため息が聞こえていたら気になるじゃないですか」僕は穏やかに言う。僕はあなたが怯えるような人間ではないですよという思いを込めて。
「そ、そうですよね。はは、失礼しました。」彼は笑えない顔で笑った。
「ちょっと考え事してたら、あ、もう二時になるんですね。仕事に戻らないと」
彼は急いでバッグを持ち、グラスの載ったトレーを持ち上げる。
緊張と急ぎを兼ね備えた彼は、見事に足を椅子に絡ませ、トレーからグラスがキレイに放り投げられる形でグラスが宙を舞った。彼からは、あっ、という微かなかな声が漏れた。

次の瞬間にはグラスとトレーはテーブルにキレイに載っていた。
彼は、あっ、と言った口のままテーブルを見やっている。
「気をつけてくださいね。悩み事していると物事はうまく進みませんよ」僕は少し微笑んでみせた。
彼はきょとんとして、僕を見て、トレーを見た。
「隣に座ったのも何かの縁です。もし宜しければ相談に乗らせてください。力になれるかもしれませんから。」
「あ、いや、大丈夫ですよ。ちょっとした考え事ですし、そんな見ず知らずの人に相談するような事ではないので。失礼しました。」彼は荷物を持ち直し、丁寧にトレーを持って出て行ってしまった。
僕は彼を見送ると、店内のジャズに耳を澄ませた。
そして思う。また、気になる人と絡んでしまった、と。

1-2へ続く



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